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十六夜鏡  作者: stenn
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風花

 私は今日も屋上に来ていた。昨日とは同じようで違う空の姿。遠くに青く見える山の上には暗い雲が立ち込めている。昨日よりさらに冷たくなったような風は季節が進んでいることを物語っていた。


 どこか疲れ切った身体にはそれが心地よく、私は目を閉じた。


 いつもの様に弁当を食べ終わって伸びし、新鮮な空気を肺に入れる。何も変わらない。そう思う。きっと。これからも。ずっと。明日が来て明後日が来て。そう毎日は淡々と進んでいくのだろう。


 憂鬱に私は携帯を取り出すと画面を眺めた。


 あの後、依然として晃子からのメールは無い。もちろん私も出すこととができなくて。言い訳をすれば課題提出で忙しかった為もあるのだけれど、それよりも何を書いていいのか分からなかったのだ。画面を開いては閉じる。


 それをどのくらい繰り返したことだろうか。


「やっぱり、ごめん。かなぁ?」


 分かっているのだ。本当に酷く大人気なかったことは。連絡をしたところで許してくれるかどうかは分からなかった。赦してくれなければと思うと、それが怖い。


 私は画面を開いて、文章を書こうとする。けれど出来なくてまた閉じる。傍から見たらひどくおかしな光景だろう。


 実際、違う高校に通っている万里まで朝目撃され冷たい視線を浴びた。『千里ってそんなところあるよね』と言い残し違うホームに歩いて行ったのが悲しかった。


 ため息一つ。


「何が?」


 突然声を掛けられて私は大げさに身体を跳ね上げた。思わず手放した携帯は滑るようにして床に転がる。それは細く私より小さな足元にたどり着いた。


 視界に入る滑らかな指。それは私の携帯を拾い上げた。


 大体人なんて来るとは思っていないのだ。驚きもするだろう。その人は唖然とする私にクスクスと声を上げて笑う。私は不満げに顔を上げていた。


「はい――どうぞ」


 言われて私は絶句した。そこには柔らかく風に流れている白髪。桜色の双眸。象色の白い肌をした、絶世と言ってもいいほどの美少女が立っていたからだった。それは晃子や万里――どのタイプとも違う。日本人でも無いように見えたし、どこか人間離れをしているように見えた。


 ――そう。昨日のあの青年の様に。その身に纏う雰囲気もどこか似ている気さえする。


 タータンチェック柄のスカートが風に揺れ、その度に白い太ももが見え隠れした。それは私が見てもどこか艶めかしい。


 彼女は私の隣になぜかストンと軽い音を立てて腰を掛けた。なぜか隣に座るのは当然だと言わんばかりだ。


 どこか銀にも見える白髪がふわりと舞う。


「えっ、と」


 そもそも、この学校でこんなに目立つ女の子いただろうか。こんな美少女がいれば大騒ぎになると思うのだけれど。


 しかも。と私は思う。私の事を知っていればわざわざ近づかないはずだ。近づくとしたらよほど何も知らないか、無鉄砲かどちらかだろう。――馬鹿とも言うがそうは見えない。


「どうです? 瑠璃様を模してみたのですがおかしいですかね」


 困惑を無視するようにして少女はなんだか好き勝手な事を言っている。微かにその横顔は嬉しそうだった。頬を赤らめる彼女は、何となく恋する乙女の様に見える。


 やばい人なのだろうか。少しだけ腰を滑らすように少女から離れた。


「だって、瑠璃様は少しどこか千里様に似てると思って」


 何を言っているのか分からないが、なんだ。とようやく理解して私は息を付いた。『様』なんて恥ずかしすぎる呼称。『ファンクラブ』の一部しか使わないのだ。にしてもそんなものになぜ入ったのだろう。美少女なのに。そう思ったが口から付いて出てくることは無かった。


「……ファンクラブの人? だったら私とこんなところに居るとどんな目に合うか分からないし。ここが良いなら私は」


 立とうとすると彼女はそれを制するように私の袖を掴んだ。桜色の双眸が甘えるように覗き込んでいる。


「え?」


 かわいかった。私は何となく行き辛さを感じ、再び腰を落とす。それを見た少女は自信満々に胸元で拳を握った。


「よかった、さすが私の瑠璃様。いつも美しくていらっしゃる」


 ご機嫌らしい。微かに鼻歌が混じる。


「――えっと。誰?」


 彼女は少し考えるようにしていたが、しばらくして『あっ』と声を上げた。自己紹介をしていなかったのをようやく思い出したらしい。


「昨日も言いましたが私は『芹』です」


 挨拶するように小さく頭を垂れた。


「……は?」


 さらりと言われる言葉に私は間抜けともいえる声を返していた。


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