いい女が勝つための鉄則
スピードメーター。走った距離と速度を表示している。
ハンドルにつけたスピードメーターが
走行距離37キロメートルを示している。
降り坂。もう終わりそうだ。
木々に囲まれた美ヶ原ハイランドウエイを抜ける。
市街地に飛び込む。
そして3キロメートルでフィニッシュだ。
あと1キロには、抜けそうなコーナーがない。
もう、降り坂が終わるのに、
ジョジの横に出られない。
ジョジを抜くことができない。
ジョジの前に出るには、二つの方法しかないよね、ポテト。
「方法、その1。ジョジ選手より早く、コーナーに入る」
「方法、その2。ジョジ選手が遅く、コーナーに入る」
ジョジは、ポテトの考えが分かるのかな?
わたしが入る隙間がなくなった。
右に行けば右、左に行けば左に、
ポテトの動きがブロックされる。
降りの風景が終わりつつある。
ジョジ・イノー選手。白人の大きな体をブンブン回して走る。
わたしは、一人。後ろから、城山さんもネコさんもこない。
どうしようか?
「純子さんのメッセージどおりにいかないね」
“……男たちが競うようにする。戦わせるの。いい女が勝つための鉄則のひとつ……”
“ポテトちゃんは、男の人に「速く走って」って言えばいいのよ”
“後ろから突っついて、早く走れって伝えれば、いいわ”
“男どもは、ポテトちゃんを勝利に連れて行ってくれるわ”
“そして最後の最後で裏切るのよ、いい女は、……降り坂で勝負よ”
純子さんが話してくれた。
実際、そうカンタンにはいかないヨネ。
降り坂がダメなら、次は登り。
でも、登り坂では、筋肉パワーにかなわない?
「でも、筋肉だけが、パワーじゃないわ。チャンスは必ず、ある!」
わたしは、見逃さない。
風が時折、吹き上げてくる。
強い風だ。
後半になって、急に強い風を感じるようになった。
風にラインが乱れる。
木の葉やゴミが飛んでくるのが怖い。




