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直球勝負

〈ラムネー氏安吾書きける笑話かな 涙次〉



【ⅰ】


 蓮田右馬之進が刑期を終へて出所してきた。彼は刑務所内で【魔】に魂を賣つてゐた。娑婆(しやば)に出てきてまづやつた事、それは即ち放火であつた。彼は文字通り「放火【魔】」となつたのだ。然も、一回のみならず、その犯行を何度も繰り返した。

 当然の事ながら、「魔界壊滅プロジェクト」は、アンテナを張り巡らし、右馬之進が一連の放火の犯人として、怪しい、と睨んだ。仲本は、佐々圀守キャップを出張らせたが、なかなか右馬之進の行方は定め難く、その一件(ヤマ)は結局「カンテラ一味」頼りになる。



【ⅱ】


 魔界に、赤坂主殿(あかさか・とのも)と云ふ【魔】がゐた。彼は、講談・お菊さん傳説で知られる『番町皿屋敷』の、お菊さんを死に追ひやる火付盗賊改方・靑山主膳のモデルである。

 彼は生前、右馬之進の主筋である内藤家の墓處が存在する、市ヶ谷駅近く、番町に廣壯な屋敷を構へてゐた(お菊さんの事件のしくじりで、幕府に没収される)。或ひは、生前の役目が火盗改であつた事からか、カンテラ一味の内藤主従との死闘、それと、伊達剣先の内藤游行斬殺、にいたく興味を持つてをり、成佛を狙つて(作者は以前に、魔界の住人は成佛する事を嫌ふ、と書いたが、彼は魔界での待遇にほとほと嫌氣が差してゐた。要は殿様氣質(かたぎ)なのである)、右馬之進捕縛をしてやらう(「善行」は成佛の条件である)と、人間界に出て來る事となる。



【ⅲ】


 テオの調べで、右馬之進の居處はたちどころに分かつた。後はカンテラ・じろさんが出向いて、彼を斬るまでの事だつたが、それには赤坂が邪魔となる。赤坂、柳生新陰流免許皆傳であり、敵に回すとなかなかに手強(てごは)い。テオ、赤坂が人間界に出てきてゐる事もキャッチ、一味は、取り敢へず赤坂討伐の勞を執らねばならなかつた。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂

 

〈錠剤を一つなくせば一日が台無しとなるそれのすれすれ 平手みき〉



【ⅳ】


 赤坂がゐて、良かつた事もある。彼は獨特の嗅覚で(生前の職掌に依るものか)、右馬之進の次に放火する現場を割り出してゐた。赤坂を追へば、右馬之進の犯行現場を押さへる事が出來る。テオは、右馬之進の行方より、赤坂の行方を追ふ事にした。


 赤坂、出没-「シュー・シャイン」が張り付く。「シュー・シャイン」は蟲だつたが、一應動物、と云ふ括りで、どんなに離れてゐても、テオとテレパシーで交信する事が出來た。

「テオさん、今赤坂は、赤坂見附駅(洒落ではない)付近にゐます」。テオの報せを聞いた、カンテラ・じろさん、現場に急行した。勿論じろさんのトヨタ・コロナ改で、である。赤坂との對決は、カンテラの剣に依るものだらうから、じろさんは運轉手役に徹した譯。



【ⅴ】


 赤坂は、その和装、刀を提げてゐる事から、周囲からは浮いてゐた。「何あれ、時代劇のロケかしら?」などゝ云はれてゐる事には、本人氣が付いてゐない。そこに、カンテラの登場である。野次馬にとつては、こんなに面白い展開は他にない。黑山の人だかりとなつた。


 赤坂、「貴様がカンテラか。一度手合はせしたかつたところだ」。カンテラ「赤坂さん、あんたに怨みはないが、刀の錆になつて貰ふよ」。赤「何を!?」カ「あんた生前左で刀を捌く者を斬つた事あるか?」赤「???」。カンテラは、結果としては圧勝だつた。豫想通り、赤坂の新陰流は、左腕から繰り出される刀術に、全くなす術もなかつた。「しええええええいつ!!」

 カンテラ「案ずるより産むが易し、だな」。だが、結果としては赤坂、成佛する事になり、彼の為にもこの對決、良かつたのではないか? カンテラ、不敵に嗤つた。野次馬たちは、ピーピー指笛を鳴らしたり、やんやの大喝采である。



【ⅵ】


 その場から、右馬之進、隙を伺つて、こそこそ逃げ出さうとしてゐた。彼は出處した時の恰好、即ち普通の洋装であつたが、耳がない(カンテラに斬り落とされた事、覺えておいでか?)ので、すぐそれと知れた。

 じろさん「今日はクルマ轉がすだけだと思つてゐたが-」。右「此井先生! 何卒お目こぼしを...」-「誰がお前のやうな『放火【魔】』を許して置くと思ふ?」


 サインをねだりに來たり、何かと野次馬が邪魔だつたが、じろさん、右馬之進をまんまと捕縛、その儘、カンテラに差し出した。「右馬之進、覺悟!!」-「しええええええいつ!!」。カンテラにとつては、ほんの据へ物斬り、であつた。



【ⅶ】


 と云ふ顛末。金尾が「プロジェクト」本部に出向き(おつ、金尾くんが來たのか! と仲本)カネを受け取つた。一件落着、事はスムース過ぎた嫌ひがあつた。笑。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈草取の腰の痛くて笑ふ哉 涙次〉



 作者追記:たまにはストレート勝負で、と思つて書いてみた迄の事。變化球がこゝのところ、續いてゐたからね。


 それでは。

 

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