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初めてあなたに出会った日〜初対面から手加減なし!初速全開の甘さに、心が追いつきません!〜

掲載日:2026/11/01

 私が、巫女として神楽舞を踊った晩、舞殿の上から、初めてあなたの姿を捉えた。

 月明かりが彼の輪郭を青銀の光で浮かび上がらせ、彼の黒曜石の瞳は切実な色を浮かべて、ただ私だけを映していた。それはとても幻想的で、この大勢の観客の中、彼しかそこにいないかのようで―――


 ―――シャリーン


 最後の鈴の音が、その舞の終わりを告げた。



 翌日。 

 ここは、明治の浅草、観音寺裏の通り。私は普段、常磐堂という古美術店を父と切り盛りしている。


 チリリーン

 店の入り口の風鈴が来客を知らせた。


「いらっしゃいませー」

「わぁー素敵なお店やね!昨晩舞を踊っとった子やろ?ほんまべっぴんさんやわー」


 入り口に立っていたのは、背の高い笑顔の豪快な男性だった。とても目立つ方だったので、もちろん昨晩の観客の中にいたのを覚えている。


 私は裏にある本家のやっている露草神社をたまに手伝っている。神楽舞もその一貫だ。舞の翌日にはこうして会いにきてくれるお客様も珍しくはない。


 それにしてもとても陽気な方。ただ先程から、彼はどうも外の様子が気になって仕方がないらしい。

 外をちらちら見ては、びくりと震えたり、顔を青くしたり……


「あら、どなたかいらっしゃるの?」

 

 気になって、店を飛び出してみると、彼の目線の先にはやっぱり「誰か」がいた。その姿を見て、一瞬言葉を失った。その人は、昨晩舞殿から見た、黒曜石の瞳を持つ彼だった。下ろされた艷やかな長い髪が風に揺れる。青空の下だと、彼の纏う黒は少し異質さを放っていたが、この世のものとは思えぬその美しさに変わりはなかった。


「いらっしゃい、中へどうぞ」


 笑顔で言葉をかけたその瞬間、彼の瞳が熱を孕んで揺れた気がした。

 絶対に……私の思い上がりだと思うけど!



◇


 私は「見える」体質だ。なんなら、木々や花々などのか弱い精霊たちとなら、意思を通わすこともできた。

 そんな私なので、すでにいろいろ見えてしまった。


 この世の者とは思えなかった彼は、やはりこの世の者ではないのかもしれない。

 彼の腰に下げられた禍々しい刀。それには鎖のようなものが雁字搦めになっている。しかもその鎖は彼の魂までをも締め上げていた。

 でもおそらく、普通の人には、この刀ごと全て見えてはいないはず。


 なんだか……複雑な事情がある方なんだわ、きっと。


 骨董を扱っていると、このように人の事情に意図せず触れてしまうことも珍しくないので、私はいつも通り気づかないふりで接客をする。

 今は、父が卓に案内して二人をもてなしていた。私は三人に茶を出してから、父の傍らに立って一緒に歓談に加わった。


「旦那さん方、この間言っていた娘の絢です。昨晩の鎮魂祭も来て下さったようで、有難い限りです」

「えぇ、本当に。お二人はとても目立つから、今日ひと目見て昨晩の方だって分かりましたよ」

「ほんま?覚えててもらえてたなんて嬉しいわ〜!名前は天翔や!天ちゃんって呼んで〜な」

「天翔さんって面白いわ」


 天翔はやたらと気さくに話しかけてくるが、一方、黒曜石の瞳の彼はちらちらと視線を向けてくるだけで、特に会話に入ろうとはしない。

 うーん……。見られている?何かある?それともやっぱり思い上がり?

 えぇい!とにかく私がその視線を避けるのも可笑しな話だわ。


「旦那様のお名前を聞いても?」


 彼の視線に屈せず、微笑んで彼を見つめた。ところが彼はすぐさま視線を逸らしてしまう。

 んん?


「私は……夜叉月(やしゃづき)。……名は、夜叉月(やしゃづき)」


 視線を逸らしながらも小さく名乗り、言い終わると、恐る恐ると言った様子で、期待と不安を湛えたような瞳がこちらを見上げてきた。


 ―――っ!!

 こ、これは……!彼の視線に挑んだのは間違いだったかもしれない。は、破壊力が……


 一瞬怯みそうになったが、なんとか持ちこたえて笑顔を保つ。


「夜叉月……さん。昨晩見たあなたにぴったりのお名前ね」


 彼の瞳が揺れた気がした。湯呑みを持つ手も僅かに震えている。


 え?……え?


