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十六夜鏡  作者: stenn
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風花5

 面白いように頬が染まる。とても分かりやすくたじろいで見せた。好きなのだろう。どう見ても。それがどちらの姿なのか私には見当もつかなかったが興味もない。


「はっ? そ、そんなんじゃ――。」


「でも、だめね。芹ちゃんは瑠璃ちゃんと言う子が好きだって言ってたよ」


 さらりと止めを刺している晃子に少女は悔しそうにぎりぎりと歯ぎしりをしている。


 それにしても、一体二人で何の話をしていたのだろうか。楽しげに女子会を繰り広げている光景が目に浮かんだ。


 まぁそれ以上に不思議だったのは、少なくとも晃子の中ではすべて女性だろう。登場人物は。変だと思わないのだろうか。


 ある意味晃子は心が広い。


 凪は苦し紛れに声を吐き出した。


「ぐ――違うって言ってるの! つ――ついでに言わしてもらうと『瑠璃』って現在中藤家の始祖だから。そんなのには意味ないから」


「――ん? 先祖?」


 なんだかよく分からなくなったらしい。それはそうだろう。私を見ると晃子は首を捻った。


 ああ、でも私に芹が自慢げに言っていた『瑠璃様』がようやく何者か分かってすっきりしたような気がする。


「とにかく、もう関わらないで。約束したから次は無いわよ?」


「え? ヤクソクって?」


 そんなものした覚えはない。そういう前に彼女はもう遠くに離れて行ってしまっていた。大声を出すのも馬鹿らしくて私は息を付く。


「ごめん。晃子」


 言うと彼女は苦笑を浮かべた。


「あの子人気あるねぇ。確かにすごくかわいい女の子だったけど――もう会わないの?」


「うーん」


 別に凪が言ったことを守ると言う気はさらさらなかった。会えたら会う。ただそれだけのことだ。今ここで彼女とこうしていられるのはやはり何度考えても、芹の功績が大きい。私だけだとずっと迷っていただろうから。そのことで次会った時はお礼も言いたくはあったが。


 ただ、なんだか私はもう会う事は無い予感がしていた。勘にしかすぎないけれど、きっと私の願いは叶ったのだから。こうして誰かと笑っていられることが今の願いだから。他には何もない。


 多分。きっとそうだ。


「私はね、千里にあの子と仲良くしてほしいのよね。あの学校で友達なんてほんと初めてだから。今度みんなでドーナツ食べよ?」


 言いながら改札を出て行く。私もその後に続き改札を出たのだけれど。


「そうですね。食べましょう。私こう見えても甘いものが好きなんですよ」


 肩に軽く手が掛かって私は思わず持っていた――やはり貰い物だが――お弁当を落としてしまった。


 ばらばらと鈍い音を立てて転がってしまう。その端からはエビフライが零れ落ちた。


「――ひ!?」


 驚きすぎて棒立ちの私の前にいたのは、噂の少女――芹だ。私の予想をあっさりと覆して現れた美少女は『すいません』と申し訳なさそうに呟くとお弁当を片付けている。


「芹ちゃん。一緒の電車に? いたなら声を掛けてくれればよかったのに」


 大物と言うべきなのか晃子は大して驚くことも無いらしい。笑いかけている。


「……そういうわけでもないんですか」


 少し苦笑を浮かべて見せ、片付けたお弁当を手に持った。私が手を伸ばすとさりげなく拒否されたので、持つと言う事だろうか。


「芹ちゃんの友達もたった今までいたのに――凪ちゃん。だっけ――ねぇ。千里」


「う、うん」


 彼女は少し驚いた顔をしていたが少し考えるようにして口許に手を当てた。微かだったけれど両眼に影が走ったのは気のせいだろうか。ただ、次の瞬間彼女はにこりと私達に笑いかけていたのだが。


「気にしないでくださいあの子が言う事は。私の妹のようなものですので。私を心配しているだけですから」


 どう見ても『そのよう』には見えなかったけれど。それは晃子も思っていたようでどことなく複雑な顔をしていたが声に出すことは無かった。


「とにかく食べましょう。仲直り記念ですよ。よかったですね」


 そういうと自称『精霊』と言ったくせに目標の店があるのか前を足取り軽やかにずんずんと進んでいってしまった。


「いきなり、会っちゃったねぇ」


 晃子が面白そうに言う。なんか本当に楽しんでいる気がするのは気のせいだろうか。私は少し困ったようにして苦笑いを浮かべる。


「――うーん?」


 それにしても。と私は息を付いた。次に凪に会ったら私はあの憎しみで殺されるのだろうか。と考え空を仰いだ。


 赤く染まった雲がゆったりと流れている。


「まぁ。仕方ないよ」


 苦々しく呟いて私達は『遅い』と言いたげに足を待っている少女に追いつく様に小走りをした。



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