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私の娘を冷遇するならまずは貴方から教育し直してやる

作者: リーシャ
掲載日:2026/08/07

 幼馴染の夫と結婚して出産するといった経験をした。異世界転生をした女は、死ぬかも知れないと言われても病弱な体をわかっていて産んだ。夫に絶対娘を守るように何度も話し合って言い含めて。

 幸せな心地で我が子を抱いたからもう何も思い残すことはないと笑みを浮かべて夫に何度目かのダメ押しを告げた。そこから二度目の転生をするとは夢にも思わなかったけれど。


 生まれたのは一度目の転生をしていた国の隣。今回は病弱とは程遠い健康体だ。人生三回目とはいえ、何でもかんでも完璧にできるわけではない。技量がそこまでよくないから。


 さて、自分の元夫と娘はどうしているかと現状を知れる物を探したが、探しても見つかるわけがない。他国なのだから。しかも、こちらの国は小さい小さい国。大きな国と比べたら国家会議とかでも呼ばれないほどだ。父と母は優しくていい人たちだったので普通に嬉しかった。


 フェテリカとしては、娘の現状を知りたくて父たちの知り合いやコネやツテを探して何とか大国の情報を知ろうとしたが、断片的で誰でも知っているような浅いものしか手に入らなかった。

 大国の貴族の情報が他国の人間に簡単に知れるわけないとはわかっていたけれど、どうにもならないものはならない。肩を落として、ならば行ける歳になったら行こうと親同伴で無理矢理強行することにした。


 それまでにお金を貯めないといけないなと、普通の家庭に生まれた身としては二度目の人生が貴族だったことはたまたまだったと割り切る。

 別にこの生活に不満があるわけではない。あるわけではないが、知りたいことは忘れられないのだ。娘のことが気がかりすぎて夜の眠りが遅くなるのもちょっと嫌だ。


 知ってからスッキリさせて関わらずに生きていけばいい。後ろ髪が引かれるかもしれないけれど、そこは娘のために転生したからと関係を持つのは、一度死んだ身として弁えねば。


 何とかお金を貯めて、両親に一度目の生まれた国への旅行を強請ると前々から行きたいと言っていたのを知っていたので、親の新婚旅行さえなかったことも知っていたからついでに色んなところを案内できると、胸を張って案内役を買って出ることを決めていた。


 意気揚々とあちこち回って親たちを楽しませて、疲れた親を宿に連れていきフリータイムも作るとエンヤコラと元夫たちの住む屋敷へコソコソ向かった。門番に見つからないようにして。人に聞かなくても道なんて当然覚えている。


 庭先が見えて、娘の年齢的に遊び盛りだからいるかもしれないと期待に目を皿のように向ける。


「あ、いた」


 どう見ても成長した姿の娘らしき女の子が花冠を一人で作っていた。ああ、自分が一から全て教えてあげるつもりだったのに。もっとたくさんデザインや方法を知っているから、あんなテンプレなものなんかより友達に見せつけて自慢できるような。


「ねえねえ」


「ふぉっ」


 思案していると庭の端から声をかけられた。我が子のドアップに心音が太鼓みたいに鳴る。


「そんなところにいないで遊ぼ」


「え、でも」


「私遊びたい」


 小さな年齢だからか無邪気に手を引かれる。しかし、貴族の家に無断で入るのは逮捕案件だ。父と母を巻き込みたくない。


「勝手に入ると怒られるから」


 困って問答しているとメイドや使用人たちがやってきて、娘がこの子と遊びたいと言い出す。メイドたちは勿論、初めている女の子のこちらに戸惑い、旦那様に許可を得てくると待つように言いつける。


「お父様は私のことなんて興味ないから、別に言わなくてもいいのに」


 子供は辛そうな顔をして手の中の花をグシャッとした。フェテリカの心もパンっと弾ける。


 はぁ??


