表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

虚空に映るアーカイブ

 里の最奥、巨大な世界樹の根に抱かれるようにして存在する「記憶の書庫」。

 そこは、エルトリアの歴史がエーテルの結晶として保管される聖域だった。里を救った「異質の戦士」として、栄太はキーナと共にその禁域への立ち入りを許された。


「……よくぞ参った、鉄の匂いのする異邦人よ」


 玉座に座るのは、肌に樹皮のような皺を刻んだエルフの長老だった。その瞳は濁りながらも、栄太の背負う小銃を、まるで古い友人を眺めるかのように見つめている。


「長老、栄太さんが持っていたものは、10年前の事件と関係があるのよね?」

 キーナの問いに、長老は重く頷き、傍らの浮遊するクリスタル――『記録の結晶』に手をかざした。


「10年前、空を裂いて現れた『鋼のクジラ』……。それはエーテルの嵐に揉まれ、バラバラに砕けて各地の遺跡となった。だが、この結晶には、砕ける前の『一瞬』が刻まれておる」


 長老が杖を突くと、結晶から青白い光が溢れ出し、空間全体を包み込んだ。

 次の瞬間、周囲の景色が一変する。


「……っ、これは!?」

 栄太は思わず銃のグリップを握り締めた。


 そこに映し出されたのは、美しい森ではない。無機質なコンクリートの床、並び立つモニター、そして整然と配置されたデスク。それは、栄太の記憶に深く刻まれた「現代の司令室」の光景だった。


「(掠れた声で)……国際平和式典、警備本部。間違いない、俺たちがいた場所だ」


 ホログラムの中で、自衛隊の制服を着た男たちが慌ただしく動いている。その一角に、若き日の栄太自身が、厳しい表情で直立している姿があった。


『――状況はどうなっている! 第2警備区、応答しろ!』

 スピーカーからではない、空間そのものが震えるようなノイズ混じりの声。

『……ダメです! “ブラックボックス”のエネルギーが逆流しています! 空間の歪みを抑えきれません!』


 映像の中の栄太は、中央に鎮座する漆黒の立方体――『エーテル財団』から預けられた謎の装置を守るように、銃を構えていた。


「あれを、守っていたのか……。俺は、あの日……」

 栄太の脳裏に、鋭い痛みが走る。

 映像の中の「ブラックボックス」が突如として眩い閃光を放ち、周囲の隊員たちを飲み込んでいく。悲鳴と警報音が混ざり合う中、映像の端に一瞬だけ、式典会場の外に見える「東京」の街並みが映った。


 そこには、かつての平和な空はなかった。

 空は赤く染まり、巨大な「エーテルの河」が雲を突き破って、地上から空へと吸い上げられていたのだ。


「そんな……世界から、エネルギーが吸い上げられている……?」

 キーナが戦慄する。


「長老、この映像の場所……『鋼のクジラ』の核は、今どこに?」

 栄太の問いに、長老は静かに北の空を指差した。


「北の連峰を越えた先、『静止した廃都』の最下層に、今もその『黒い箱』は眠っておる。だが、そこはもはや人の住める場所ではない。法則が歪み、死者が彷徨う異界となっておる」


 栄太は拳を握り、自分の左肩にある日の丸のワッペンを見つめた。

 故郷の空が焼かれていた。自分が守るべきだった日常が、あの時、崩壊していた。


「……行かなきゃいけない」

 栄太の瞳に、迷いのない「軍人」の光が戻る。

「あの箱に、俺の任務の続きがある。そして……俺たちの世界に何が起きたのか、その答えも」


 キーナは、栄太の震える拳にそっと自分の手を重ねた。

「私も行くわ。考古学者として、そして……あなたのパートナーとして。一緒に真実を見届けましょう」


 二人の決意に応えるように、記録の結晶が最後の一閃を放ち、静かに光を失った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