「…………もう一度、呼んでください」


 ―――えぇっ?!


 縋るような黒曜石が私を見つめ続ける。私はごくりと息を飲んだ。

 は、破壊力……っ!


 途中、彼の横で怪訝な眼差しを向ける天翔さんを、彼が鋭く睨みつけていた。それを受けて、天翔さんが片手で目を、もう一方で口を塞いだ。なぜか父までそれを真似ている。


 え?何?……見ざる、言わざる?! 何これ? この時間、居た堪(たま)れないっ! 何なら、耳も塞いでいてよ!! 

 ―――とにかく! こうなったら、すぐに終わらせてしまいましょう!


 謎の使命感にかられ、私は覚悟を決めた!


「や、夜叉月……っ!」


 名前を呼ばれた彼は安心したように表情を和らげ、目を細めていく。

 それは、それは、嬉しそうに。あまりに幸せそうな顔をするので、思わず見惚れてしまった。


「……そうだ」

「……さん」

「いらぬ」

「……な、なんだか、心臓に悪いわぁ。お茶のおかわりお持ちしますね」


 顔に集中してきた熱を冷ますように手で扇ぎ、逃げるように暖簾の奥へと入っていく。


 これは……何?

 あんなに美しい人が……一体何故私などをあんな目で……からかっているようには見えないけれど……


 この熱はすぐに冷めそうにない。


 その時―――


 ガラガラガラガラ!


 開け放たれた戸から吹き込んだ風で、店先の風鈴が一斉に鳴り出した。それはまるで、警鐘のように。


 ―――何?


 風鈴に混じって僅かに子どもの声がする。


『夜叉月さまぁ!夜叉月さまぁ!!』


 彼の名を呼ぶ子どもの悲痛な叫び声。

 暖簾の隙間から店内を見渡すが子どもの姿は見えない。その気配をたどると、彼が腰に差す刀に巻かれた鎖が振動しているように見える。

 夜叉月は何かに耐えるように表情を微かに歪ませていた。


 人の声では……ない、ようね。やはり、彼は複雑な事情をお持ちだわ。


 店内を抜けて、鳴り続ける風鈴へ向かい、その中の一つに手を触れる。空いた手の人差し指を唇に当て、息を吹きかけた。


「しーっ」


 ―――静まりなさい。大丈夫。大丈夫だから。

 

 風鈴の音とともに、子どもの叫び声も少しずつ消えていった。


 あぁ……私の声の届く子でよかった。



◇



 今日はやけに賑やかで、今は妹のように可愛がっている小春まで揃った。だがどうやら小春は彼を知っているらしく、やたらと好戦的だ。元気のいいところも彼女の魅力なので温かく見守っている。


「や、夜叉月?!あいつの名前?!絢姉ちゃん、あいつと知り合い?!」

「名前を知ったのは今日だけど、昨晩の舞に来てくれた方なの」

「あいつとその前に会ったことは?!」

「ないけど……」

「ある」


 え……?

 思いがけず顔見知りだったと知らされ驚いたけれど、私より慌てていたのは天翔さんだった。


「ないやろないやろ!昨日会うて一目惚れやったやないか〜。また会いたいって言うから連れて来たったんや」

「……おい」


 不機嫌そうな目を向ける夜叉月の首元に腕をかけて引き寄せると、何やら耳元でこそこそ話している。その間も夜叉月はちらちらと不安げな目をこちらに向けていた。

 話が終わると夜叉月はこちらに向き直って、背筋を正す。何故かこちらも背筋を伸ばしてしまう。


「……舞が……とても美しかったので、あなたにまた……会いたいと、思ったんだ」


 あの黒曜石に捉えられ、真っ直ぐにそんな言葉を告げられると、もはや見つめ返してはいられなくなってしまった。再び顔に集まる熱を隠すように俯いたまま、高鳴る鼓動を静めようと必死に言い聞かせるも、私の言葉は自分の胸には届かなかった。


 

 




絢と夜叉月の出会い。(本編四〜六章のところの絢side)

夜叉月目線を楽しみたい方は、ぜひ本編遊びに来てください★


【第四幕完結★毎日更新】羅刹の刀神 ー私を忘れた千年の想い人ー

https://ncode.syosetu.com/n0130mq/

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