表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いきなりの契約結婚は運命の恋でした  作者: あいら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/20

20

王都にある大聖堂は、朝の光を浴びて宝石のように輝いていた。


 白い大理石の階段。

 高い尖塔をのぼる陽光。

 城下から集まった風が、祝福するように花びらを舞い上げ――

 その中心に、キャシーとクラウスがいた。


 今日、この日。

 “契約結婚”として始まった二人は――

 ついに、本当の夫婦になる。


「キャシー、緊張してる?」


 クラウスが隣からそっと声をかける。

 ドレスに身を包んだキャシーは、小さく深呼吸した。


「……してるよ。だって……こんなに大勢いるんだもん……!」


 階段の下には、王宮関係者、公爵家の親族、ガードナー家の家族、騎士団、友人たち……

 見たこともないほどの祝福が溢れている。


 クラウスは、凛々しいタキシード姿で微笑んだ。


「大丈夫。ずっと隣にいる」


「……ありがとう」


 その言葉だけで、胸の奥に温かさが広がる。






 やがてオルガンの音が鳴り、扉がゆっくりと開いた。


「あ……」


 キャシーは思わず息を飲んだ。


 天井まで届く巨大なステンドグラス。

 虹色の光が床に降り注ぎ、まるで幻想の世界に足を踏み入れたようだった。


「綺麗……」


「君の方が綺麗だよ」


「も、もう……!」


 クラウスがさらりと言うので、キャシーは耳まで赤くなる。

 いまだに慣れないのだ。彼のこういう真っ直ぐな言葉には。


 二人は並んでゆっくりとバージンロードを歩き始めた。


 王宮騎士団が見守り、公爵家の家臣たちが深々と頭を下げ、

 友人たちが手を振り、ガードナー家の家族が涙を浮かべている。


「キャシー、頑張れー!」


 マーサが両手を振って叫ぶ声が響き、キャシーは思わず吹き出した。


(……みんな……本当に来てくれたんだ)


 胸が熱くなっていく。






 二人が祭壇の前に立つと、神官が厳かに宣言した。


「クラウス・セラフィス公爵。

 あなたはキャシー・セラフィス殿を妻として、生涯、守り、ともに歩むことを誓いますか?」


「誓う。彼女の笑顔を守り続け、彼女が望む未来を共に築くとここに誓う」


 大聖堂に彼の声が響き、ざわりと空気が揺れる。


「キャシー・セラフィス殿。

 あなたはクラウス・セラフィス公爵を夫として、生涯、支え合い、ともに歩むことを誓いますか?」


 キャシーはクラウスを見つめる。


 その瞳には、あの日――契約書に誓いを記したときと同じまっすぐさがあった。


「……誓います」


 声が震えたが、しっかりと言えた。


 騎士たちが感極まったように鼻をすすり、

 友人たちが感動して肩を抱き合い、

 ガードナー子爵がポケットから布を取り出して号泣していた。






 クラウスは小箱を開け、銀の指輪を取り出した。


 中央に嵌められたのは、小さな魔石。

 キャシーの防御魔法が付与されている。


「キャシー。この石は……俺を支えてくれた君そのものだ。受け取ってほしい」


 彼はキャシーの手を取り、優しく指輪をはめる。


「……ありがとう。大切にするよ」


 キャシーも、クラウスの指にはめ返す。


 その瞬間――

 二人の魔力がふわりと混じり合った。


 淡く金色に輝く光が弧を描き、大聖堂全体を包み込む。


「おお……聖女の……!」


「なんて透明な魔力……」


 参列者たちが息を呑む中、光はゆっくりと消えた。


 誰もが悟った。


 これは契約じゃない。

 本心から選んだ絆なのだと。





「では……誓いの証として、口づけを」


 神官が声を落とした瞬間、キャシーの心臓は跳ねた。


 クラウスがそっと近づく。


(ち、近い……!)


「キャシー」


「……な、なに?」


「愛してる」


「っ……!」


 ゆっくりと唇が触れる。


 短くて、優しくて、あたたかい。


 大聖堂が拍手で包み込まれた。

 それはまるで空まで届く祝福のようだった。





 その後、城の大広間に移動すると、そこには豪華な披露宴が用意されていた。


 巨大なロースト、色とりどりの果物、黄金色のスープ……

 王宮料理人が総動員されて用意した祝宴だ。


「クラウス様ー!こっち向いてー!」「お二人お似合いです!」


 騎士団は完全に飲み会モードで、友人たちはキャシーのドレスを見て大騒ぎ。

 ガードナー家は田舎風の絶品チーズを差し入れ、場はさらに盛り上がる。


 クラウスがエールのボトルを持ってきて、キャシーに差し出す。


「……これ、初めて二人で飲んだ時のやつ?」


「ああ。あの喫茶店の店主が特別に送ってくれた」


「う、嬉しい……!」


 二人はグラスに注ぎ、向かい合う。


「キャシー。

 契約から始まったけれど……俺は最初から君に惹かれていた。

 今こうして、君が隣にいることが……本当に幸せだ」


 キャシーは頬を赤くしながら、グラスを掲げた。


「私も……クラウスを選べてよかった。

 契約じゃなくて……愛で隣にいられるのが、一番嬉しい」


 クラウスが微笑み、グラスを軽く触れ合わせる。


「これからも、よろしく。

 ――俺の妻」


「うん。よろしくね、クラウス」


 カラン、と澄んだ音が響く。


 その音は、

 これまでの迷いも恐れも消し去って、

 “ふたりの新しい人生”の始まりを告げていた。


「――乾杯」


「乾杯!」


 そして、大広間は大きな拍手と歓声に包まれた。


 契約結婚から始まった二人は、

 ついに本当の恋人となり――夫婦になった。


 これは終わりではない。

 ふたりの物語は、ここから新しく始まるのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