表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天魔の落とし子と追放女神 ~命の恩人と始めた2人きりの居場所は、やがて世界を照らす最強の聖域となる~  作者: スージー・ウエストウッド
第1章 天魔の落とし子と追放女神

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/20

15話 神を騙す結界

天界を追放された天魔少年と、森の奥で暮らす元女神様の、温かく甘甘なお話です。


神をも欺く力

 三百年もの間、レフィーナを閉じ込めていた『神獄の檻(アポカリプス・エデン)』が砕け、そこにあるのは、どこまでも高く、目が覚めるほどに澄み渡った本物の青空だった。


 砕け散った結界の破片が、ダイヤモンドダストのように森へ降り注ぐ。その光の粒に触れた枯れ木は次々と黄金色に芽吹き、足元の草花は生命の奔流(ほんりゅう)となり、色鮮やかな絨毯(じゅうたん)となって広がっていく。それは単なる破壊の跡ではなく、天地創造(てんちそうぞう)の奇跡を目の当たりにしているかのような、圧倒的な光景だった。


「……あ……」


 ネアは、震える手で自身の胸元を握りしめたまま、茫然(ぼうぜん)と空を見上げていた。地上から仰ぐ青空は、あまりにも美しく、そして眩しかった。


「……壊れ、ちゃった……」


 ネアの口から、(かす)れた声が漏れる。()むべき破壊の力でしかなかったはずの力が、こんなにも美しい景色を生み出した。その感動と同時に、とてつもない事実がネアの理性を揺さぶる。


(ど、どうしよう……! 女神様を閉じ込めていた檻ってことは、神界でレフィーナ様を追放した人たちが作ったもののはずなのに……!)


 聡明(そうめい)な彼は、即座に事態の深刻さを理解していた。この檻が消えた事実は、すなわち彼女を追放した存在に「異変」を知らせる狼煙(のろし)に等しい。もしその傲慢(ごうまん)な存在が、自分たちがここにいることを知れば、ようやく自由を手に入れたレフィーナに再び魔の手が伸びるかもしれない。


 ネアは青ざめながら振り返った。


「も、申し訳ありません、レフィーナ様! 僕が……あんなに派手に壊してしまったせいで……!」


 パニックになりかけたネアの唇に、ふわりと温かな指先が添えられた。


「ネア。落ち着いて」


「ふぇ……?」


 鼻をくすぐったのは、柔らかなフローラルな香り。目の前には、慈愛(じあい)に満ちた黄金の瞳があった。レフィーナは、結界が消え去った空を見上げ、眩しそうに目を細めると、再びネアに向き直り、陽だまりのような温もりのある笑みを浮かべた。



「いいのよ、ネア。謝らないで。あなたが私を救おうとしてくれた結果だもの。それに、三百年ぶりの青空……とても温かいわ」



「で、ですが……! これでは、レフィーナ様をここに閉じ込めた人たちに、バレてしまうんじゃ……っ」


 不安に押しつぶされそうなネアの横から、静かな、けれど現実を突きつけるような声が響いた。



「……恐れながらレフィーナ様。ネア殿の懸念(けねん)は、もっともかと存じます」



 火の精霊である(あか)が、片眼鏡の位置を直しながら一歩前に出た。その表情は、いつになく真剣だ。


「この檻は、神界との接続を維持するための(しるべ)でもありました。幸い、ここから神界までは距離がある。この結界が消え、情報の断絶(だんぜつ)が確定するまで数刻の猶予はあるかもしれません。しかし、監視していた神々が異常に気づくのも時間の問題かと存じます」


 赤の言葉に、ネアは顔を伏せ、歯を食いしばった。

 この場所は、レフィーナが三百年もの孤独を耐え抜き、そして僕を拾ってくれた大切な場所だ。ここを(けが)させたくない。レフィーナが今感じている、この陽だまりのような安らぎを、何者にも邪魔させたくはない。


(守らなきゃ。僕を救ってくれた、この人の笑顔を……。そのためなら、僕は世界だって騙してみせる!)


