雨女
私は激怒していた。
いつまでもプリンターの使用権が回ってこないからだ。
コンマ数秒で人生が変わるといっても過言ではない、そんな地点にいる。
では、どうして人生が変わるのかという点なのだが、一重に自分が悪い。
今日に限って大学のパソコンの使用率が高すぎる。
分かっている、提出日ギリギリまでやらなかった自分が悪いことなど。
いや、しかし、貧乏学生には悲しきかな。アルバイトをせねば生活が出来ないのだ。
嘘をついた。
正直に言おう。ハマっているゲームに新作が出た。
やりこみ要素の高いそれに夢中になっているうちに、今日になっていたのだ。
そんな有様を見ていた友人様に、レポート写させて欲しいと頼んだが、自業自得とのこと。
ま、そうですよね。そううまくいくはずがない……。
即座に自主休講をして、なんとか形にはした。
そこで気づいたのだ。
提出しようにもプリンターが開いていないと!
どうする、どうするんだ。
家に帰ろうにも一時間はかかる。その間に提出期限は過ぎる。
単位習得不可、留年こんにちはだ。
いつまで印刷してるんだよ。
肩を怒らせていると、同じ学科の男が声をかけてきた。
「さっきから立ったままだけど、どうした?」
「レポート、印刷、不可、留年……」
頭のなかをグルグルと駆け巡る死亡フラグが、この上なく私の寿命を縮めている。
「ブハッ、レポート印刷したいけどできないって? 待ってろ、知り合いいっから貸してくれって頼んでくる」
少し離れた場所で見守っていると、彼がうまく頼んでくれたようだ。
手招きをしている。ナイスだ、山田(仮)
「助かった、さんきゅ」
「お礼といってはなんだけど、今度駅前の喫茶に行かないか?」
印刷は完了した。
何か山田(仮)が言っているが、後で聞こう。さらばだ、山田(仮)
意気揚々と東館を出た時、事件は起こった。
雨だ。これではレポートが濡れてしまう。
ここでも雨女の力を発揮しなくてもいいから。
怒りで、雨が蒸発するんじゃないかとさえ思った。
あと、わずか数分。
どうするかは決まっている。
「あー、コンマ30秒セーフだねぇ。先生は残念だ」
息切れして、なかなか話せない。
無言で、レポートを差し出す。
「どうも。でも頑張ったねぇ、この突発的な豪雨の中、レポート守って君がずぶ濡れだもの。
やっぱり君が提出する時には95%の確率で雨が降ると立証されそうだよ」
小声で儲かったなと聞こえるんですけども、先生たちでなにしてるんですかね。
とにかく、単位くれ。