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08話 失敗

 しかし、そろそろもう一つの世界に行ってデータを集めなければならない。

 それに、今後起こる世界の接触による時空の亀裂を閉じなければならないのだ。

 それを忘れていたわけでは無いのだ。

 残念だが、しばらくは彼女に会うことは出来ない。

 いや、またこの世界を訪れれば良いだけ・・・

 しかし、次にここに来たときには僕の事など忘れているだろう。

 この二つの世界、そして僕の生まれた世界は、それだけ時間の流れが違うのだ・・・

 そんな事を考えながら、彼女の住んでいるお屋敷に着いた時である。

 翼のある姿でお屋敷の屋根に降り立つと、ポツリと頭に冷たいものを感じたのだ。

 見上げると、急に天候が変わったようで、雨が降り始め遠くで雷鳴が聞こえて来たのだ。

 このままでは羽が濡れて上手く飛べなくなるので、別の姿に変わろうとしたのだ。

 しかしその時予想外な事が起きたのだ。

 地鳴りと共に少しずつ地面が揺れ始めたのだ。

 この揺れ・・・まずい。

 この世界では、大きな地震が頻繁に起きている事はわかっていた。

 しかし、この地震は大きすぎる。

 この周辺にある建物のほとんどが木造の建物であり、この揺れに耐えうるものがあるとは思えないのだ。

 彼女も早く避難しなければ、必ず巻き込まれる。

 しかし、どうしたら・・・


 正直、自分とは関わりのない世界に住んでいる住人の状況をいちいち気にすることなど、今までなかった。

 先輩と一緒に色々な世界に行った時に、目の前で生死に関わることが起きた時でさえ、平常心でいられたのだ。

 その世界で起きる事であれば、それは彼らの運命であるのだと。

 その運命を変える事は許されないと、言われてもいるのだ。

 だが、なぜだろう・・・

 彼女に関しては、そう思えなかったのだ。

 僕は彼女が危険な状況に陥ることがわかっていながら、何もしないという選択が出来なかったのだ。

 周りにある建物が少しずつ倒壊し始めている。

 頑丈そうに見えた彼女のお屋敷もミシミシと大きく揺れており、いつ倒壊してもおかしくなかったのだ。

 だめだ、今どうにかしないと・・・

 今なら、彼女を助けられる。


 僕は彼女のお屋敷の中庭に急いで降りると、本来の姿に変わったのだ。

 そして首から下げていた時計を見たのだ。

 一時的に彼女をもう一つの世界に避難させよう・・・

 もちろん、僕がこの世界の住人でない事を知られてはならないのだ。

 だからこの建物ごと、移動させれば・・・

 ちょうど彼女は今、この中にいる。

 そしてすぐに元の世界に戻れば、彼女自身が世界を移動したとはわかる事は無いのだ。

 しかし・・・僕がそうした事で、本来ここで消えゆく命を存在させる事になるかもしれない。

 それが、ポラリス様の意思に背く事であれば・・・僕は重い罰を受けるだろう。

 ・・・だがそれでも、彼女を救う事が出来るのならかまわないと思ったのだ。

 僕はポラリス様から頂いた時計にある五本の針をある特定の場所に合わせた。

 そして、上の部分にある突起をカチッと押して、金色に輝くリングを浮かび上がらせたのだ。

 僕はそのリングを、自分自身と目の前の建物が入るくらいの大きな魔法陣に作り変えたのだ。

 そして鍵穴を出現させ、僕の持つ鍵を入れてカチッと回したのだ。

 すると、魔法陣の中の僕と彼女が入っている建物は、問題なくもう一つの世界に移動したのだ。

 意識だけの存在になる前に調べた結果では、その世界は自分達と同じような人間が住む世界であった。

 座標的に、移動した場所には何の建物もない事だけは確認出来ていた。

 その世界について、後で実際に行ってリサーチする予定であった為、それ以上詳しい情報はなかったのだ。

 僕は最低限の情報を元に建物ごと移動してしまった為、その世界の住民の事まで考える余裕はなかったのだ。

 だが不幸中の幸いか、建物の下敷きになった生命体がいた形跡はなかったようだ。

 とにかく彼女が無事ならば・・・

 そして、すぐに時計の針を以前と同じ場所に戻して、魔法陣を作り上げたのだ。

 さっきの世界に戻るように・・・

 ・・・そこまでは良かった。

 同じように鍵穴を出現させて、持っている鍵を入れ回そうとしたのだが、回らないのだ。

 まさか・・・これが大きな罰というのか・・・

 何回か鍵を回そうとしたが、鍵が動く事は無かったのだ。

 僕は目の前が真っ白になったのだ。

 彼女だけでも元の世界に戻さなくてはいけないのに・・・


 すると、移動してきた建物の扉が開く音が聞こえたのだ。

 だめだ・・・間に合わない。

 とにかく、どうにかしなければ、どうにか・・・

 僕は意識だけの姿となり、誰からも見えない存在に変わったのだ。

 そして、扉を開けて驚いている彼女を見て、とても心が傷んだのだ。

 僕の勝手な行動により、彼女の運命を変えてしまった。

 僕のせいで・・・

 僕の傲慢な考えのせいで・・・

 自分の行動が、ポラリス様の罰を受ける可能性はわかっていた。

 だが、その事で彼女を巻き込む事になるとは、頭の片隅にも無かったのだ。

 しかし今は、悲観している場合では無かった。

 僕に対するポラリス様からの罰なんて、どうでもいい。

 どんな事をしてでも、彼女を元の世界に帰してあげなければならないのだ。

            

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