9話 4精霊と陽だまりの少年
天界を追放された天魔少年と、森の奥で暮らす元女神様の、温かく甘甘なお話です。
個人的にもお気に入りの4精霊再登場です。
意気揚々と階段を降りきると、そこには広々としたリビングが広がっていた。
朝の光が差し込む窓辺には、三人の人影が主の目覚めを待っていたかのように静かに佇んでいる。
赤髪をオールバックにした、燕尾服に片眼鏡の青年。
水色の長い髪を揺らす、メイド服に涼しげな瞳の少女。
そして、黄金色の髪をふわふわとさせた、ワンピースを着た幼い少女。
ネアは彼らの前に立ち、少し緊張しながら背筋を伸ばし挨拶をした。
「改めて、おはようございます。僕はネアと申します。昨日は看病いただきありがとうございました。おかげでこのように回復しました」
ネアは顔を綻ばせ、続ける。
「今日からここで、家事や管理を担当させていただくことになりました。よろしくお願いします!」
ネアの丁寧な挨拶に、まずは赤髪の青年が一歩前に出た。
「丁寧なご挨拶、痛み入ります。怪我が回復して何よりです。私は赤。レフィーナ様の身の回りのお世話や料理、および外敵の排除を担う火の精霊です。主様を救っていただいたこと、眷属の一人として心より感謝いたします。……これから家事を行うにあたり、火力の調整が必要な際はいつでも仰ってください」
続いて、水色の髪の少女が静かに会釈する。
「私は青。屋敷内の清浄を維持し、この森をはじめとした水の管理をしている精霊です。貴方の周りに汚れがあれば、私がすべて浄化しましょう。水が必要なときは、私に声をかけてください。清らかな水を用意します」
最後に、黄金色の髪の少女がトコトコと寄ってきて、ネアの服の裾をぎゅっと掴んだ。
「わたしは"きー"。つちのせいれいだよ。このおうちをなおしたり、かぐをつくったりするのがおしごと。……ネアのちかく、なんだかひだまりみたい。きー、ネアのことすきになっちゃった」
「え!? あ、ありがとうございます」
思ってもみなかった言葉に言い淀みつつも感謝を告げる。
レフィーナからもだが、こうやって直球に好意を告げられたのは久々だったのだ。
むず痒い気持ちになるも、心がとても温かくなっていた。
三者三様の挨拶を受け、ネアは圧倒されながらもレフィーナへの敬意と絆を感じていた。
彼らは昨夜、ネアの看病を申し出てくれた、レフィーナの眷属、この森の精霊たちだ。
「皆さん、これからよろしくお願いします! あれ、緑さんは……?」
ネアが首を傾げた、その時だった。
「よっと。お待たせ! 噂の主役はもう起きたのかい?」
大きく開け放たれた窓から、心地よい突風と共に、一人の少年が飛び込んできた。
緑色の髪を短く跳ねさせた少年は、窓枠を蹴って軽やかに着地すると、抱えていた大きな麻袋をテーブルの上にドサリと置いた。
「お帰りなさい、緑。村との交渉はどうでした?」
レフィーナの問いに、少年――緑は親指を立てて笑った。
「あぁ。いつも通り良好でしたよ!」
緑は満面の笑みで麻袋を指さした。
「どちらかへ、お出かけだったのですか?」
ネアの不思議そうな目を見た緑の少年は、ニカっと笑いながら答えた。
「おぅよ! この森から一番近いルズの村までひとっ飛び! あそこの村長と物々交換をしてきたのさ。森で採れた珍しい薬草を届けてやる代わりに、連中が作った小麦粉や卵、それに野菜をもらってくるのさ」
ネアは目を輝かせて袋の中身を覗き込んだ。
天界の最高級食材のような華やかさはないが、どれも土地の香りがする力強い、生命力に溢れた食材ばかりだ。
「村があるんですか? ここから近いのですか?」
「あぁ。俺が風に乗って飛んでいけば、一時間くらいかな。もっとも、普通の人間が歩いて来ようと思ったら、この広大な森を何日も彷徨うことになるだろうけどな」
そこまで言うと、緑の少年はずいっとネアの前に進むと挨拶した。
「そういえば自己紹介がまだだったな! 俺は緑! 風を操り、外の世界の情報を集める偵察官ってところかな。あとは見ての通り、こうやって物資の調達なんかも担当してる。こう見えて、風の精霊ってやつだ! よろしくなっ!」
緑の少年が、ネアの白銀の髪をわしゃわしゃと力強く撫でた。
「わっ……!」
ネアは一瞬、ビクッと肩を跳ねさせて身体を強張らせた。しかし、頭に触れた緑の精霊の手はひんやりとしているにも関わらず、軽やかで、どこかくすぐったさを感じさせた。
「あっ、ネ、ネアと申します! 至らないところも多いと存じますが、よろしくお願いします」
「ははっ、いいねぇ! なんだか弟が出来たみたいだ」
風の精霊は上機嫌にネアの髪をわしゃわしゃと撫でる。
そんな精霊に、ネアはおどおどした様子で問いかけた。
「あの……緑さん。一つお聞きしてもいいですか?」
「ん? なんだい?」
ネアは少し体を縮こませながら聞く。
「その……村にいる人間の方たちって、やっぱり恐ろしい生物なんですか……?」
ネアの問いに、リビングの空気がわずかに止まった。
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