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いきなりの契約結婚は運命の恋でした  作者: あいら


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王宮の来賓室は、朝の光を受けて柔らかく輝いているはずなのに、キャシーにはひどく冷たい場所に感じられた。


 昨夜、“聖女”と呼ばれてしまった瞬間からすべてが急に動き始めた。

 命を落としかけた王子に反射的に回復魔法を施した――ただそれだけのはずなのに。


 人生が勝手に動いていく感覚が、ずっと胸に居座っている。


(どうして、こんなことになってしまったんだろう)


 控えめにノック音が響き、侍女が扉を開ける。

 入ってきたのは政治局の局長――国政の中心にいる人物だ。


「聖女様。お待たせしました」


「……はい」


 キャシーは背筋を伸ばし、彼の言葉を待つ。


「あなたには、“聖女”としての立場が生まれました。

 聖女は古来より、王家と関係を結ぶのが慣例です」


(やっぱり……)


 覚悟していた言葉だった。しかし、胸が苦しくなる。


「ただし、王太子殿下にはすでに婚約者がいる。

 そのため、あなたとの婚姻を成立させることは、政治的に極めて難しい」


 胸の鼓動が、ぎゅっと跳ねた。


 なら――わたしは自由でいられる?


 そう思ったのも一瞬だった。


「そこで、王家は別の選択肢を検討しました。

 ――あなたには“ある男性”との縁談が提示されます」


「ある……男性、ですか?」


「ええ。相応しい地位を持ち、聖女を迎えるにふさわしい家柄の――」


「嫌です!」


思わず反射的に叫んでしまった。


「好きな人がいるのです、その人以外考えられません!」


しかし局長は静かに告げる。


「聖女様である以上、国の重要人物との結婚は国の定めです」


心臓が締め付けられるように苦しくなる。


残酷な言葉に、私は静かに涙を流した。




 

数日たって、結婚相手となる”ある男性”と対面する事になった。


「“ある男性”って……誰なんですか?」


 キャシーは不安を押し殺し、正面から尋ねた。


 局長は一拍置き――静かに名を告げる。


「クラウス・セラフィス公爵です」


「…………え?」


 思考が止まった。


 (聞き間違いじゃないよね?)


扉から、正装したクラウスが現れる、


心臓がどきどきして、以前とは違う意味で泣きそうになった。


「こ、公爵……って……

 あなた、子爵じゃなかったの……?」


「嘘をついていたわけじゃない。

 今までは子爵の身分しか持っていなかったから――」


 クラウスは手袋を外し、胸に手を置く。


「父を説得して急遽、俺が家督を継いで公爵家の当主になった」


 キャシーの頭が、真っ白になった。


(じゃあ――政略結婚の“相手”は……クラウス?

 わたしが好きになった人、その人自身が……?)


 局長が淡々と続ける。


「聖女にふさわしい立場として、公爵家は理想的だ。

 あなたが王太子に嫁がない以上、次点はクラウス公爵となる」


 喜びが溢れてくる。


 こんな事って!私は神に感謝をした。


 



「……局長」


「何か?」


「キャシーを駒に使うのは、やめていただきたい」


 クラウスは真っ直ぐに言い切った。


「俺が彼女を選ぶ。ただそれだけです」


 局長は目を瞬いた。


「あなたから、そのような言葉が出るとは……」


「俺はこれまで政治に興味を示さなかったが、

 彼女が関わるなら話は別だ」


 クラウスはキャシーの手を取り、堂々と言う。


「キャシーは、俺の妻にする。

 政略ではなく、俺自身の意志で」


「……クラウス……」


 名前を呼ぶ声がふるえる。


 クラウスはそっと微笑んだ。


「お前を守る。どんな相手が敵になろうと」


 その言葉が胸に落ちた瞬間、キャシーはもう涙を止められなかった。


 嬉しくて、怖くて、でも――確かに満たされていた。


「クラウスが……選んでくれるなら……

 わたしも、あなたを選びたい……」


 クラウスはキャシーを抱き寄せ、優しく耳元で囁く。


「なら、もう決まりだ」




「聖女様、相手は公爵だそうです」

「やはり、クラウス公爵か……!」

「しかし互いに“恋愛関係”だという噂が……」


 王宮中に噂が駆け巡った。


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