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07話 タルフの幸せ

 僕は自分の予想とは違い、衝突寸前に近くにいたこの世界の少女に抱えられていたのだ。

 僕は驚いてすぐに彼女の腕の中からすり抜け、彼女から見えない場所に隠れたのだ。

 僕はドキドキしながら彼女の様子をそっと伺ったのだ。

 すると、少女はどうも足に怪我をしたようで、そこに座り込んだままだった。

 きっと、僕を助ける為に痛めたのに違いない・・・

 僕は少しだけ悩んだが、この世界の住民に姿を変えると、思い切って彼女に近づき声をかけたのだ。


「大丈夫ですか?

 僕のせいで・・・いや、何か怪我でもされたのですか?」


 僕はそう言って座り込んだのだ彼女に手を差し伸べたのだ。

 彼女は僕の言葉にとても驚いた表情をしたのだ。

 そんな彼女を見て、僕は今まで感じたことが無い気持ちで溢れたのだ。

 長い黒髪で透けるような白い肌、そして吸い込まれるような大きな黒い瞳に釘付けになったのだ。

 彼女は私をじっと見た後私の手を取り、恥ずかしそうに急いで立ち上がったのだ。


「私の方こそ申し訳ありません。

 いたっ・・・」

 

「足を怪我してしまったのですね?」


「このくらい大丈夫ですよ。

 それに、家はすぐ横ですし。

 家業の関係で薬は沢山ありますから、心配はありません。

 失礼致します。」


 そう言って、そそくさとすぐ横の大きなお屋敷の方に向かったのだ。

 僕はどうして良いか分からず、それ以上声をかける事が出来なかった。

 しかし、彼女の事が心配だったのと、単純に気になってしまった事もあり、僕はこの世界で見かけた翼のある生き物に姿を変えて、彼女の入ったお屋敷に向かったのだ。


 僕は彼女の入った家の敷地にある高い木の枝にとまり、様子を伺っていたのだ。

 外まで聞こえてきた声を聞くと、どうやらすぐに手当を受けて、怪我の方は心配ないようだった。

 僕はほっとしたのだ。

 それからも、彼女の動向が気になってそっと眺めていると、敷地内にある建物を行ったり来たりしていた。

 僕はまた、小さな尻尾のある動きやすい姿に変えてみたのだ。

 そして気付かれないように、そっとその建物の中に一緒に入ったのだ。

 様子を伺っていると、何やら彼女はブツブツ言いながら勉強をしているようだった。


 それからというもの、僕はしばらく彼女の行動を中心にこの世界の様子を垣間見ることにしたのだ。

 実はこの世界で数週間たったとしても、僕の住んでいた世界の時間では数時間にすぎないのだ。

 時間の進み方が、それぞれの世界によって違うのだ。

 僕は彼女の後をそっとつけて行くと、街の様子やこの世界に住む人たちのやりとりを間近に見る事ができたのだ。

 そう、僕は仕事でこの世界に来ているのだ。

 僕の五感で得た情報は全てポラリス様へ・・・

 忘れてはいない。

 ちゃんと仕事をして、一人前にならなければいけない。

 もちろん、この世界を色々と知る事が出来るのは興味深い。

 ただ・・・いつの間にか仕事よりも、僕は彼女をずっと見ていたくなったのだ。


 僕はいつものように、そっと隠れながら彼女のいる建物に入ろうとした。

 ところが、今日は急に彼女が振り向き、僕と目があったのだ。

 僕はその場で固まってしまったのだ。


「びっくりした・・・

 誰かに見られてる感じがすると思ったら、あの時の可愛い猫さんだったのね。

 あの後心配だったのですよ。

 何処かで弱っているのじゃ無いかって。」

 

 そう言って彼女は僕の方に歩いて来ると、座り込んでじっと僕を見つめてきたのだ。

 僕は緊張してその場にうずくまっていると、彼女は優しく抱え上げてくれたのだ。


「あら、不思議な瞳の色。

 海の向こうの国の猫ですかね?

 どこかで見たような・・・」


 彼女はそう言い、不思議そうな顔をしたのだ。

 僕はまずいと思い、彼女の腕から急いですり抜けたのだ。

 その場からすぐに逃げ出すと、また翼のある生き物の姿に変わり彼女から離れたのだ。

 色々な姿を作り上げる事が出来るのだが、瞳の色だけは元の姿と同じで変える事が出来ないのだ。

 この世界の住民の時も、尻尾の長いさっきの姿も、今の翼のある姿も瞳の色は同じなのだ。

 だから、変に勘付かれる前に逃げ出したのだ。

 それに僕はとてもドキドキしたのだ。

 あんな間近で彼女に見られた事が、とても恥ずかしかったのだ。


 しかし、その後も結局彼女が気になって、僕は尻尾の長い生き物に変わって彼女に会いに行ったのだ。

 彼女は僕に気付くと、優しく微笑んで中に入れてくれたのだ。

 僕は彼女が色々勉強している姿を、じっと眺めている時間が好きだった。

 それに、会うたびに僕の頭を優しく撫でてくれるのが、とても心地よかったのだ。

 「ミャー」としか返事をしない僕ではあったが、色々と嬉しそうに僕に話しかけてくれたり、たまに美味しいミルクを内緒で持ってきてくれたのだ。

 本当は話す事も出来たのだが、この世界の猫という存在は言葉を発する生き物ではなかったので、僕は黙って彼女の話を聞いていたのだ。

 それでも、僕はこの姿の生活が楽しかったのだ。

 しかし、彼女の様子を近くで見ているとある事に気づいたのだ。

 家族と一緒に住んでいるようなのだが、ほとんどの時間を一人で過ごす事が多かったのだ。

 少し寂しそうに見える事もあったが、この建物の中で過ごしている彼女はとても楽しそうだった。

 そして、そんな彼女を見ている事が、僕の幸せだったのだ。


 

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