 この言葉一択。


「興味ないって何?」


 具体的に子供に効き出すと、出るわ出るわ子供を放置する典型的なエピソードが。あの野郎、死ぬ前に子供の面倒をしっかり見る約束、どこに行ったんだ。約束破ったな?夫のくせに。


 モワモワと出る怒りと文句が溢れる頃、使用人が戻ってきて娘と遊ぶ許可が出た。いやいや、今さっき通りかかった女子を屋敷に入れちゃいかんでしょ。


 ツッコミも出始めたが使用人たちに入るように足されて庭に行く。仕方ないと腹を括り全力で花冠を作り出し、様々なデザインや編み方を教えた。

 おままごとだって見事大人顔負けのスタンスでやりきり、至極ご満悦の娘。キャアキャアと黄色い声を挙げている子供の声に癒されていると、屋敷の方から視線を感じて振り向く。


 元夫だろうと見ると酷く痩せ細っていた。お前が娘より先にシナシナになってどうするんだ。しっかりしゃっきりしろ。エールを送るも、当たり前に通じるわけがない。

 夕方の時間いっぱいまで遊び尽くすと起こるのは娘からの「帰らないで」コール。あんなに遊んだらこうなる。


 しかし、自分には親がいるし。貴族の屋敷にいると知られたら度肝を抜かれて気を失いかねない。苦笑しつつ腰に張り付く女の子を使用人たちに剥がしてもらって、目一杯遊んだことを楽しかったと伝えてホテルに向かう。


「ちょっと待ってくれないか」


 玄関に行くと嘘つきの約束破り男が待ち伏せていた。立ち止まりジッと見ると女の友人になって欲しい、明日も来て欲しいと言われた。


「明日はお父さんたちを案内するんです」


「どこを案内するんだい?よかったらそこに娘も一緒にお願いしたい。勿論、責任なんて負わせない」


「……保証は?」


「ほ、保証?難しい言葉を知ってるんだな」


 怯む男をそのままに契約書にサインしていく。男はこちらを見て、寂しげに揺れる瞳のまま明日の約束をしてから別れた。あの瞳で亡くなってからずっと過ごしていたのか。ちょっと責め難い。


「ただいま」


「おかえり」


 親たちに明日への説明をしてから契約書を見せても、貴族の娘と街歩きすることに萎縮してしまう。明日は親たち抜きで別行動した方がいいのかもしれない。

 巻き込んで本当にごめんねと謝るが、気にするなと頭を撫でられた。この優しさをあのいい加減男に分けたい。親になれた胸を揺さぶりたくて仕方なかった。


 翌日、約束の日になりウキウキしている娘がやってきて共に劇場など有名どころを回った。親とは席を離したから心持ちマシであれと思いたい。

 娘と観劇に行けるなんて夢みたいだ。喜ぶ姿を見るのに舞台を見る暇がなくて、両親の話す内容に相槌を打つ人形になっていた。


 色んな体験をして、笑って驚いて。次の日も次の日も娘と遊ぶ名目で親と共に各場所を回る。お金は使用人らが払うと言って先払いしており、こちらは何も払わないまま。

 娘と遊ぶのに奢られるのは微妙だったけど、親たちの資金がそのままなのは正直有難い。あちこち見て回り、今日も屋敷で別れる。


 親たちを送った後でまだ一緒にいたいと言われるから、いつもフェテリカだけで彼女を送る。使用人や護衛もいるから一人ではないけれど。


 その日はまた当主の元夫が待ち伏せしており、帰る前に話がしたいと言われた。ついていくと執務室で椅子に座るよう言われて話を聞く。


「家庭教師兼遊び相手、ですか?」


「勿論、雇うので給金は出す」


「給金」


 親たちの老後のためにお金は欲しいと思っていたから、今からでもお金が入るのなら入れたい。それに、娘の成長を見守りたいというずるい気持ちが湧く。


「分かりました」


 お互い納得する形で屋敷に働きに出ることになった。夫は何事もなかったかのようにしている。それを見て内心を爆発させたのは凡そ半年後。


 ──ボコ!


