菊池カラと菊地かな
小学5年生の菊池さんの話。
私、菊池カラは、人と話すのが苦手だ。
話を聞くだけならいいが、自分の思ったことや考えたことを話すのがとても苦手だ。
どれがベストアンサーなのか、何を言ったらダメなのかわからない。
だから、友達はいらない。
私にとって学校は少し疲れる場所。
そして、それは家でも同じ。
私は家でも何を話していいのかわからないし、なんだか疲れる気がする。
私にはお父さんがいない。
お母さんと私の2人で暮らしている。
お母さんはいつも怒ったり、泣いたりが忙しい。
お母さんがご機嫌な時はいいけど、それ以外の時は本当に何を話していいかわからない。
私はお母さんに笑っていてほしいと思う。
笑わせたい気持ちはたくさんあるけど、いつも何をしたらいいのか私にはわからない。
家でお母さんの顔色ばかり窺って過ごしていたら、そのクセがついてしまった。
人の顔色ばかり気している私は、人と話すのが苦手だし疲れる。
◇◇◇◇◇
4月。
今日は小学5年生クラス替えの日。
親友と呼べる友達はいないので、クラスに誰がいても気にならないし、誰かと同じクラスになりたいという願いもない。
クラス分けの表を確認して、名前の順に席に座る。
そして、思った。
なんか、少し寂しい。なんでだろう?
いつもそんなこと思わないのに。
私は自分の気持ちもよくわからない。
少し寂しいのは、周りの人のやりとりを見たからかもしれない。
一緒のクラスだねとか、クラス離れちゃったけど休み時間会いに行くねとか、私にはそんなやりとりをする人いない。
席に座ってホームルームの時間がくるのをただ待っていた私に男子が話しかけてきた。
「ダブルきくちじゃ〜ん!【サンズイのカラ】と【土のかな】じゃ〜ん。」
小学生5年生の男子はバカだらけだ。
ちなみに【サンズイのカラ】は私、菊池カラ。
【土のかな】は多分、前の席の菊地かなちゃんだ。
名前はクラス替えの表に書いてあったし、かなちゃんはムードメーカー的な目立った存在で知っていた。
同じキクチだけど、菊池と菊地で漢字のサンズイと土の違いを男子はオレって面白いこと言ったよな?またはオレって頭いいよな?という感じで言っているのだろう。
何も言わない作り笑いの私。
笑うところ?怒るところ?正解がわからない。
カナちゃんは男子に言い返していた。
「それ、全然面白くありませーん。土のカナって誰それ?あんた、漢字読めないの?バカじゃない?」
あーだこーだ言っているが楽しそうだ。
人と話すことは苦手だけど、私は人と話したい気持ちがあることに気がついた。
◇◇◇◇◇
5月。
それから、席が前後ということで少しずつかなちゃんと話すことが増えていった。
今は前より自分の思ったことや考えたことを話せるようになった気がする。
◇◇◇◇◇
7月。
もうすぐ夏休み。
友達に会えなくなることが寂しいと初めて思った。
私は友達と夏休みに会いたい気持ちがあった。
「夏休み、一緒に宿題やらない?あと、プールも行きたいんだけど、どうかな?」
心の中で何回か復唱して、声に出した。
私は思い切って、かなちゃんを初めて誘った。
断られたらどうしようとドキドキした。
「カラから誘うの初じゃん!?ねぇ、宿題はさっさと終わらせて、花火とかお祭りも行きたくない?」
かなちゃんの返答に喜びしかない。
友達との予定があるだけでこんなに楽しい気持ちになるんだな。
今年の夏は楽しいが忙しい。