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閉鎖的なこの世界で  作者: 谷 ムーミン
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閉じられた国

 日本――人口1億2774万人。周りを海に囲まれた島国。それなりに豊かで平和な国。食料はおいしいし、コンビニはたくさん。ネット環境も整っている。最高の国だと僕は思っていた。いや……今も思っている。ただ、少しだけ事情が変わっただけだ。20XX年――日本は国際的引き篭もりを実施した。


 1 さよなら諸外国、こんにちは理想の世界


 国際的引き篭もり――日本の領域全体を巨大な核シェルターで覆い、その中で閉鎖的に暮らす。これが政府が発表した日本引き篭もり計画――プロジェクトZONEだ。なぜこんな計画を政府が出したかというと、主な理由は諸外国とのトラブル回避だ。戦争、伝染病、食料問題etc……を元から絶つためだそうだ。しかし、ここで問題が出ると思われる。そう――食料難だ。日本は食糧の多くを外国との貿易に頼っている。これが絶たれれば日本国民は餓死しかねない。しかし、政府はそれを解決する設備を開発したのだ。それが人工睡眠装置”NOAH”だ。この装置を使うことにより人体は睡眠状態につき、内臓だけが機能する。これによりエネルギーの消費は抑えられる。必要なエネルギーは点滴で自動で取れるという優れものだ。しかし、これが”NOAH”の目玉機能ではない。もっとも重要な機能は別にある……

 理想の世界――それは人それぞれだと僕は思う。自分の好きなことができる世界、単純に言えばこれが理想の世界だろう。”NOAH”はそれを可能にしたのだ。”NOAH”はただの睡眠装置ではない。もうひとつ大きな機能がある。それは”ZONE”と呼ばれる仮想空間の創造、そして体験だ。国民はカンタンなIDの登録さえしてしまえば自分の望んだ空間を与えられ、その中で自由に暮らすことができるのだ。しかも、”ZONE”外で必要な仕事は政府の人間が全てやってくれて国民は日常を過ごすだけで良いのだ。ほとんど現実と変わらない。だけど最高の空間――そんな空間を僕たち日本国民はついに手に入れたのだ。


 2 ひび割れる壁


 仮想空間”ZONE”――日本政府が作った新しい世界は画期的なもので、今までと生活のスタイルはそこまで変わらなかった。それどころか自由度が増えたと言っても良いだろう。ID登録の際に自分だけの空間”パーソナル・ゾーン”を作ることもでき、その”パーソナル・ゾーン”は自分で管理することが出来るのだ。その中は許可した人間以外は入れなくすることもでき、プライベートを守ることも可能だった。逆に位置するコミュニティの維持も簡単だった。”パーソナル・ゾーン”から出れば良いだけなのだ。そうすれば政府が作った共有エリアが広がり、友人や家族に会うことができる。また現実世界に戻ることもカンタンで”パーソナル・ゾーン”においてある端末機器からあっという間に現実世界に戻れる。とはいっても、戻る人間なんてまずいないが……

 とか言う僕もかれこれ半年は現実世界に戻っていない。つまり僕、風間小太郎かざま こたろうは”ZONE”内で引き篭もりを始めて半年も過ぎているということだ。なぜ引き篭もり国家の中で引き篭もっているのかというとそこまで深い理由はない。必要性がない――それだけだ。本来ならば僕は学校に行っているのが普通な年齢なのだが、16歳の僕は義務教育は終わっている。一応、”ZONE”内にも学校はあるが、手続きがめんどくさくて入らなかった。家族との食事――そんなものはない。”ZONE”内で食事なんてものは無縁だ。それに僕に家族と呼べる人はいない。

父と母は僕が子供のころに死んでしまった。その時からずっと育ててくれた僕のおじいちゃんは半年前に死んでしまった。政府の人が”ZONE”内で葬式をしてくれたが、いまいち実感が湧かなかった。そこにおじいちゃんの遺体がないのもそうだが、なによりも――

(病気って言ってたけど、結局よくわかんないよなー……)

おじいちゃんが病気だった覚えはない、それに”ZONE内部では健康体そのものだったのだから。

(まぁ…政府の陰謀とか悪の手先が~みたいな子供の妄想みたいなこともないしな。)

そんな風に思いながら僕は今日も”ZONE”内にある情報端末でニュースを見ている。情報で出来ている”ZONE”内部で情報を集める――少しシュールかもしれない。しかし、僕にとっては日課だ。他にやることがないのもあるが、たまには気になるニュースだってある。いまだってそうだ。