「うっ!」


 男が起きた。周りを見てここが地下だと知ったのだろう、顔が引き攣っている。目前には女の子。娘のために雇った貴族ではない人間だ。混乱するには十分なもの。


「い、一体何が……?」


 女の子と共に誘拐をされたのかと問いかけられ、せせら笑う。


「あははははは」


「え?」


「まだわかんないの?私が攫ったんだよ?」


「なっ、な、なぜっ!?」


 恨まれるようなことをした覚えはない。


「なぜってなぁに、それ?私との約束を破ったからに決まってるでしょ?」


「約束?給金はちょっとずつあげてるから、むしろ、良い待遇のはずっ」


 業務外のことはさせてない。


「ばかね……娘を慈しむことを約束させたことだけど?私は死ぬ前にあなたになんて言ったっけ?ねえ?ケイノス」


 言い方、ニュアンス、抑揚。まるで亡き妻の真似をしたような変貌に男は絶句する。


「あなたって、いつもそう。私が死んだら絶対生きていけないってそればっかり言ってたけど、そんなの子供がいないから許される戯言であって、子供が生まれた時点で適用なんてされないってわかんないの?それでも大人なの?バカなの?」


 怒った時の言葉の追い詰め方がフェテリカとしか言えない。男は目をぱちぱちさせて「まさか、お前、なのか?」と聞くが女の子はそんな感動の再会を許しはしない。


「うるさい。約束を破ったやつがご褒美をもらえるなんて思ってたら大間違いなんだから」


 言い終える前に元夫が抱きついてきたから、腹を殴る。


「ゴッ……いや、待て待て。子供の力だからあまり痛くない。というか、痛くないな」


「気持ちの問題。近寄るなってこと。触らないで嘘つき」


 嘘つきの言葉に殴られるよりもダメージが深く入り、キュッと目を項垂れさせた。


「嘘つき、私の娘を放置するなんて、私との約束をよくも破れたもんだね」


「違う……まだお前の死が受け入れられなくて、気持ちがついていってないだけなんだ」


「死人の時間なんてもう動きようもない。娘は毎日成長してるんだよ?見逃してどうするの?自分の子供を手ずから育てられなかった私をバカにしてるよね?」


 子供の貴重な時間を共に過ごさず子に自分に興味がないと思われてまで放置していたり関わらないなど、関わりたくて仕方なかった母親のフェテリカの気持ちを蔑ろにした事実。


 半年間観察して執行猶予を設けていたのに普通にギルティだった。娘のいるところに夫がいない。食事も別、褒めることもしない。彼は淡々と仕事をして終わるルーティンだ。

 フェテリカが来てからは報告をたまにするように言われて、報告するけれど飴をあげない。

 こんなのは親子じゃない。寄宿学校と変わらない。学生がいないから友人もできないまま孤独に俯く彼女の瞳。それが今はフェテリカが来たことにより笑うようになったが、親が関わってこない寂しさをふと漏らすこともある。


 その度にあいつ、どうしてくれようと溜まりに溜まって今日計画していた地下室の部屋に軟禁してボコるを実行したわけなのだ。


「嘘つき嘘つき、私のたった一つの約束も守れない人が娘に関わらないで」


「わ、悪かった。謝る。謝るから居なくならないでくれっ」


 シクシク泣く男は死ぬ前に見た顔と同じだった。今は落ち窪んだ瞳に痩せ細った腕が震えている。


「娘だけ愛していていいから、おれのことを嫌いになってもいいから、刺したって殴ってもいいからここに居ていてほしい」


 彼はまだ若くてフェテリカより年下だった。妻が亡くなり子供を育てるには若すぎたのかもしれない。娘を愛してくれという願いを必死に叶えた結果、友達として自分を雇ったのだとわかってはいた。

 けれど、今までの娘の寂しさを無視はできない。彼には己がいたが娘には誰もいないのだ。彼以外誰が寄り添うというのだ。精一杯の愛というのなら、フェテリカはまだまだこの人に愛を教えてやらなければならない。


「毎晩、私とあなたでミーティングするからね?夫婦であの子を育てるって約束する?ううん、これは……命令ね!」


 指を突き立てて鼻息荒く伝えると彼はポロポロ涙を流して頷き、ずっと約束するといい続けた。


 この日から二人は娘が寝ると二人だけの教育方針を話し合う時間を作った。愛が足りなければもっと注げと精神的に尻を叩きつけて、物理的に叩いてダメ、ヨシ、を擦り合わせる。


