事象境界のバレットロード
廃都の深部は、もはや「建物」と呼べる代物ではなかった。
無機質なサーバーラックが巨大な樹木の根のようにのたうち回り、その隙間を、青白いエーテルの奔流がバイナリデータの如く高速で駆け抜けている。
「……ひどい。これじゃ、世界の血管に無理やり異物を流し込んでいるようなものだわ」
キーナは愛用のデバイスを片手に、戦慄を隠せなかった。
中心部に鎮座するのは、十年前の転移で半壊した地球の量子コンピュータ。それが、周囲のエーテルを暴力的に吸収し、空間に無理やり「穴」を開け続けている——ゲートの維持装置だ。
「あれを制御下に置く。キーナ、できるか?」
栄太が銃を構え、周囲を警戒しながら問う。
「やってみる! でも、システムが外部からの干渉を猛烈に拒絶してる。……来るわよ、防衛機構!」
空間が歪み、ノイズ混じりのホログラムが実体化する。それは、栄太がかつて警備していた式典の「警備部隊」の姿を模した、影の兵士たちだった。
「(苦い顔で)……かつての俺たちの訓練データか。皮肉なもんだな」
栄太はセレクターをフルオートに切り替えた。
「キーナ、詠唱を始めろ。一秒も通させん!」
「了解! ――聴きなさい、鋼の精霊! あなたの論理に、私の術式を上書きする!」
キーナが栄太の銃から抜き取った「空の薬莢」を核に、エーテルを凝縮させる。彼女はそれをシステムのコンソールへと打ち込み、複雑な術式を展開した。
――ガガッ、ピーー……!
物理的な銃声と、電子的な警告音、そしてキーナの透き通るような詠唱が狭い空間で激突する。
栄太は襲い来る「影の自衛官」たちを、一撃一撃確実に仕留めていく。肉体の痛みはないはずの影たちが、栄太の放つ実弾の衝撃にたじろぎ、霧散していく。
「座標固定、地球・日本・北緯35度! パケット同期、完了!」
キーナのデバイスが、かつてない高熱を発する。
量子コンピュータのバイナリコードが、エルフの魔法言語と共鳴し、空間の中央に巨大な幾何学模様の「門」が形成され始めた。
「栄太、開くわ! でも、ゲートが不安定すぎる! 私が抑えている間に、早く——!」
その時、システムの深部から、巨大な防衛アームがキーナを狙って振り下ろされた。
「キーナ!!」
栄太は考えるより先に、残された最後の手榴弾をアームの関節部へ投げつけた。
轟音。爆煙。
崩落する天井。その向こう側に、陽炎のように揺らめく「東京の夜景」が、確かに姿を現していた。
「……ゲート、接続。任務、最終フェーズに移行する」
栄太は煙の中から立ち上がり、目の前の「故郷」を凝視した。




