風花2
昨日――確か夢でなければ、公園にいた幽霊――または幻――らしき青年の名前だった。鏡に住んでいると言い放った美しい人。だけれどあれは『男性』だった気がする。断じてこんな可愛らしい少女ではない。しかも目も髪も漆黒で。『白』の印象を受ける彼女とは正反対だった。
だけれど。
――幽霊なら。ありうるのだろうか。性別を変えると言う事は。
「この学び舎は女性ばかりしかいないようなので。この姿の方がいいと思いました――しかし、ま。やはり改めて感心させられます。瑠璃様は美人なのだと」
何やら、のんきな笑顔でやはりどこか自慢気だった。しかしながら、そんなのんびりしている場合ではない。その『こと』にようやく気づいたのだ。彼は幽霊らしき者だ。と言う事に。そう考えると背筋に冷気が走るような気がして飛び上がった。
そう幽霊らしき者なのだ。やはりこの人は。何やら明るいけれどあの鏡に付いた霊。私は呪われたのだろうか。よからぬ考えに一気に血が引いていくように思えた。
それに反応するように芹は驚いた様に顔を上げた。
「何ですか?」
「あ? ええと。授業が?」
少々引き攣った笑顔で愛想笑いを浮かべてみる。天の助けとも言うか――同時、私に助け船を出すように予鈴が響いていた。私は胸を思わず撫で降ろす。
あと五分で授業が始まりと言う事だ。どっちにしろこれ以上は関わりたくない気がする。
「そう、ですか。では休み時間迎えに行きますね」
少し考えた後で決定事項の様に彼女は言うとニコリと微笑んだ。
「――え?」
なぜ。私が口を開く前に芹は薄い唇を開く。口紅なんて必要ない赤くつやつやした口許だった。少し羨ましいと思ったりもする。
「言っておきますが、私は誰にでも見えますよ。今はそのようにしてあるので。だから、ホラ」
目線を芹が入口に向けると見覚えのある取り巻き女子たちが嫉妬も隠すことなく芹を睨み付けていた。殺そうとばかりの勢いで。
直接私に対して向けられていないと言え――怖い。泣きそうだ。ジワリと背に足が滲んだ気がした。
だけれどそうも言っていられない。明らかに芹に何かをする気は満々なのだ。見過ごすことなんて私にはできるはずも無かった。私は認めていないけれど、『私の』ファンクラブなのだ。何とかしなければ。
ぐっと息を飲みこんで、私は彼女らに声を掛けようとした。
――だが。言う前に制したのは芹だ。
「大丈夫ですよ。私はこの学校の人間でもないし。女性でもないですから。ましてや――あの人たちの記憶を変えるのなんてきっと造作も無いこと。やってみなければわかりませんが」
ふふふ。と他意の無い笑顔。本当かどうだか分からないが芹の方が感覚的にまずい気がする。呪うのだろうか。やはり。私は彼女を見つめた。
「なんだか分からないけど、あなたもやめて」
なんだか分からないが怖い。
「じゃあ、やはりここで話をしましょう」
軽く笑う芹に私は『なぜ』と言わんばかりに顔を顰めて見せた。
「嫌だよ。授業があるもの」
時間が刻々と迫ってきているのは分かり切っていた。舌打ち一つ。『行こう!』そう言って慌てて駆け出していく少女達の後ろ姿を見送った後。私は困ったように芹を見た。
「千里様の成績はトップクラスだと聞いておりますが――かまわないでしょう?」
悔しいが勉強ぐらいしか取り柄が無いので――確かにその通りだが、なぜ彼が知っているのだろうか。考えると何となく怖い気がしたので私はその考えを封印した。
とにかくそんな事よりいくら成績が優秀だからとサボっていいという答えにはなっていない気がした。
無視をしていこうかとも考えたのだか、しっかりと腕が掴まれている。華奢に見える外見と反比例するかの力強さだった。これでは動くことは出来ない。
「――なぜ?」




