明星6
何か心が塗りつぶされていくように暗くなっていくような気がした。まるで拒否されているようで。けれどそれとは裏腹にどうしてなのか私は満面の笑顔を浮かべている。笑顔で芹が今どんな表情をしているかなんてもう見えなかった。
「あ? ごめん。迷惑だったよね。そうだよね。――でも。ありがと」
身を翻し走る。早くいかなければ。と思った。早く。早くここから去らなければ。それが『どちら』を思っていることか私にはもう分からない。『逃げたい』なのか『助けたい』なのか。混在して頭がぐらぐらと揺れている気がした。
ただ、苦しいのだけは間違いない。
私は屋上を弾けるようにして出ると階段を滑る様にして降りた。授業を行っている教室の隣を走り過ぎ、渡り廊下を抜けていった。
迫るようにして視界に入ってくるのは大きな体育館。やはり授業は行っていないらしく、不気味に静まり返っていた。覗き込んで誰もいないのを確認すると、私は慌てて上履きを脱ぎ捨てるようにすると中に上がり込む。目指す処は奥まったところにある準備室。足を踏み込むたびにうるさいくらい大きく足音が反響した。
重い――軋むような引き戸を開けるとそこには秋だと言うのに些か蒸し暑い気がした。薄暗い準備室。卓球台やマット跳び箱やボールが所狭く置いてある。けれど。
「あれ?」
間抜けとも思える自分自身の声が響いた。だれも居なかったのだ。いた形跡も無い。芹が嘘を付いたと思えなくて目を丸くしていると、背中から響く様にボールが跳ねる音が低く響く。
確かに誰も居なかったはずの体育館。私が振り向くと見覚えのある少女。
『深見 彩』がバスケットボールを床に弾いていた。けれどどうしてだろうか。その横顔は、以前と別人のように大人びて見えた。そう、何もかも雰囲気を異にしている気がしたのだ。
彼女はゆっくりとした動作で私に目をむけた。暗い双眸は以前とは違い光さえ灯っていない。そんなように見えたのは気のせいいだろうか。
やはり、何かあったのだろう。外見は何ら変わっていないようだったけれど。学生服一つ乱れていない。
私は微かに拳を握った。
「だ、大丈夫? き、木下さんたちに連れて行かれたと」
「先輩。やっぱり来てくれたんですね」
私の心配とはよそに彼女は柔らかく笑って見せた。ただその眼は笑っていない。どこか憎む様に私を見ているそんな気がする。そんな目は以前にどこかで見たよう思えたがいまいち思い出せなかった。
「な、なにか、されたの?」
窺う様に言うと彼女は微かに笑みを浮かべたまま、バスケットボールをきれいなフォームでゴールに投げ込んだ。どこに当たることなく見事に入るとそれは軽い音を立てて床を何度も跳ね体育館にその音を反響させる。




