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笑ってはいけない悪役令嬢  作者: 三川コタ
夏の宴 告白 編
82/155

宴8


 イコリスと天幕へ戻ると、肩まで伸びた灰茶髪の『ガルディ』が話しかけてきた。

「イコリス様、麦わらと三つ編みが、すごくお似合いですね。」

 強制力がないので語尾に『ござる』がつかず、ただの長身の美形になっている。


「長袖短パンの体操服に麦わらを合わせていて、今にも田植えをしそうで・・とっても素晴らしいっ。新しいですっ。」

 焦げ茶色の前髪長めの短髪に、白い歯が眩しい溌剌とした美男子から妙な褒め方をされたイコリスは、首をかしげた。俺も知らない男子生徒だ。

「ああ、彼は『カイン』ですよ。」

「「え?」」


「今日は前髪があって眉も繋がってないから、わからないですよね。そんなことより・・三つ編みで田植えが、こんなに奥深かったとは・・イコリス様は最高ですっ。」

「間違いないですね。」

 カインの言葉にガルディが同調する・・。

 この独特なノリは、確かにカインだった。

 

 

 第二陣の地引き網作業は、麦わら帽子を被った俺とイコリスも最後尾で参加する事にした。

 引き上げ地点へ行くとアイが前方に並んでいたが、第一陣でユーリとフィーウィが濡れたせいか、最前列では無かった・・。

 アイは、いつも三つ編みでひとまとめにされている長い髪を、今日は編まず二つ結びにして胸部に垂らしていた。


(大きな胸を隠しているつもりかもしれない。しかし、巨乳吊りバンド(サスペンダー)が扇情的なように、逆効果だな・・。)

 アイへ想いを馳せていると、カインと目が合った。

 カインはアイをチラ見した後、俺に輝く白い歯を見せ、大きく頷いた。・・俺は遠くを眺めているふりをして、カインとは目が合っていないことにした・・。


「イコリス様っ。自分が最後尾になりますので、ここで縄を引いてください。」

 エルードがはじける笑顔で、イコリスを手招いた。

「皆の邪魔にならないように、一番後ろで縄を引こうと・・。」

「最後尾は、引き上げた縄を後ろに送るのが少し大変なので・・イコリス様は自分の前で引いてください。もし転んだり・・マスクが取れたりしたら、すぐ助けますから安心してください。」

「くっ・・エルード・・ありがと・・うっ。」


 感極まったイコリスは、泣きだしそうになり咽せていたので、俺は首に巻いているタオルを渡した。

「ごのダオル・・ザイダズ臭がぎづいわ・・。」

「俺じゃないっ。日焼け止めの匂いだっ。・・それでも、きついとか言うなっ。」

 タオルを顔面に押しつけたイコリスが看過出来ないことを言ったので、すぐ訂正した。


(・・後方は男子ばかりで良かった・・げっ。)

 地引き網の縄の固定場所で、ファウストがこっちをじっと見て腕を組んでいる。・・横にいるチェリンとジェネラスは、溜息をついていた・・。


 網を仕掛けた漁師が到着し、第二陣の地引き網が始まった。想像より重たい縄を引き続けていると、次第に縄から網へと変わってくる。

 継続してせっせと網を引き揚げると、黄緑に光る大型魚のシイラや立派な赤い鯛、キラキラした鰯などが網の中でぴちぴちと跳ねたのだった。

 第二陣の漁獲量は第一陣より多かった。だが今年は、生徒が二クラス分の人数でも、ファウストの従者と例外的措置の親衛隊がいる。

 漁師は再々度、地引き網を設置する為に船を出した。




 俺とイコリスは下処理を終えた魚を炭火で焼きながら、従者と親衛隊が統制の取れた動きで砂浜に整列する様子を眺めていた。


「引き揚げ、用意っ。」

 年嵩のいった従者長の号令に、従者と親衛隊が一斉に縄を掴み、腰を落とす。

「引けーーっ。」

「「二・六・飛威武(ヒーブ)、二・六・飛威武、二・六・飛威武っ。」」

 所属は違うが揃えられた掛け声で、息を合わせ地引き網の縄を引いていく。


(なんだこれ・・・。)

 生徒達はあんぐりと口を開けて、みるみるうちにたぐり寄せられる縄を見つめた。俺もその一人だ。

 親衛隊達と一体化した動きで縄を引く、ジェイサムがいたのだ。


「止まれーーっ。」

 漁師の合図に従者長が直ちに応え、号令を出した。すると少しの狂いも無く、全員の動きが止まる。

 すごい早さで縄がたぐり寄せられ、網が破れる心配をした漁師達が、地引き網に障害物が引っかかってないか確認していた・・。


「引き揚げ、用意っ。引けーーっ。」

「「二・六・飛威武(ヒーブ)、二・六・飛威武、二・六・飛威武っ。」」

 屈強な武人達の迫力に圧倒され、生徒達はうっかり魚を焦がしそうになっていた。俺も金鋏(トング)を落としかけた。


 

 大木の木陰で食べる獲れたての魚は、簡単な調理でもとても美味しかった。漁師の奥さん達が作ったあら汁も、絶品だ。

 遠くの砂浜では、排球(バレー)をする桃色髪のアイが見える。

 ・・アイは強制力が無くても、イコリスに近づかなかった。常にファウストの従者が、監視していたからだ。

 また、親衛隊もイコリスを交替で見張っていた。

 ・・けれども残念ながら、女騎士達はあの座面の高い椅子に、水着姿では座らなかった・・。

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