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十六夜鏡  作者: stenn
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明星

 ――きれいですね。彼はそれを見て小さく呟いた。


 闇が落ちる公園。相変わらず異様な静けさだけが広がっていた。夜に溶け込むような髪と目を持つ青年は私から差し出された銀のブレスレットを眺めていた。漆黒のその双眸は何を考えているのか窺い知ることは出来ない。ただ、それをぼんやりと見つめている。


 月のモチーフが施されたブレスレット。それはまるで今浮かんでいるような月を模したかのようだった。


 その整った横顔を眺めながらどちらがきれいなのだか。と私はふと思う。もちろん声になど出すことなんてできないけど。


「私の為に?」


 彼は顔を上げて不思議そうに私を見た。思わず見とれていたことに気付いて私は慌てて目を顔を反らしていた。


 こんな事慣れているわけでもない。――しかも男性に送ったことなど一度も無かった。それがたとえ何の含みもないお礼であっても。恥ずかしすぎて顔が紅潮するのが分った。


「う、うん。お礼に――とも思ったんだけど。いろいろしてくれたし。いっ、いらないなら」


 何がいいか。悩んだ挙句ブレスレットで落ち着いた。食べ物でもと思ったがいつ会えるか分からなかったし。芹がいつ現れてもいいように軽々持ち歩けるものをと考えて――今日だって示し合わせたわけではなく、久しぶりに会ったのだ。コンビニに行く途中にここに寄っただけなのだけれど。


 芹はくすりと笑うと肩を竦めて見せた。


「私が千里様ま為に何かすることは当たり前です。気にすることではないです。そんな事。それにお礼なんてしていただくわけには――」


 彼が言い切る前に私はベンチから立つ。分かっていたのだ。どこかで迷惑かもしれないと。だけれどお礼の気持ちは何かしたくて。


 仕方ない。何か――やっぱりケーキ辺りが良いだろうか。


 『いらない』そう最後まで聞くのはなんだか傷つくような気がして私は無理に明るく声を発していた。


「あ。ごめん迷惑だったね。やっぱり――うん。じゃあ今度ケーキ食べに行こう? 私がおごりっていう事で。晃子も誘って」


 うん、やはりそちらの方が楽しそうだ。自身で考えてもそう思うのだから芹にしてみればなおさらかもしれない。


 苦笑交じりにブレスレットに手を伸ばすと私の手を拒否するようにして芹はそれを隠した。分からなくて顔を顰める私になぜかニコリと笑顔を返す。


「? ――いらないんじゃ」


 分からなくてパチパチと目を瞬かせた。


 もしかして遊ばれているのではないだろろうか。そう思ってしまう。何故なら芹は確かに笑っているのだが、私には芹が嬉しそうには見えなかったからだ。


 それはどこか含みのあるようにも見えた。


「いらないなんて言ってません。いただきます――ありがとうございます。千里様」


 なんだか棒読みのような気がするのは勘ぐり過ぎだろうか。


「無理はしなくても――」


 苛立たしく感じて私が奪おうとすると芹はひらりと避けた。悔しくなって思わず睨んでしまうが彼は相変わらずの笑顔のままブレスレットを手で弄んだ。


「無理はしていないし、本当に嬉しいんですよ。私――千里様が私の為に一生懸命選んでくださったのでしょ?」


「――う。うん。まぁ? 一生懸命ではないけど」


 そう言われるとなんだか照れてしまう。私は彼から目線を外すとポリポリと痒くも無い頬を照れ隠しの様に掻いた。


「礼など瑠璃様から返しきれないほどいただいています。だからお礼ではなく贈り物として受け取りますね」


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