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IF早過ぎたラグナロク2話 スザクの命

城下町に着いた。



  行き交う神々の姿があちこちに見え、それなりの数が往来している。けれど、いまの私には、そのどれも希望に見えない。手の中のスザクが衰弱して、残り時間がほとんどないように思えるからだ。



 いつもなら平然と通り過ぎてしまう街並みも、今日は違って見えた。焦りが胸を締めつける。少しでも早く、鳥に詳しい神を見つけなければ――そうでないと、スザクは命を落としてしまうかもしれない。



(誰か、鳥に詳しい神はいないの……?)



 思い切って、私は大声を上げた。普段はめったに使わない丁寧な言葉で、周囲に呼びかける。



「鳥に詳しい神はいませんかー?」



 喉が潰れそうなほど張り上げたつもりだ。けれど、近くを歩いていた神々は一瞬こちらを振り返っただけで、私の顔を見てからすぐに目をそらし、無視して歩き去ってしまった。



(そんな……こんなに神がいるのに、誰も私に答えてくれないの?)



 ここまで露骨な拒絶を受けると、さすがに胸が痛む。私は嫌われている――わかってはいた。けれど改めて突きつけられると、まるで地面に突き落とされるような虚脱感に襲われる。



 やがて、ひんやりとした風が吹き抜け、スザクの小さな体が震えるのを感じた。どうにかしないと、時間がない。思いきり唇を噛んで気を取り直し、通りすがりの神に個別に声をかけることにする。



「あなた、鳥に詳しくないですか?」



 けれど、私を認めないこの町の神々は、罵倒を浴びせてくるだけだった。



「失せろ、媚びるしか能が無いクズが!」



「話しかけるな、クソ女神が!」



 懸命に声をかけても、無視、罵倒、無視、無視、罵倒……。耐え難いほどの冷たさに、胸がすくむ。



(こんなに私は嫌われていたのね……)



 今さら痛感しても、もう遅い。それでも立ち止まればスザクが死んでしまう。自分のことよりも、スザクのために助ける手段を探らなくちゃいけないのに。頬を刺す寒さが、心の冷えまで際立たせているようだった。



 私が頼れるのは――スクルド。


 そう思ったが、スクルドは見つかるはずのないユーミルを捜索して、飛び回っているはず。どこにいるのかもわからない。



(だったら、ヴェルザンディなら……)



 閃いた私は、治安維持部隊の詰所へ向かうことに決めた。彼女なら何か知っているかもしれない、とわずかな希望を抱いて。だけど、私が走り出そうとしたそのとき。



「おやおやー、媚びるのが得意な女神様じゃないですか。こんな下級神の区画に何の御用ですかー?」



 ヘラヘラと薄笑いを浮かべた3柱の男たち――以前にも絡んできた3級神どもが、前方を塞いでいる。こんな時に限って、ろくでもない連中と鉢合わせするなんて。



「……どいて」



 スザクを抱きしめる両手が塞がっているせいで、刀を抜くこともできない。今は一刻を争う状況。言い争いに割く時間などないのに。だが、彼らは私の道を遮り続ける。



「そんなに急いでどこへ行くんですかー? また2級神様に媚を売りに行くんだろうなあ、クソ女神さんよ」



 吐き捨てるような嘲笑が腹立たしい。いつもなら相手をしてやるかもしれないが、いまはそんな暇は一瞬だってない。



 私は強引に彼らを無視し、逆方向へと駆け出した。背後から聞こえる「逃げるんですかー?」という声を振り切るように、ただただ走る。スザクの体が小刻みに震えるのを手を通して感じ、焦りがどんどん加速する。



(こんな奴らに関わってる暇なんてない! お願い……少しでも早く……!)



