明星4
「はっ?」
一瞬何を言われているのか理解できなかったのだが、ようやく理解すると思わず間抜けな声を上げていた。どうしてそんな事になっているのだろうか。あの一年生とはあれから一度も会っていないし、音楽室に行くときは頼み込んで少女姿の芹に付いてもらっている。
そう言えばさすがの一般生徒も芹には近づけないようだった。どこか異質とも思えるほどの美人には。
ただし、例外は『ファンクラブ』だろうか。なんか会うたびになだめているような気がする――もちろん笑顔で殺しましょうとか呟いている芹を、だけれど。
「だから、嬉しそうなのかなって――誇張して回っているようだし。大丈夫? あの子。木下さんたちが眼の色を変えて探し回っているみたいだけど――」
私は一瞬にして血の気が引いていくのを感じていた。
『木下 このみ』と心の中で呟いて、思い出していた。隣のクラスの少女で確か『ファンクラブ』初期メンバーの一人だ。それゆえ矜持はなんだか高いらしい。何の矜持なのかなんてよく分からないけれど。
「あ、中藤さん!」
とにかく――考えるまでもなく私は身を翻していた。チャイムが鳴るのも気にせず屋上に向かう。静止しようとする教師を無視し、誰もいない階段をパタパタ軽い音を響かせながら駆けあがった。
あそこにいる。と私は確信していた。木下さんでもなく、深見さんでもない。『彼女』は居る。
屋上に続く扉を私は乱暴に開けていた。そこには抜けるような蒼天。その下に彼女は立っていた。
ふわりと白い髪が風に舞う。まるで絵の中に入り込んだかのような空想的な図だと思った。
桜色の双眸をゆったりと動かすと彼女は私に目を向けた。ずっとここに居たとは思えない。しかし彼女は待っていたと言う様にふわりと笑う。
「あ」
笑顔に反応するようにして心臓が鳴ってしまう。彼女の顔にはもう慣れたはずだったのに未だ少しだけ顔が紅潮するのを感じた。
少女の腕には私が送った銀のブレスレットが輝いている。ただしメンズものであるため『今の芹』には細すぎるらしい。ミサンガで落ちないように留めてあった。
「芹っ!」
「はい?」
ズカズカ歩いて彼女の横に並ぶといかに芹が小さいのが分かる。私の身長が高いためもあるけれど、どうしても見下ろす形にどうしてもなってしまう。何となく悲しい。
「ごめん――芹。本当に悪いとは思うの。けれど、今すぐ、今すぐ深見さんの場所を調べてくれない? できるよね?」
いつも私の場所に正確に現れるのだから、そんな事造作も無いのかもしれない。そんな事を考えながらここに来てしまっていた。勝手な妄想とお願い。そんな事本当は頼みたくない。けれどもし頼めるのなら一つ一つ潰していくよりも早く着くことができる。そう思ってしまったのだ。
「嫌です」
『出来ない』ではなく『嫌だ』と芹はきっぱりと言いきった。少し不快な顔。『深見』と言うその名が誰を指すのか分かったのだろう。
「芹」
ため息一つ。
「どうせ助けようと考えているんでしょう? ――あの時だって放り出してしまえばよかったのに。千里様が私を頼ってくださるのは嬉しいのですけど。もっと違う事で頼ってくださいませんか?」
どこか棘のあるような声を無視するように身を翻す。時間の無駄だ。急がなければならない。助けないと。
たぶん私の所為だから。何とかしないと。口許をぐっと噛み締めた。
「うん――邪魔してごめん。一年の子に聞いて――」
突然、乱暴に手首を掴まれた。明らかに少女のものではない大きく骨ばった掌は相変わらず熱を持っていない。石の様にひんやりとしていた。




