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いきなりの契約結婚は運命の恋でした  作者: あいら


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12

 王宮での一件から数日後。

 キャシーとクラウスの日常は、以前より少しだけ柔らかい空気に包まれていた。


 朝食の準備を終え、キャシーがテーブルに皿を並べていると、

 寝起きのクラウスが寝癖のままキッチンへ入ってきた。


「おはよう……キャシー」


「おはようございます。今日は少し遅めですね」


「昨日の夜勤の疲れが残っててな……手伝うよ」


「大丈夫ですってば。座っててください」


 しかしクラウスは聞かない。


「いや、このくらい……」


 その瞬間、ガシャンッ!!


「えっ!?」


 テーブルの端に置かれた皿を手に取ろうとしたクラウスは、

 寝ぼけたまま角度を間違え、見事に床へ落としてしまった。


 無惨にも粉々に砕け散る陶器。


「あ……やった……」


「クラウスさん!? 大丈夫ですか!?」


「……皿が、割れてしまった」


「違う! 手を見せてください!」


 キャシーが慌てて駆け寄り、クラウスの指先を掴む。

 小さな切り傷ができていた。


(やっぱり……!)


 慌てて救急箱を引っ張り出し、手当をする。


 クラウスは穏やかに笑った。


「ありがとう。

 ……皿の心配より、俺の指を真っ先に見るあたり、君らしいな」


「べ、別に……当然ですよ!」


(なんだろう、この気まずさと嬉しさが混ざった感じ……)


 砕け散った皿はキャシーが住んでいた所から持ってきた皿だ。


「……ごめん。割ったの、俺だ」


「いえ、寝ぼけてたんですから仕方ないですよ」


「でも……」


 クラウスが気まずそうに目をそらすのが、珍しくて少し可愛い。


「セールで安かったお皿を更に割引して買ったお皿なんです!

 そんなに気にしないでください」


「きみらしな」


やっとクラウスが笑顔を見せてほっとする。


「じゃあ、新しいのを買いに行きましょう。

 ちょうど休日ですし!」


「いいのか?」


「もちろん。……ふたりで選びたいですから」


 その瞬間、クラウスの目がわずかに見開かれた。

 驚きと、嬉しさと、照れが混ざったような表情。


「……行こう」


***


 休日の市場は活気に満ちていた。

 野菜の匂い、焼き菓子の甘い香り、遠くから聞こえる楽器の音。


「今日は人が多いな」


「休日ですからね。あ、あそこ食器屋さんです!」


 キャシーが指差す先には、小さな陶器店が並んでいた。


「わぁ……可愛い……」


 素焼きの皿、手描きのカップ、ガラスの瓶。

 キャシーは目を輝かせながらひとつひとつ手に取っていく。


 クラウスはその後ろ姿を、静かに見守っていた。


(……本当に、楽しそうだな)


「クラウスさん、これとかどうです?」


 キャシーが差し出したのは、淡い花模様の皿。


「いいと思う。君らしい」


「えへへ、可愛いですよね」


「……で、もせっかくだからお揃いにしたいな」


 店員が微笑ましそうに見てくる。


「そうですね、なら……」


と白色に金の柄が入ったお皿を手にする、

どんな料理にも合いそうで、これならクラウスが使っても違和感がない。


「これなんかどうです?」


「いいな」


「じゃあ、決定ですね」


そうして、そのお皿を2枚買う事にした。


 さらにカトラリー売り場を回り、

 フォークやスプーンもお揃いにした。


「銀色のスプーンにフォーク。んー、いいですね!」


「食事が楽しくなりそうだ」


「ふふっ、ですね!」


 袋に食器を詰めながら、キャシーは胸の奥が温かくなるのを感じた。


(……こんなふうに買い物するなんて、昔の私からしたら考えられないな)


***


 市場の奥へ進むと、木工品の露店が見えてきた。


「キャシー、あれ……」


「あっ……!」


 二人の視線が同時に止まったのは、

 美しく磨かれた木製のカップ。

 エール専用の、ずっしりとした造りだ。


「すごい……!」


「この木目、珍しい。

 硬質で、温度が変わりにくい材だ」


 店主がにっこりと笑う。


「旦那さん、よく分かってるねぇ。

 これは旅人や冒険者に人気のエールカップでね。

 ふたりで揃える方も多いよ」


「そ、揃えるって……!」


 キャシーが慌てて赤くなると、

 クラウスは迷いなく言った。


「揃えよう。

 君とエールを飲むの、好きだから」


「!!!」


(急にそんな……! 店主さんの前で!)


 キャシーが顔を真っ赤にすると、店主は爆笑した。


「仲がいいねぇ!

 新婚さんかい?」


「ち、違っ……」


「そうです」


 クラウスの無表情の即答に、キャシーは口をパクパクさせる。


(この人は本当に……!!)


 結局ふたりは、

 木目違いのペアカップを購入した。


 キャシーは淡い色合い、クラウスは深みのある色合い。

 まるで二人の性格がそのままカップに宿ったようだった。


***


 夕方。

 買ってきた食器を洗い、棚に並べながらキャシーは思った。


(……なんか、もう)


 隣でクラウスが木製カップを手にしながら言う。


「新しい食器、いいものだな」


「はい……なんか……“ふたりの暮らし”って感じがして」


「俺も……そう思ってた」


 クラウスの声が低く優しい。

 その響きに胸が少しだけ跳ねた。


「キャシー。

 皿を割ったの、悪かったな」


「もういいですよ。新しいの買いましたし」


「でも……君が怒らなくて助かった」


「怒るわけないです。だって……」


 キャシーはそっと目をそらす。


「クラウスさんが、怪我した方が嫌でしたから」


「……!」


 クラウスは一瞬言葉を失ったように固まり、

 次に、ゆっくり微笑んだ。


「……ありがとう。

 君のそういうところ、本当に……好きだ」


「ま、まって今のは聞こえませんでした!」


「聞こえなくていい」


「ダメです!!」


 ふたりの声が重なり、小さな部屋に笑いが広がった。

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