願い11
「その影はすべての力を奪うの。最後は収縮して一つの塊へと化す――大丈夫。すべては前みたいに断ち切らないから。また、生きられる。芹」
「瑠璃」
瑠璃は彼の言葉にかぶせるようにして声を吐き出した。
「可哀想な人ね。大体、姿を現さなければこんなことにならなったのに――消えることなんて覚悟しなければ――千里だって死ぬかもしれない、なんてこと無かったかもしれないのに」
まるで壊れた人形のようだと思った。感情をそぎ落としたように笑う瑠璃はいままでと何かが違う。そこには温かみ一つも感じられない。まるで別人のようだ。
見つめられる桜色の双眸はとっとと消えてなくなれ。そう言われている気がしてならない。私は思わず目線を外していた。微か、私の肩に回された芹の腕に力が籠る。
一瞬。彼女の眉が跳ねたのは気のせいだろうか。
「私は願いを叶えるためにここに居る。ただそれだけの為だから」
「願い――」
私は小さく呟いて顔を上げた。別に何かを考えていたわけではない。気づけば言葉がこぼれていた。
「――『芹が生きて幸せになること』だったよね。確か」
「ええ」
瑠璃は表情変えることなく私を見た。
「なら、芹」
芹が驚いた様子で私に目を向けている。その芹をまっすぐに見返すと彼はどうしてか視線を反らした。
「芹は何が幸せ? 封印されて幸せになれるの?」
であれば。いいかな。と少しだけ思う。それで彼が幸せになれるのであれば、今まで一族を助けてくれた彼にとってこの命など安いのかもしれない。
もちろん死にたくなどないけれど。
ああ、だけれど。と私は思い出したように息を付いた。もう遅いのだろうか。術は発動しているのだし。まぁ、気分の問題なのかもしれない。
「え――俺? 俺は」
言いよどむ声に重ねるようにして声を出したのは瑠璃だ。どことなく馬鹿馬鹿しそうに鼻を鳴らす。
「あなたがいてくれることでしょうよ?」
あなた――誰だろう。凪だろうか。一瞬心がざわついたが今は誰でもいいような気がした。そんな事に囚われていても仕方ないだろうから。私は息を付いて瑠璃を見た。
なぜか硬直した芹はどこか面白いがそんな事を考えている場合じゃない。
「じゃあ、封印したら『その人』と幸せになれるの?」
まさかの沈黙が落ちる。分かりやすい凪なんかは顔を大げさにひきつらせてみていた。
「あんた、本当の馬鹿でしょ? 『なれないから』嫌がっているのにというか、今までの流れのなにを見て来たのよ? 千里」
呻く様に凪が言う。瑠璃は冷たく私を見つめているだけだ。明らかに今までとは違うどこかゴミを見つめる感覚がするのだけれど気のせいだろうか。
「え?――あ、そうか。じゃあ封印しなかったらその人と幸せに?」
「なれない、という話をしているの。力が完全に戻れば『普通の人』とは交われなくなるし――そもそも『中藤 千里』根本が見えてなくない?」




