EP 21
怪物たちのオンライン会談
ポポロ村の執務室。
リバロンが組み上げた魔導ホログラムモニターが四分割され、そこに地球の超大国を裏から支配する『怪物』たちの顔が映し出された。
画面の向こう側から放たれる、常軌を逸したプレッシャー。
彼らは今、武力という牙をガオガオンの『法』によってもがれている。だが、国家を動かすトップエリートたちの真の恐ろしさは、暴力ではなく『言葉』にあるのだ。
「やあ、ポポロ村の村長殿。先ほどの戦闘は災難じゃったな。我が国の自衛隊がご迷惑をおかけしたようで、深くお詫び申し上げるよ」
最初に口を開いたのは、日本の与党幹事長・若林だった。
紫煙をくゆらせながら、好々爺のような笑みを浮かべているが、その目は笑っていない。『君主論』を地で行く、狡猾な狸親父だ。
「……あ、あの。自衛隊の人たちは、私たちを助けてくれたんですけど……」
キャルルが戸惑いながら答える。
「そうか、それは良かった。だが、この新大陸はあまりにも危険だ。我が国としては、人道的な観点から貴村を『特別保護区』に指定し、安全を保障したいと考えておる」
「お待ちいただこう、ミスター若林」
画面の左上。アメリカ第七艦隊のフォークナー海軍大将が、葉巻を手に割り込んだ。
「日本の自衛隊法では、他国の防衛まで手が回るまい。村長、我々アメリカ合衆国は、貴女とポポロ村のための『包括的防衛条約』を提案する。我々の傘下に入れば、もうあんな恐ろしい蟲の化け物に怯える必要はない」
「包括的防衛、ですか。聞こえはいいですが、要するに『アメリカの軍事基地化』でしょう」
中国の張大使が、温和な顔で毒を吐く。
「村長さん。彼らの言葉に騙されてはいけません。我々は、貴女の村で採れる『月光薬』の共同開発と、医療インフラの無償提供をお約束します。貴女一人で、世界を背負う必要はないのですよ」
そして画面の右下。
先ほどのガオガオンの雷で右腕を失い、生々しい包帯を巻いたロシアのオルロフ大使が、怨念のこもった目でキャルルを睨みつけた。
「……綺麗事を並べるな。いいか小娘。貴様が持つ『兵器クラスの武力と治癒力』は、世界のバランスを崩す。我が国の監視下に置くのが、国際社会の総意だ。拒否すれば……法を掻い潜ってでも、貴様の村を孤立させる手段などいくらでもある」
四方向から叩きつけられる、国家元首クラスの威圧感。
『保護』『支援』『国際社会』という美しい言葉でコーティングされた、極悪非道な脅迫。
「あ……ぅ……」
キャルルのウサギ耳が、恐怖でペタンと頭に張り付いた。
武力で殴りかかってくる敵なら、マッハで蹴り飛ばせばいい。だが、この『政治と外交』という目に見えない鎖の前では、彼女の暴力など何の意味も持たなかった。
「村の安全は、私が……私が守りますから! だから、保護とか、基地とか……そういうのは、いらないですっ」
必死に声を振り絞って拒絶するキャルル。
だが、怪物たちはニヤリと笑った。
「そうか。では、貴女は『世界からの孤立』を選ぶのだな?」
フォークナーが、テーブルに分厚い書類(国連決議案の草案)を叩きつけた。
「我々は、貴村を『未承認の危険武装地帯』として国際社会に認定させる。そうなれば、食料も、物資も、一切の交易が絶たれる。……貴女のその『拳』で、餓死していく村の子供たちを救えるのかね?」
「えっ……」
キャルルの顔から、サァッと血の気が引いた。
「貴女が我々の『保護』を受け入れさえすれば、すべて解決するのですよ。村人たちの命を背負っているのでしょう?」
張大使が、蛇のような声で畳み掛ける。
村を人質に取られた。
キャルルは、唇を噛み締めた。血が滲むほど強く。
(私が我慢すれば……私がこの人たちの国に行けば、村のみんなは助かるの……?)
キャルルが絶望に沈みかけた、その時。
画面の死角に立っていたリバロンが、スッと前に出ようとした。執事として、この理不尽な交渉を法的ロジックで打ち破るために。
だが、それよりも早く。
「――おい執事。引っ込んでろ」
キャルルの背後で、ずっと息を潜めていた『闇』が、静かに動いた。
政宗だ。
彼は、手元の魔導端末の実行キー(エンター)から指を離した。
画面には『世界経済ロック・プロトコル:実行完了』の文字が青白く光っている。
政宗は、赤マルの箱から最後の一本を取り出し、口にくわえた。
火はつけない。
ただ、その瞳には、地球の怪物たちすら震え上がらせるほどの『底なしの狂気』が宿っていた。