 ネアはすぐさま顔を上げ、黄金と紫の双眸(そうぼう)に揺るぎない覚悟を宿した。


「レフィーナ様、罪滅(つみほろ)ぼしというには足りませんが……僕に、新しい結界を作らせてください!」


「結界を……作り直す?」


「はい。正確には結界を直すのではありません。外から見たときだけ檻があるように見える偽りの空間……言わば、世界を騙す新たな結界で上書きします!」


 ネアはそう言うと、再び天へ向かって両手をかざした。

 意識するのは、体内で優しく循環(じゅんかん)している三つの力。母から受け継いだ『天』。父から受け継いだ『魔』。そして、レフィーナから分け与えられた『神』。

 それらは今、一つの奔流となってネアの意思に応える。


(イメージして……あの、冷たくて、寂しい檻を。でも、その内側にある僕たちの居場所は、白く輝く、温かい聖域に……!)


 ネアがカッ、と目を見開く。右目に金色、左目に紫色を宿したオッドアイの双眸が、神秘的な光を帯びて輝きだした。



「――天蓋偽装ワールド・オーバーライト!」



 ネアの手から放たれたのは、純白の、神々(こうごう)しいまでに透き通った光だった。


 瞬間、(まばゆ)い光が――天を()いた。


 フローラルな香りが突風となって吹き荒れ、光の波が空へと駆け上がり、破壊された檻の残骸を包み込んでいく。神が創り上げた絶対の牢獄(ろうごく)を、一人の少年が「模倣(もほう)」し「改変(かいへん)」する。それは本来、神ならざる者には不可能な事象であり、神にも等しい権能(けんのう)の行使に他ならない。


「な、なんて真似を……。あの方の術式を完全にトレースした上で、別の定義を書き換えているというのか!?」


 赤が、驚愕(きょうがく)に息を呑み、即座に空中に浮かぶ魔力回路の分析を始めた。他の精霊たちも、愕然(がくぜん)と空を見上げていた。

 数秒の後。空を覆っていた大穴を埋めるように、白く輝く光の膜が広がっていった。それは元の禍々しい檻とは異なり、内側は宝石の粉を散りばめたような美しい『聖域の結界サンクチュアリ・ベール』。


 内側からは相変わらず綺麗な青空が見えるが、外からは、以前と変わらない不気味なドームが維持されているように見える『一方通行の幻影』だ。


「――よし。できました……」


 パチン、と指を鳴らす。空に輝いていた白光(はっこう)霧散(むさん)し、見た目には静寂(せいじゃく)が戻った。


「す、凄い……。私には分かります。この術式の美しさは、もはや芸術品ですわ」


 (あお)が潤んだ瞳で見惚(みと)れる横で、(みどり)が呆れたように笑いながら呟く。


「おいおい、マジかよ。神様の目を(あざむ)くなんて、俺たちが束になっても勝てねぇほど、とんでもねぇ魔法じゃねぇか」


 そして、レフィーナは――。


「ネア……あなたはどこまでも私を驚かせてくれるわね。……ありがとう、私の大切な信徒さん」


 彼女は胸の前で手を組み、愛おしそうにネアを見つめた。その瞳には、深い感情が揺らめいている。


 ネアは皆の反応に少し照れくさそうに頬をかき、レフィーナに振り返ろうとした。



 ――その時だった。



 ズンッ。



 不意(ふい)に、ネアの視界が急速に歪み、脳髄(のうずい)を鉛のような重さが襲った。



「――あ、れ……?」



 世界の(ことわり)を書き換えるほどの演算を行った脳が、限界を超えて悲鳴を上げたのだ。足元の感覚が消え、思考が霧の中へと沈んでいく。



「視界が……揺らいで……。意識、が……」



「ネア!? たいへん、ネアがたおれちゃうー!」


 真っ先に異変に気づいた(きー)が悲鳴を上げて駆け寄る。

 その声を聞き届ける間もなく、ネアの身体は糸の切れた人形のように崩れ落ちた。


お読みいただきありがとうございました!

感想をもらったことがないのでとっても待ってます!是非!

「面白い!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、ページ下にある【☆☆☆☆☆】をタップして評価していただけると嬉しいです!

ブックマーク登録もよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