 背中に突き刺さるような悪意を感じながら、どうにか詰所近くまでたどり着いた頃には、男たちは諦めて消えていったようだ。やっと少し前に進める。



「ヴェルザンディ!」



 詰所に入るやいなや、大声で彼女を呼ぶ。でも、中を見回しても姿はない。目が合った隊員は、私だとわかると目を逸らした。



「ヴェルザンディはどこ?」



 近くにいた隊員に尋ねるも、



「知らねえよ、下級神が!」



 返ってくるのはまたしても罵倒。こんなに追い詰められた状況なのに、何もか上手くいかない。やるせなくて胸が痛い。スザクが弱々しい声を絞り出そうとしているのがわかり、さらに焦る。



(ここにはいない……巡回に出てるんだろう。3級神の区画じゃ見かけなかったから、多分2級神の区画にいるはず……)



 希望の糸を手繰り寄せるように、私は急いで門を目指す。だが――。



「ちょっと待て。3級神が2級神の区画に何の用だ?」



 門番が腕を組み、通せんぼする。その表情はすでに拒絶で固まっている。ノルンの許可があるから、顔パスできるはずなのに、今日に限ってまるで覚えてもいないかのようだ。



「ヴェルザンディに会いに行くのよ。そこを通して!」



「そんな理由じゃ通せん。帰りな」



 もうウンザリだ。スザクがまともに息できていないのに、こんな下らないやりとりで時間をつぶすわけにはいかない。



「通らせてもらうから」



 私は門番の脇を素早くすり抜け、強引に2級神の区画へ駆け込む。遠くで「待てー!」という怒声が上がるが、構っていられない。



 走りながらも、大声で呼びかける。



「誰か鳥に詳しい神はいませんかー!」



 けれど、3級神の区画と同じ。無視されるか、目を合わせてくれないか、どちらにしても冷たい反応ばかり。



 呼吸が乱れてきても足を止めるわけにはいかない。スザクが苦しそうにか細い声を漏らすたびに、心臓が潰されるような痛みを覚える。



(お願い……ヴェルザンディ、いて……!)



 必死に区画を走り回り、ようやく金髪の鎧姿を見つけた。



「ヴェルザンディ!」



 疲労も限界に近いが、私は大声で呼びかける。彼女が振り向く。



「エリカ? 2級神の区画に勝手に入ってはダメだろう。早く出て行くんだ」



 そう言われても、今はそんな規則の話をしている場合じゃない。



「スザクが病気なの。何とかしてくれそうな神を知らない?」



 両手の上の小さな命が今にも消えかけている。私の必死さが伝わったのだろうか。ヴェルザンディは少し考えてから、真剣な表情で答えてくれた。



「お前が手に持っている鳥のことか……。あいにく、私も動物には詳しくなくてな。……ウルド姉様ならあるいは」



 ここまで散々罵倒され、無視されてきた私に、ようやくまともな返事をくれる神がいた。少し胸が熱くなる。



「ウルドね……」



 気は進まないが、時間がない。誰でもいいからスザクを助けられる可能性があるなら、それに賭けるしかない。私は走り出そうとした。



「待て!!」



 ヴェルザンディの声が追いかけてくる。眉間に皺を寄せながら振り返ると、彼女は息をつきながら言う。



「私も行こう。お前だけだと、ウルド姉様は会ってくれないかもしれない」



 仕事中だろうに、わざわざ付き合ってくれるなんて意外だった。スクルドの姉だけあって、優しい部分があるのかもしれない。私は黙ってうなずき、ウルドの屋敷へ走り出す。ヴェルザンディが後ろをしっかりとついてきてくれるだけで、どこか心強い。






--- 






 ウルドの屋敷に着くと、ヴェルザンディが大声で呼んでくれた。



「ウルド姉様、いらっしゃいますかー?」



 私が以前呼んでも姿を見せなかったウルドが、今回は長い赤髪をなびかせながら、片目だけぎょろりと覗かせてくる。さすがはヴェルザンディだ。こんなにもあっさりと会えるとは。



「ど、どうした?」



 ウルドの視線が私の手の上のスザクに移る。そのままヴェルザンディが要点を説明してくれる。



「エリカが小鳥を助けて欲しいそうです」



「と、鳥は専門じゃないんだが、み、見せてみろ」



 私は急いでスザクをウルドの手の上にそっと乗せる。ウルドが慎重な面持ちで小さな体をチェックする。その目つきに一抹の期待を抱いたが――。



「ふ、ふむ。ふ、普通の鳥じゃないな……た、助けられないことも……い、いや無理だ」



 突然、ウルドは残酷な真実を突きつけるように声のトーンを変える。何か怒らせてしまったのかと、私の心臓が跳ねた。



「す、すまない。い、いくら私でも、し、死んだ生物を生き返らせることはできない」



 その言葉が、すぐには理解できなかった。さっきまでまだ息があったスザクが……死んだ?