(ここ半年での”高齢者の死亡数が増加”ねぇ……)

どうやら僕のおじいちゃんが死んだ頃ぐらいから増えているらしい。

(こういうニュース見ると陰謀説みたいの出す人はいるんだろうな。さすがにそれはないよな……)

――そう思っていた。僕の部屋の扉が大きな音をたてて開くまでは……


3 世界の崩壊


 それは突然だった。いきなり”パーソナル・ゾーン”の扉が蹴破られたと思ったら、目の前にお面をかぶった…多分男が1人、それとよく分からない子供がガラクタで作ったような人形がたくさん。

(おかしい……)

なにがおかしいかと言うと、その状況としか言えない。僕が囲まれている――それも確かにおかしいが、最初はそこではない。なぜ僕の”パーソナル・ゾーン”に人がいるか。これが一番最初に浮かぶ疑問、そして一番おかしい状況だ。

(なんで入ってこれるんだよ……!)

この半年”パーソナル・ゾーン”の中に引き篭もっていた。そんな僕が他の人間の入室を許可するわけなどないのだ。だから入ってこれるわけがない。無理に入っても政府のセキュリティに引っかかるのが関の山だ。それなのにこの男とガラクタ人形たちは何食わぬ顔で入ってきた。僕はこれまでにないくらい混乱していた。だが、そんなことなど気にせず男は喋りだす。

「あー……今からぁー風間 小太郎君……? には死んでもらいまぁーす」

「~~~~~~っ! ? 」

その男がしゃがれた声で言った言葉は衝撃的だった。思わず声が出そうになったが、半年間一言も喋ってないので声すら出なかった。

「ぁ? ”死んでもらう”つったのに反応もなしか……? あ~……そうか。”ZONE”内で引き篭もってたんだよな。声の出し方忘れたか。まぁ、いいか……とりあえず死んでくれ。」

そう言って、男は僕に拳銃を向け、そして引き金を引いた。だが、その瞬間――僕の目の前を違うシルエットが横切った。


 4 剣と銃


 それは一瞬だった――男が引き金を引いたのも、拳銃から弾丸が撃たれるのも、そして弾丸が真っ二つになり、床に落ちるのも。次の瞬間には僕の目の前には見ず知らずの少女が日本刀を持って立っていた。

「――げて! 」

「……? 」

「はやく逃げて ! ! 」

怒鳴られてようやく自分の周りに気づく。いつの間にか僕を取り囲んでいたガラクタ人形が壊れている。とにかくチャンスなので急いで逃げることに。

(ありがとう、見知らぬ人! )

そう心の中で少女への感謝を思い浮かべながら、僕は扉から”パーソナル・ゾーン”の外へ出た――しかし、そこにいつもの風景はなく、ひたすら草原が続いていた。

(~っ! ? なんだよ! ? ここ!?)

いつもなら普通の町並みが見えるはずなのだが、いまは違った。まるで僕を逃がさないようにするかのようだ。

(いや……でもとにかく今は逃げるしか……)

そんなことを思っていると、さっきのガラクタ人形達が追ってきた。さっきまではなかった武器を全身にぶら下げてだ。

(ッ! ! ! なんだよあれ! )

持ってる武器は槍だったり剣だったりまちまちだが、あんなもので攻撃されたらひとたまりもない。とにかく逃げれるだけ逃げないとっ!


 5 ゾーン・アビリティ


 おじいちゃんが大好きだった。ずっと僕に優しくしてくれたおじいちゃんが大好きだった。子供と孫が欲しかった。おじいちゃんが僕にしてくれたみたいに僕も家族に優しく接したかった。だから早く大人になりたかった。

 そんな儚い夢は叶いそうにもなかった。なぜなら僕は――今にも殺されそうだった。

(僕はもう死ぬのか……)

そんなことをハリボテの人形に囲まれながら思っていた。もう諦めかけていた。だが、そんなときに頭の中で声がした。

(アナタの望むものは?)

聞いたことのあるような声だ。というかさっき聞いた。そう、あの少女の声だと思う。確信はないけど、そう思った。大体、この状況で声をかけてくれる人が僕にはいない気がする。

「ククク…ケケケ…」

そんなことを思っているうちにガラクタ人形たちの僕を殺す準備が整ってしまった。今から抵抗しても間に合わないだろう。なにしろ、ハリボテ人形はもう僕の腹を刺すための包丁を振りかぶってしまっているのだ。あと10秒もしないうちに僕の腹は穴あき状態。かなり絶望的だ。もう諦めかけていた。だが、声はまだ聞こえる。

(望むものを思い浮かべて!)

