世界で一番になれる力
学校の補修授業が終わった。
校門を出る。
同じ制服の少女たちがポテトの前後を歩いている。
「このスカート、よくなくな~い」
「なんで?」
「こないだ、階段で、風が下から吹いてきて、スカートがまくれて、下が見えないんだよ。階段、下るとき、困んない?」
「それ、ある。ある」
「なんで難しい問題が分かるの?」
「だから~♪」
「ブカツぅ、きつくね?」
「チクる人、気持ちって、分かんないね」
「うん。感じ、分かんない」
ポテトの周りで、少女たちが笑う。おしゃべりが聞こえる。
ポテトは、声をかけない。
一人で歩いている。
波に乗れない。
駅前まで、下を向いて、歩く。
ポテト、時間かけておにぎり十個ぐらい食べろって、城山さんにいわれていたね。
スーパーで、80円のおにぎりを買った。
三つ、食べた。
後は、コンビニ袋の中に入れておく。マジソン・バックの横に下げた。
「なんか、へんなオマジナイみたいだ」
ポテトは、学校嫌いか?
「キライじゃないよ。なんで?」
あまり、話さない。友達と今日は話していない。
「話をあわせるの疲れる。私、差別されてるから。違うから。お金ない。親もない」
差別、されてるって、自らいっていない?
「そうかも。でも、違うよ。中学で働く人と、大学まで働かないで楽しめるのと」
自転車に乗っている女の子、いないしね?
「ママチャリじゃ、話しにならないよ。本気で踏んでる娘、いないモン」
自転車が一番?
「遠くまでいける。どこまででもいける。自由だよ。楽しい。お金になる」
仕事で走るってこと?
「それもあるけど……。一番になれるかもしれない」
一番になれば、変えられる?
「すべて変えられる。私を知った人が、私を使って売り出す。体じゃ、悲しい。けれど、能力なら未知数だ。キャラクターなら無限」
駅前のガードレールに腰掛けて、蒼空を見上げて、話している。
暴力団の会社から帰るときに、話してたね?
「うん。あの時、分かったんだ。私のからだ、百万円になるって。裸になれって、脅された。脱がされた。怖かった。でも、そん時、分かった。体なら百万円程度。でも、資本だ。この体を一億円にできるのは私だけ。もっと魅力的な人間になる。私の魅力は足だもん。世界で一番の女性サイクリストになる。そこなら私の魅力は無限大だ。女性でレースに勝てる人は少ない。私ならできるって。そして、世界の子供のために……走る。走れば、きっと、いや、ぜったい何かが生まれるんだ」
駅前。待ち合わせの場所に、かわいいカブリオが停まった。
ポテト、フランス車ゴルディーニの赤だ。リッターでツインターボ相当出力のインバータ・モーター搭載、最新エレクトロニック・ビークルだよ。
ドアを開けて、細身のジーンズに、フレアのシャツを着こなしたショートカットの女性が降りてきた。
純子さんだ。