鏡
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見上げると青く高い空が広がっていた。綿雲は泳ぐようにゆったりと流れ、鳥は風に乗るようにして優雅に空を泳いでいる。それはとても気持ちよさそう見えた。私もすべてを捨ててあんな風に空を飛べたら、と思う。だけれどそんな事夢物語と言うのはどう考えても分かり切ったことだった。
踊るようにして私の周りに一陣の風が吹く。それは頬を掠めて髪を巻き上げていった。
ここは私が通っている女子高の屋上だ。街の高台にあるためなかなか見晴らしがよく、私は毎日昼休みの度ここに来る。しかしながら私以外の人間が寛いでいるところを滅多に見ることなんて無かった。
「申し訳ないことをしたかな」
ため息をついて一人呟く。
私がここに始めた当初――一年の初めぐらいは人気スポットだったらしく確かに人はいたのだが。二年に進級するころにはすっかり人気も無くなっていた。もちろん私が何かをした。と言うわけでもなく、いじめられているのでもなない。ただ、彼女らはここからいなくなってしまったのだ。私に遠慮をしたというべきか、この学校の生徒に遠慮したと言うべきか。
私はもう一度深くため息を吐き出した。
『そろそろだろうか』と私は小さく呟いて、肩を落とすと入口に目線を流した。
「あ、お姉さまぁ!」
「先輩!」
「千里様」
「来てあげたんだからね」
あまり嬉しくなどない呼称を口々に連呼しながら、ぞろぞろと連れ立って屋上に入って来る少女達。私は彼女らに向けて引き攣った笑いを浮かべて見せた。後輩に同級生。先輩も居る。もちろん友達でも何でもない。まともに会話したことさえない少女達ばかりだ。こんなことなんて本当に馬鹿らしく言いたなど無いのだけれど、彼女らは私の『信奉者』とも呼べる存在だった。つまり、私は彼女らの最も身近なアイドルと言った所だろうか。
思わず頭を抱えそうになってしまう。当然のことだがそんなものに好き好んでなったわけではない。気づけばそうなっていたのだ。確か一年の半ばごろ――クラスマッチのあったぐらいだろうか。本当の所何が起こったのか私にもよくわかっていない。
とにかくこの通り彼女たちは私の周りに居る人間は排除するという傾向があるし。『やめてほしい』と一度お願いをしてみたのだけれど私の言葉など聞き耳持たないようだった。自分たちの行動は正しいと思い込んでいるらしい。
もう笑うしかないだろう。
おかげで私は未だこの学校で友達一人もできないでいた。もう二年生の二学期だと言うのに。それに反比例するように『ファンクラブ』と言う存在はなぜか本人非公認であるにも関わらず大きくなっているようだった。
そんな私の葛藤に彼女らが気付くはずなど到底無いだろう。彼女らは満面の笑みを浮かべながら私の前に立つと大きなお弁当袋をそれぞれ差し出した。
「……今日もありがとね」
いつもいつも。ご丁寧に。と思うがその笑顔はどうしても引き攣ってしまう。いつもの事だが気付いてはいないだろう。彼女達には私の『何』も見えていない気がする。
――私は普通の女子でしかない。平均よりちょっと身長が高いだけで。食事の量は何ら変わらないし体重も気にかけている。だから食べきれるはずも無く、最近の夕食はこのお弁当を囲んで夕食が当たり前になってきていた。
少なくとも母は喜んでいたけれど、父と妹はそろそろげんなりしていただろうか。
「でも、いつも作ってこなくても。大変だし」
微かに震える声を『感激』ととらえたらしい少女は胸元で握りこぶしを作った。私としては少しでも空気を読んで欲しかったのだが、読む気などさらさらないらしい。
「大丈夫です! 先輩の力になれるなんて嬉しいです――昨日のお弁当はおいしかったですか?」
昨日の分の空箱を返しながら私は曖昧な返事を返した。残念ながらこの少女が作ったものなど、どれだったか覚えていない。だがそれを『おいしかった』と勝手に判断したのだろう。彼女は嬉しそうに顔を輝かせた。他の子たちも『良かったね』と讃えているがなんだか殺伐としているのは気のせいだろうか。