望むもの…それならある。そう考えているうちに包丁は振り下ろされ始めた。

(というかさっきから言ってるじゃないか…)

あと5秒でこの世とお別れ。そんなときにやっと声が出た。

「僕はっ!はやく大人になりたいんだっ! ! 」


  突然、身体を光が包み込んだ――そして気づいたときには僕の身体は動いていた。


(なんだこの光……でもこれなら! )

ガラクタ人形たちを倒せる自信があったわけではない。だけど負けない自信があったのだ。攻撃が当たるわけがない――まるで見えているものが違う。そんな風に思えた。そんなことを考えている間に僕に包丁を突きたてようとしていたガラクタ人形の頭を僕は掴んでいた。

(こいつら脆そうだし……いけるかな?)

少し危険かもしれない。そう考えることもなく僕は勢いに任せてガラクタ人形の頭を掴んで地面に叩き付けた。そうするとガラクタ人形の身体は音をたて崩れていた。

(よし……!いける……!)

そう確信したころには周りにいた他のガラクタ人形も戦闘体制に入っていた。だが、もう遅かった――既に僕はさっきのガラクタ人形が持っていた包丁を手に持ち、今まさに戦闘体制に入ったガラクタ人形の正面にいた。相手が人間なら躊躇したが、いま僕の目の前にいるのはガラクタ人形。

「加減は……いらないな」

僕は手に持っている鈍く光る包丁を力いっぱい、ガラクタ人形に突き立てていた。


 

 6 さよなら理想の世界、久しぶり現実世界


 静寂――どこまでも続く平原にはそれと先ほどまで動いていたガラクタ人形の残骸しかなかった。その中で僕は1人でただ立っているだけだった。簡単に言ってしまうと……疲れたのだ。なにしろ半年もの間引き篭もっていたのだから、突然の過度な運動などできるわけない。ガラクタ人形と戦っていたのは3分ほどだった。僕の感覚ではその倍は戦っていた気がしたが、深く考えることもできないぐらい僕は疲れていた。

(……疲れた)

思考がようやく身体に追いつく。しかし、次の瞬間には遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「お~い!」

その声の聞こえる方向を見ると、こちらに走ってくるのはさっき僕を助けてくれた少女だった。助けてくれたお礼を言わなきゃいけないとかさっきの男たちはなんなのかなどを聞かなくてはいけない。そんなことを考えているうちに彼女は僕の目の前にやってきていた。

「大丈夫?…っていま生きてるなら大丈夫ね!とにかく1回外に出ましょう」

……勝手に話が進んでる。状況がまったく理解できていない僕の手を彼女は引いていく。


 いつの間にか僕の部屋まで戻っていた。

(なんだ……どこかに連れて行かれるのかと思った。外とか言ってたし……あれ?外……?)

嫌な予感がした。むしろ、嫌な予感しかなかった。彼女は僕の”パーソナル・ゾーン”の情報端末を操作している……

(もしかして外って……)

その答えがわかったとき、僕の意識は違う世界に旅立とうとしていた。


 「”ZONE”の外のことかぁー!!」

「……」

目を開けた僕は叫んでいた。そして、ドン引きされていた。その場にいた2人の人間にだ。

1人はショートヘアのキレイな顔立ちをした少女。もう1人はヒゲ面で髪はボサボサ。ダメな大人をそのままあらわしたような中年の男だ。

「えーと……」

少女が困った顔を見て、いつの間にか喋っていた。

「あ……さっきはありがとう……ございまひた」

噛んだ……しょうじきかっこ悪い。だが彼女は少し笑って言葉を返してくれた。

「どういたしまして。私は水無月 沙夜 (みなづき さや) これからよろしくね」

「こ……こちらこそ……よ、よろしく」

これから……?よく分からないが、話を合わせてしまった。それよりも僕には重要なことがあったのだ。

(久々に人と話した……!しかも女の子! )

そんな風に喜びを噛みしめていたら、そこに邪魔が入った。

「俺には挨拶なしか?」

そう言ったのは中年の男だった。あわてて言葉を返す。

「あ、風間 小太郎です!これからよろしくお願いします!」

「俺は東郷 寛治 (とうごう かんじ) だ。じゃあこれから仲良く戦おうぜ」

中年の男、東郷……さんはニっと笑ってそう言った。僕はいつの間にか理想から現実、しかも非日常な現実に連れ戻されたことにいま気づいた。

 

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