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【完結】金曜日の霞  作者: 社菘
3.秋

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25/36



棗のバイト先に初めて行った後、蜜夏は学生時代の友人である真珠朔斗(まだまさくと)に数年ぶりに連絡をした。


「みつかー!」

「さくと!」

「めちゃくちゃ久しぶりじゃん!会えて嬉しいよ!」

「忙しくて連絡できなくてごめん。おれも会えて嬉しい」


朔斗は昔から小柄で華奢な印象で、学生時代にケーキに転換しているのが分かった時は蜜夏が側にいてずっと守っていたくらいだ。


男子校だったのだが、朔斗を狙っていた輩も多かった。朔斗は弱々しいというより儚い印象で、そんな朔斗にもともと片思いをしていた男は数知れず。朔斗がケーキだと分かってからはフォークの同級生たちが揃いも揃って彼を狙い、乱暴しようとした過去もある。


フォークのパートナーができてからは朔斗も幸せそうで、蜜夏の代わりに彼を守ってくれる恋人に安心して朔斗を任せたのを今でも鮮明に覚えている。確かその恋人は外部の絵画サークルで出会った年上の人だった。


「高梨さん、元気?」

「うん!久しぶりに蜜夏と会うって言ったら、俺も会いたいなって言ってたよ」

「そんなこと言われたら会わなくちゃね」


高梨李吹(たかなしいぶき)は朔斗の恋人で、蜜夏たちより2歳年上のフォークの男性だ。今でもまだ朔斗と変わらず付き合っていることが分かって蜜夏は安心した。


ケーキに転換していたのが分かった学生時代、朔斗はあまり笑わなくなったのだ。


自分はいつかフォークに全て食べられるために生まれた人間なのだと嘆いて、いつ自分の体がなくなってしまうか恐れて毎日泣いていた。


そんなある日、外部の絵画サークルで李吹と出会った朔斗はだんだん変わって、愛される喜びを知ってから再び笑うようになった。幸せそうな朔斗を見て、もう自分が守らなくても大丈夫なのだなと蜜夏は安心したものだ。


この数年、悪い報告はなかったので大丈夫だと思っていたのだが、やはり順調に二人は関係を育んでいるらしい。


「綺麗になったね、朔斗」

「へっ!?」

「すごく輝いてる」

「あ、あ〜…蜜夏からそういうこと言われるとすごく恥ずかしいんだけど……」

「だね。おれも言ってて恥ずかしくなってきた」

「でも、ありがとう。実はこの前、プロポーズされたんだよね」

「そうなの!?うわぁ、おめでとう!」

「ふふ、こんな道端で報告すると思ってなかった」


よく見てみると、朔斗の左手の薬指には綺麗な指輪が鎮座していた。


小ぶりだがしっかりと存在感を放っているダイヤが眩しい。朔斗は頬を赤ながら嬉しそうに笑っていて、蜜夏も心の中がほわっとする。


友人の幸せな報告を聞くのがこんなに嬉しいなんて、今まで知らなかった。


「あれ、蜜夏が僕を連れてきたかったのってここ?」

「うん。知り合いがバイトしてるんだけど、朔斗が好きそうな絵が飾ってあったから見せたいなと思ったんだよね」

「もも先生、いらっしゃいませ〜!って、今日一緒に来るお客さんって真珠さんだったんですか?」


人で賑わっている金曜日の夜、店に入ると出迎えてくれたのは琥珀だった。


そして琥珀が朔斗を知っているのに蜜夏は驚いていると、朔斗が壁に飾られている絵を指さして「あれ、僕の絵」と教えてくれたのだ。


「えええ!?じゃあおれ、本人に本人の絵を見てもらおうと誘ったってこと……!?」

「そういうことになるね。でも知らなかったんだし仕方ないよ」

「まさかもも先生と真珠さんが知り合いとはね。世間って狭いなぁ」


事前に週末は混むと聞いていたので予約をしていて、初めて蜜夏が来た時と同じ店の奥のソファ席に案内された。


恥ずかしいことをしてしまったと項垂れる蜜夏を二人は笑いながらフォローしてくれたのだが、その優しさも今の蜜夏には痛い原因だ。


「でもよく、僕が好きそうな絵だって分かったね」

「だって、タッチが…学生時代に見てた朔斗の絵と似てたから……」

「そっか。蜜夏がこの絵で僕のことを思い出してくれたことが嬉しいよ」

「朔斗はどうして琥珀さんの店に絵を?」

「一時期創作に行き詰まってたことがあってさ。その時に偶然このカフェに来て、まさにこの席でスケッチしてたんだよね。そしたら琥珀さんが絶賛してくれて……あの人、人を乗せるのが上手くない?まんまとスランプから脱却したわけ」

「へぇ、そんなことがあったんだ」

「そのお礼として絵をプレゼントしたんだよね。結果的に、蜜夏がこの店に来てくれてよかったよ。蜜夏はどうしてこの店に来たの?」


そう言ってふんわり笑う朔斗を通り越して蜜夏の目に映るのは、女性客にきゃあきゃあ言われている棗だった。棗と同い年くらいの女の子たちもいるけれど、圧倒的に年上のお姉さんが多いように見える。


夏休みに棗が蜜夏の家に来る時に『店に貢献したから一週間休みをもらった』と言っていたのは、このことか。


棗目当てで来ている人が多いのは一目見れば分かるし、どうやって彼が店に貢献しているかも分かる。ただ、棗がアイドル的存在なだけではなく、仕事もきちんとしているから評価も高いのだろう。


わざわざ人で賑わう週末ではなく棗がいない平日の昼にでも来たらよかったと後悔して、蜜夏は思わず深いため息をついた。


「知り合いが、ここで働いてて……」

「知り合いって琥珀さん?」

「や、琥珀さんではないんだけど……」

「もしかして、あのイケメン王子?」

「えっ!?い、イケメン王子ってなに!?」

「カフェ・ブランのイケメン王子って一部では有名だよ。黒髪高身長の正統派イケメンがいるカフェだって」

「せ、正統派イケメンの王子……わかるけど……」

「………複雑そうだね?」

「そ、そんなことは……っ!」

「蜜夏さん!やっと挨拶に来られました」


棗を取り囲んでいた女性たちの輪の中から抜け出してこちらのテーブルに挨拶に来てくれた。


そんな棗からふわりと香ってくる、彼のものではない甘い匂いに心の中は霞がかかったようにモヤモヤして、むうっと唇を尖らせた。


「真珠さん、蜜夏さんとお知り合いだったんですか?」

「うん、学生時代からの親友」

「学生時代?ああ、ふーん……」

「棗くんが蜜夏の知り合いなの?どんな関係で知り合ったわけ?」

「うちの学校のカウンセラーです。俺が一目惚れして、もう一年半アタック中」

「ちょ、コラ!」


棗があっけらかんと言うものだから、蜜夏は顔を真っ赤にさせて彼の口を塞ぐ。


棗の言葉に朔斗も驚いた顔をしていたけれど、すぐに「なるほどね」と言いながらくすくす笑っていて、蜜夏は恥ずかしさにぎゅっと唇を噛んだ。


「そうやって焦ったり照れたりする蜜夏、初めて見たかも。棗くんのおかげだね」


そんな朔斗の言葉に、次は棗が微笑む番だった。





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