明星8
私は家にある私室の中でぼんやりと鏡を眺め弄んでいた。
窓の外は暗く街灯が煌々と輝いている。見上げる空は雲が立ち込めているのか星の瞬き一つ見えなかった。
一体、どう帰って来たのかよく覚えていない。途中晃子と会って何か話した気がするが何だっただろう。とにかく覚えていないのだ。憂鬱な気分を吐き出すように大きくため息一つ。
ごはんも喉に通らなかった。夕食の献立など何かなんて覚えていないほどだ。それは大変なことだと自分でも思う。
「……大丈夫かな」
呻いて私はベッドの蒲団に顔を埋める。
あの後、私は芹にあの場所追い出された。というよりは――あの二人が私の前から消えてしまった。嫌がる凪を無理やり連れ去ったという感じだろうか。
酷く頭の中が相変わらず混乱している。そもそも凪と名乗った少女は何者なのだろうか。二人ともどうしてか険悪で――酷いことになっていなければいいと思うけれど。
ただ、それ以上に気になるのは――と考えながら私は鏡を眺めた。相変わらず歪んだ私の顔が映り込んでいる。
その考えを遮るようにして部屋にノックが響いた。
「はい?」
私は弄んでいた鏡を机に置いて顔を上げる。
「千里。 晃子ちゃん来たから開けるわよ」
正直な所。誰にも会いたくなかったけれど。特に断る理由も見当たらなくて私は母親の声に『はぁい』と答えた。
ドアノブが回って晃子がひょっこりと顔を覗かせ満面の笑顔で手を振った。相変わらずかわいい。
「元気?」
私は肩を竦めて見せた。
「そこで会ったよね?」
『そうだよね』と彼女はクスクス笑う。ただその扉を閉めると彼女は崩れるようにして座り込んだのだが。まるで酷く疲れているようだ。帰り道ではそんな様子など一切見せなかったのだけれど。
「え? 晃子?」
私は慌てて晃子の背と壁の間にクッションを押し込んでから額に手を当てた。彼女は『ありがと』と小さくうわごとの様に呟いた。
「どうしたの?」
熱でもあるのだろうかと思ったのだけれど――私は思わず息を飲んでいた。驚くほど冷たい。生きているのだろうか。そう思いたくなるように。
「晃子!?」
弾け飛ぶように立ち上がると私はベッドから布団を引きずり降ろし彼女の身体に掛けた。少し息が荒いようにも見える。どうしてこんな身体で私に会いに来たのだろうか。だがそんな事を考えている場合ではない。
泣きそうな思いで、口許を一文字に結ぶ。携帯を乱暴に掴むと震える手で番号を押そうとした。だが――その手を晃子の滑らかな指が制するように掴む。
「あき、こ?」
「千里様。私ですよ?」
声に思わず私は携帯を鈍い音を立てて落としていた。確かに声は晃子だ。その姿も双眸も。けれど。
「芹?」