「も、もう少し早ければ、た、助けられたんだが……」



 慰めの言葉も空々しく響いてしまう。私は目の前が真っ白になるような感覚に襲われ、ウルドの手からスザクをひったくるように取り戻す。



「スザク! 眼を開けなさい!」



 頭をつつき、声をかけ続ける。だけど、スザクの体はすでに冷たく、まったく動かない。



「虫なら一杯捕まえてあるの。好きだったでしょう? だから……お願いだから……目を開けてよ!」



 激しく溢れ出す涙で視界がにじむ。自分がこんなに泣けるなんて思わなかった。小さな鳥が死んだだけで、こんなにも胸がえぐられるだなんて。



「スザクー!」



 嗚咽混じりの叫びだけが屋敷の中でこだまし、虚しく散っていく。ウルドもヴェルザンディも、ただ黙っていた。







--- 





 どれほど泣きわめいたのか、自分でもわからない。気がつくとヴェルザンディが私の体を支えて、家まで担いて運んでくれた。



「今日はゆっくり休むといい。お前が元気でないと、スクルドも悲しむからな」



 そう言い残して、ヴェルザンディはまた町へ戻っていった。私は眠れるわけもなく、冷たくなったスザクをそっと家の近くの地面に埋めてやる。神であるスザクの血液を採取すれば、自分の力を上げる糧にできるのはわかっていた。でも、そんなこと絶対にしたくなかった。



 適当な大きさの石を拾って、墓標のように置く。そこに「スザクの墓」と刻んでいると、震えが止まらなくなった。



「エリカ……」



 ふいに背後から声が聞こえて、振り返るとスクルドが立っていた。鎧姿でもなく、白い羽を広げてもいない、いつもの姿だ。



「スクルドー」



 私は突き動かされるように彼女に抱きついた。



「どうしたの?」



 彼女は戸惑いながらも優しく声をかけてくれる。背中をそっと撫でられ、私はその温もりに少しだけ救われる気がした。



「スザクが衰弱してて……」



「そう、それで」



 スクルドの落ち着いた返事につられるように、私は今日あったことを話し始める。町の神々に無視され、罵倒され、邪魔をされ――それでも必死に助けを求めたのに、間に合わなかったこと。



「邪魔ばっかり入って……。誰も助けてくれなくて……」



「大変だったね……」



 スクルドが今までになく優しい声音で応じる。そんな彼女の態度に、これまで押し殺していた感情が堰を切ったようにあふれ出す。



「スザクが死んじゃったの!」



「よしよし、あたしの胸で我慢せずに泣いていいわ。気が済むまでここにいてあげるから、ね」



 その言葉に甘えるように、私は思いきり泣く。こんなにも涙を流したことなんて、生まれて初めてだったかもしれない。じわりとこみ上げる悲しみが、収まるどころかますます大きくなっていく。



「こんなに悲しくなるなんて、思わなかった! 辛かった!」



「辛かったね。悲しかったね。大丈夫、あたしが全部受け止めてあげるから」



 スクルドの胸に顔を埋め、嗚咽を繰り返すうちに、少しずつ心が落ち着いていくのを感じる。けれど、同時に何か真っ黒な感情が渦巻いているのを、私ははっきりと自覚していた。



「……スクルドは死んだりしない?」



「ええ、あたしは原初の時からずっと生きているもの。そう簡単に死んだりしないわ」



「約束してくれる?」



「絶対にあたしは死なない。大丈夫よ」



 その言葉にわずかに安堵し、緊張の糸が解けたのか、私の意識は遠のきかける。スクルドの温もりが、眠りへと誘うような優しい子守唄みたいに感じられた。



 だけど、その最中、私の心の奥底では濁った感情がぐつぐつと煮え立っていた。



(殺す! 殺してやる! みんな殺してやる! スザクを見殺しにした奴ら全員殺す! 苦しめて、絶望させて、バラバラにしてやる! 腐った奴らはみんな死んでしまえばいい! 生かしておくものか!)






--- 





 現在のエリカのステータス



 神力……1万



 特殊能力……発明、暴食、ちょっとだけ未来視、毒耐性、無限成長、再生、予言? 




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