風花6
結局――ありがとう。と言えなかった。
考えながら肩を落とし、私は憂鬱な分で音楽室に向かう廊下をとぼとぼと歩いていた。
私はここを歩くのが嫌いだったが、音楽室は一年生の教室前をどうしても通らなければならない。いつも思うのだが、何が面白いのだろう。彼女たちは教室から身を乗り出し、私を見て騒いでいる。甲高い声が脳裏まで響くような気がして頭を軽く抑えた。
「それにしても」
一人呟いた。
あの帰り道お礼にどうせ寄るのであれば、お礼にドーナツを芹に奢ろうと思ったが情けないことにお小遣いが行方不明――いや。単純に使いきっただけなのだが。結局『いいから』と晃子に奢ってもらいそのまま別れた。何も一言もその話題に触れることなく芹もあっさり消えたため私は未だに何も言えてない。
情けない。
大きくため息一つ。私は締め切られた窓を見た。低くどんよりとした空だった。まるでこの心の様に。雨でも降るのだろうか。北風も強く木の葉が舞っている。
またの機会あるだろうと思っていたのだが。機会とはすぐ訪れる物ではないらしい。あれから一週間になるが一切見かけていない。
「やっぱ。あれで最後だったかな?」
仕方ないかもしれない。そう、思う。
「あのっ!」
声を掛けられて思考を停止し立ち止まると目の前には一人少女が立っていた。麻色の髪と大きな黒い双眸で挑む様に私を見ている。どこか気が強そうに見える少女だ。強い決意が垣間見られる雰囲気に嫌な予感が走って私は思わず身構える。
「なに?」
ただしっかりと社交スマイルを浮かべている自分が情けない。
「先輩。わ、私。い――一年の『深見 彩』って言います。」
ゴクリと唾を飲みこむ音が聞こえたような気がした。彼女の後ろには応援団みたいな少女たちが心配そうに見つめている。
「う――うん?」
「つ……」
顔がみるみるうちに赤く染まっていく。耳まで。それはとてもかわいい光景の様に思えた。だがそんな事考えている場合ではない。こうなると次に出る言葉は容易に想像できたからだ。
逃げ出したい気分に駆られて二、三じりじり滑る様に退いた。
「付き合ってください!」
半ばその校舎全体に響き渡るような声に私は心の中で悲鳴を上げていた。もしかしたらこういう事を『公開処刑』と言うのかもしれない。彩にとっても私にとってもいいことではないはずなのに、どうしてこんな事を選んだのだろうか。
彩の後ろで歓喜が巻き起こるが同時、違う方向からヤジが飛んでくる。なんだか暴動でも置きそうな勢いだった。
怖い。――一色触発と言う雰囲気に顔が思いっきり引き攣った。
「え。 とね?」
廊下の向こうに『ファンクラブ』のメンバーを確認していた。私は息を飲むと少女の手を掴む。そして逃げるように駆け出していた。怖い顔だ。あの時の芹はともかく何をこの少女がされるか分からない。
「分かってる? ――これからろくなことにはならないと」
「はいっ」
かなり舞い上がっている彩は絶対分かってないし。口端が引き攣るのを感じていた。




