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王都の大通りを抜けた先にある、女性向けの人気喫茶店「リラの庭」。
白い木の壁、花に覆われたアーチ、甘い香り。
ここはキャシーが学生時代から通っている、思い出の場所だった。
今日は久しぶりに、女友達とのお茶会だ。
「キャシー! こっちこっち!」
「やっと来たわね〜! 最近ぜんっぜん捕まらないんだから!」
手を振るのは同級生のミラとエマ。
キャシーは笑って席についた。
「仕事が立て込んでて……ごめんね。今日はゆっくりできるよ」
「ゆっくりしていって! 新作ケーキが絶品なんだから!」
テーブルには色とりどりのケーキと紅茶。
女子会らしい空気に、キャシーの肩の力がふっと抜けた。
「で! キャシーは? 新婚生活どうなのよ?!」
ミラの質問に、喉に紅茶を詰まりかける。
「ちょ、ちょっと、ミラ……声が大きい……!」
「いいじゃないの! で、どうなの?」
エマがふと真顔になる。
「でもさ……キャシーの旦那さんって、冷たそうじゃない?
あの……名前なんだっけ。クラ……クラウド?」
「クラウス!」
キャシーは即座に訂正してしまい、自分でも驚く。
二人が「ほう……?」という顔をする。
「べ、別に……そんなに気になることじゃないから!」
「でもさ、
“氷の騎士”って呼ばれてる人なんでしょ?
職場の人が言ってたけど、表情がないとか、近寄りがたいとか……」
キャシーは思わず、首を横に振っていた。
「……それ、全然違うよ」
「お?」
ミラが身を乗り出す。
キャシーは、ふっと息を吐いた。
「一緒に暮らしてみたら、全然冷たくない。なんていうか……」
思い出すのは、朝食を作る背中。
疲れて帰ってきたキャシーに差し出した温かいスープ。
自分のことより周りを優先する姿。
(そして……家族の話になると、ちょっとだけ目を伏せるところも)
「……うん。想像より、いい感じ」
「「えぇ〜〜っ!」」
二人がテーブルを揺らす勢いで叫ぶ。
「ほら! キャシーって現実主義じゃない? いきなり結婚するって聞いて、心臓止まるかと思ったけど」
「交際期間もほとんどない人と暮らすなんて絶対ムリだと思ってたのに!」
キャシーは苦笑しながら紅茶を口に含む。
「ちゃんと生活できてるし。ごはんも作ってくれるし」
「ごはん作ってくれるの!?」
ミラが叫ぶ。
「うん。害獣討伐訓練の差し入れでお肉持って帰ってくれたりするよ」
「優しい……! そんな旦那ほしい……!」
友人たちの反応が大げさすぎて、キャシーは思わず笑ってしまう。
「でもね」
ふと、キャシーの表情がほんの少し柔らかくなる。
「一緒に暮らすって……案外、悪くないんだなって。
帰ったら明かりがついてるのが嬉しかったり、
朝起きたらキッチンにコーヒーが用意してあったり……」
友人二人は顔を見合わせ、にやりとした。
「うわぁ〜〜これは、もう完全に“新婚ほやほや”じゃん!」
「キャシーがそんな顔するとか……良い方向に進んでるわね!」
キャシーは恥ずかしくなり、両手で頬を押さえた。
(……そんな顔してる? 私)
「ところでさ、キャシー」
ミラがケーキをつつきながら切り出す。
「旦那の騎士団の人とコンパ開いてくれない?、もちろんシャシーも参加で」
「わたし? 無理だよ! 既婚者だよ?!」
「分かってるって。でも既婚者枠で来てよ。場が華やかになるから!」
「それ絶対、良くない目的じゃない……?」
「いいじゃない、悩んでる後輩の恋愛相談とか!
キャシーって“堅実な女”って感じで頼りになるのよ!」
「褒められてる気がしないんだけど……」
「女子5人、男子10人ぐらいで、両手に花って感じでよろしく!」
「ええ?男性そんなに呼ぶの?」
「「もちろん」」
ハモる二人に、頭を抱えたくなった。