 ご飯を三人で食べてどこに行くにも父親同伴、仕事が片付かない時は手伝ってあげた。共同作業に震えるほど喜んでいたが、手を動かしてくれと伝えるとそれまで喜ぶ。もう何を言っても頬が緩んでいる。


「お父様!お父様見て!」


 フェテリカが教えた華冠の大型を父親に乗せる。最近慣れた様子で頭を下げて娘からの贈り物を受け取る男。


「凄いな。一人でこれを?」


「うん。フェテリカ先生の教えてくれたやり方をした。枯れる前に作れたの」


 父親は娘から目を離さず、チラッとフェテリカを見たが友人としての立ち位置を崩さず一歩離れて見ていた。


「嬉しい。ありがとうな」


 娘の頭を撫でるのも漸く最近、板についてきた。


「うんっ。このあとおやつの時間でしょ。今日はね、先生の誕生日だから、ちょっと豪華にしてって料理を作る人に頼んでおいたの。お父様も来てくれる?」


「えっ」


 聞いていないぞと聞こえてくる副音声を無視して、ニコニコ笑う。これが娘を袖にした罰の一つと知れ。慌てふためく男はワタワタとしていた。


 にっこり笑顔を見せて「お祝いありがとう」と娘にだけ告げた。元夫は寂しそうにこちらを向くと目力を強くして使用人達にお誕生日パーティーを開くと宣言をして、豪華にしようと準備に気合を入れる。


 使用人達はお嬢様のお友達なのでそうなるかもしれないと事前に意を汲んでおり、準備がしなおされるのに時間はかからなかった。


「ちょっと、何派手にしようとしてるの?」


 ケイノスが執務室に行くのに合わせてトイレに行くふりをして、耳を引っ張りながら怒る。彼は痛くないと言いながらも、されるがまま腰を低くした。


「だって、お前の誕生日だぞ?派手にやりたいだろ」


「あなたは私よりも娘の誕生日を盛大に祝っておけばいいの」


「おれにとってはどっちも同じくらい大切だ」


「今更私に媚を売っても点数は稼げないんだからね」


 腰に手を当てて叱るが点数稼ぎではない、と首を振る男にため息を吐くしかない。娘も楽しみにしているので黙って大喜びしておこう。


 プレゼントを開封したら白いクマのぬいぐるみがあり、ハッとなる。これは娘が生まれる前に作ったもの。誕生日石をはめる前提の胸元のリボンがポツンとあるシンプルな動物デザイン。

 フェテリカしか知らないはずのテディベアだ。特注で娘の部屋にも静かに置かれているので、作ってもらおうとしたら作ってもらえる。しかし、これを貰える子供の心を考えたら、これは母親の代わりなのかもしれない。


 お母様から貰ったのと教えてもらったから、このデザインでしか母親を感じ取れないのだ。クマを抱きしめて我が子も抱きしめた。


「グスッ、ありがとう……大切にするね」


 彼女も嬉しそうにお揃いだと言い、ケイノスは優しげに見つめると二人の子供の光景に涙目になっていた。


 年頃になると娘が母親になってほしいと匂わせて、元夫が娘の言葉なのだからと約束をやぶっていたくせに調子に乗った言動をし始めてしまう。

 いつものように、バシンと背中を叩けば照れたように笑う彼を嫌いになれない自分は、来世もこの人を選ぶのだろうなと遠くない未来を思い浮かべるほどには……つまりはまあそういうことなのだ。

最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。娘が放置されているのを許さない母親襲来。直ちに身に覚えある者は頭にクッションを乗せて机の下に隠れなさい

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― 新着の感想 ―
娘産んだ後に転生して、会いに行った娘とは同い年ですか?
 フェテリカさんを失った悲しみを引きずりすぎての、娘の放置や食事別個を半年間……地味にきつそうですね。  花冠や白いヌイグルミのクマや変則的な再会などを介して、再び築きあげる家族の絆と、ちょっと物騒…
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