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いきなりの契約結婚は運命の恋でした  作者: あいら


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2/20

2

キャシーの家は、大通りから少し外れた静かな裏通りにあった。

白壁の小さな二階建てで、窓辺には小さな花が揺れている。

決して豪華ではないが、清潔で落ち着く――そんな家だった。


「ここです。あの……本当にありがとうございます」


キャシーが鍵を開けると、クラウスは散らばった魔石の入った鞄を静かに渡してくれた。


「壊れた鞄は……どこに置けばいい?」


「あ、そこに。あとで修理屋さんに持っていきます」


クラウスは淡々と室内を見回した。

部屋には整然と並んだ道具箱と、磨かれた机、そして魔石を加工する作業台。

生活用品もきっちりまとめられており、キャシーの性格がそのまま表れているようだった。


「思ったより……落ち着く家だな」


「えっ、は、はい……? そんな大したものじゃ……」


褒められると思っていなかったので、キャシーは目をぱちぱちさせた。


「……お前の性格が出ている」


(え……急にそんなことを……!)


ほんの少し頬が熱くなる。


もしかしたら、クラウスは無自覚に人をドキッとさせるタイプかもしれない。


「青と緑の魔石か……青色は魔力増幅、緑は……?」


「防御です。えっと、その……色ごとに相場が違うんですけど、これは全部安物なので」


「……自分で“安物”と言うあたり、堅実だな」


「えっ、いや、だって節約しないと、都会はお金かかりますし……」


「悪くない考えだ」


クラウスに真面目に返されるとは思わず、キャシーはなんとなく照れた。


(この人、本当に噂の“氷の騎士”なの? 意外と話しやすい……)


魔石を一通り片付け終わると、クラウスがふと時計の方を見た。


「……昼を過ぎているな」


「えっ、あっ、本当だ! お昼買い忘れてました……」


キャシーはお腹を押さえて苦笑した。

クラウスは少し考えたあと、まるで自然な流れのように言った。


「この近くに喫茶店があったはずだ。……行くか?」


「えっ、い……いいんですか?」


「俺の都合で付き合わせた。礼をしたい」


(……いやいや、ひったくり捕まえたのはあなたなのに!?)


クラウスの言葉は素っ気ないが、断らせる気がまるでない。


キャシーは少し迷ったが、結局――


「じゃ、じゃあ……ご一緒します」


小さく頷いた。


◆◇◆


喫茶店「ルーナ」は、小さな店構えに反して落ち着いた雰囲気を持つ人気店だ。

店内にはアロマのような甘い香りが漂い、昼過ぎでも客足が絶えない。


二人は窓際の席に座った。


「ここのエール、人気なんですよ。飲みやすくて」


「エール……酒か?」


「お酒ですけど、喫茶店のは軽いんです。ほとんどジュースみたいで」


キャシーはメニューを開きながら笑う。

クラウスは彼女の表情を見つめ、わずかに目を細めた。


「……そうか。なら俺も飲んでみる」


やがて店員がエールと軽食プレートを運んできた。


「それじゃ……いただきます」


キャシーはグラスを持ち上げ、琥珀色の液体を口に含む。


「……あっ、おいしい。やっぱりここのは当たりだわ」


クラウスも一口飲み、静かに目を見開いた。


「ほんのり甘いな。苦みがほとんどない」


「でしょ? 果物エールだから軽くて飲みやすいんです」


「……これなら気に入った」


クラウスの口元が、ほんの少し緩んだ。

それを見てキャシーは思わず吹き出しそうになる。


(氷の騎士……甘いエールで笑うんだ……かわいい……)


「何か言いたそうだな」


「い、いえ!? そんなこと……」


誤魔化しながら、サンドイッチにかぶりつく。


クラウスはプレートを少し回し、さりげなくキャシーの方に美味しそうな部分を寄せた。


「え? あ、ありがとうございます……」


(え、え、なに……優しい……? 怖いって聞いてたのに、めちゃくちゃ紳士……)


二人で食事をしつつ、自然と会話が弾んでいく。


「付与師の仕事は、忙しいのか?」


「えっと……繁忙期とそうじゃない時期がありますね。でも楽しいですよ」


「楽しいと思える仕事に就いているのは、いいことだ」


「クラウスさんは騎士の仕事、好きですか?」


クラウスは数秒黙った。

その沈黙は迷いではなく、言葉を選んでいるようだった。


「……誇りはある。だが、好きかどうかは……時と場合による」


「へぇ……なんか分かる気がします」


「お前に分かるのか?」


「簡単じゃない仕事ほど、誇りと苦労が混ざってるものですから」


キャシーが微笑むと、クラウスはわずかに目を伏せて笑った。


「……そうだな。お前はよく見ている」


(な、何その言い方……! 褒めるの上手すぎる……!)


胸が無駄にドキドキする。


その後も、魔法の話、仕事の話、王都のおすすめ料理、買い物事情――話題は尽きなかった。


なにより驚いたのは、クラウスが意外なほど雑談が上手かったことだ。

話す量は多くないのに、絶妙に返してくれる。


気づけば、エールのグラスは空になっていた。


「クラウスさんって、普段もそんなに話すんですか?」


「いや」


「……ですよね」


クラウスは真顔で続けた。


「お前が話しやすいだけだ」


グラスを置きながら、さらっと言う。


「っ……」


(え、ちょ、そんな……ストレートに……!?)


キャシーの顔が一気に熱くなった。


クラウスは首をかしげる。


「何か変なことを言ったか?」


「いえっ、なんでもないですっ!」


(なんなのこの人……! 思ってたのと違う……! 怖い人じゃない……むしろ……)


むしろ、ちょっと――


「……優しいですね、クラウスさんは」


思わず漏れた言葉に、クラウスはふっと目を細めた。


「そんなことはない」


そう言いながらも、少し照れたような表情に、

優しい気持ちになる。


少し、クラウスが黙って、考えた表情をした後。


「――話があるのだが」


と切り出した。

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