宴2
午前の授業が終了し昼休憩となり、生徒はぞろぞろと大広間へ向かい始めた。
俺達はイコリスが風邪だと思われているので、最後に教室を出ることにした。トゥランとフラリスも、席を立たない。
「サイナス、食事が終わる頃に個室へ行ってもいいアルか?」
「別にいいけど。今日は、前みたいに甘味は用意してないよ。」
「甘味が目当てみたいに言われるのは、心外アル。サイナスが入れたお茶で十分アル。」
「・・それじゃあ、お茶目当てじゃないか。」
俺とアッシュの会話を聞いたエルードが、勢いよく立ち上がった。
「あの、自分も・・。」
「エルード、大広間へ行くのが遅れると、軽食メニューしか残らないだろう。もう出た方が良い。」
エルードの言葉を遮ったファウストは、力強く彼の肩を掴んだ。
「・・お気遣いありがとうございます。自分はうどんが好物なので大丈夫です・・。サイナス様、自分もアッシュと一緒に、お邪魔してよろしいでしょうか。」
「・・ああ、構わないよ・・。」
(強引なファウストの牽制に、平民であっても抗うとは・・エルードは爽やかなだけではなく、度胸もあるのか・・。)
それに、イコリスが本当は風邪ではない事を知らないのは、この中だと彼だけだ。俺の中で、エルードの株が爆上がりした。
ファウストはふっと笑った後、イコリスに話しかけた。
「イコリス、今日は君達の個室で食事をしながら話をしたい。」
「え?アイさんは・・・。」
「ジェネラス達に任せる。3人居れば、アイは問題ないよ。」
俺が教室の前扉を見ると、ジェネラスとチェリンとラビネに囲まれたアイと目が合った。
アイはペコリと頭を下げると、ジェネラス達と教室を出て行った。
「今日は大所帯だな。」
「サイナス、僕、お茶入れるの手伝うよ。」
「フラリス様、お茶は・・慣れてないですけど、自分がサイナス様を手伝いますから。」
トゥランとフラリスも個室へ来るらしい。エルードはファウストが俺達と居ることになっても、一歩も引かない。
誰一人として王太子をものともしないからか、ファウストが僅かに顔を曇らせた。
「はぁ・・アッシュ、来る時は椅子を何脚か持ってきてくれ。」
「了解したア・・。」
「「キャーーーッッ」」
アッシュの俺への返事は、廊下からの悲鳴でかき消された。
ついさっき、アイが廊下へ出たばかりだ。ファウストが駆けて行き、フラリスが追随した。トゥランはエルードとアッシュにイコリスの傍を離れないように言ってから、様子を見に行った。
聞えてくる騒がしい声は、女性のざわめきに複数の奇声が混じっている。
俺が教室の扉から半身を出して騒ぎの元を窺うと、廊下では演出効果の葉っぱがひらひらと舞っていた。
演出効果に歩み寄ると、ファウストとトゥランが並び立つ間から、降ってきた葉っぱを頭に乗せた『フェリクス・ストライト』が顔を出した。困り果てた表情が、妙に艶めかしい。
「サイナス様っ。弟からイコリス様が登校したと聞いて・・・。」
フェリクスは複数の一年生女子が起こした演出効果を浴びていた。黄色い声を上げてフェリクスに近づこうとする女子達を、『シャンス・グランドル』とフラリスが宥めながら手で制していた。
「トゥラン、アイは?」
「ファウストが通り道を開けさせて、ジェネラス達と早々に離脱したよ。」
アイの無事を俺がトゥランに確認していると、フェリクスがファウストに頭を下げた。
「・・・ファウスト殿下、申し訳ありません。イコリス様がまだ教室に居るか訊ねようと、声を掛けたらこんな騒ぎに・・・。」
「君は・・弟のキースもだが、女生徒から熱狂的な好意を持たれるみたいだな。君に慣れていない1年生に声を掛ける時は、注意してくれ。」
「・・はい、気を付けます・・。」
女生徒達が王太子に謝るフェリクスの姿を目にすると、降っていた葉っぱは収まり始めた。
「落ち着いてきたな。速やかに大広間へ移動して、食事を採りなさい。高揚しただろうから、ちゃんと休息を取って午後の授業に備えるように。」
フェリクスに夢中になっていた女生徒達は、両者の間へ割り入って助言するファウストに、うっとりしながら頷いていた。
俺達が大広間へ入室すると、全校生徒の注目を集めた。
ファウストがいつもいる顔ぶれとは異なる生徒会役員を帯同し、更に容姿の優れた平民を引き連れていたからだ。
母親に大切に育てられ世間知らずなところもあるフラリスだが、先程の騒動では状況に応じた行動を即時に判断し取っていた。実は結構、頼りになるし、眼帯と前髪で見え辛いが顔立ちも綺麗なのだ・・。
ファウストの後ろに、フラリスと冷静で聡明なトゥランが黙って歩いていると・・橙と紫、金色の髪の高水準な美形が揃い、とても絵になる・・。
そんなファウスト達に続くイコリスの背後に、顔がそれなりに良いサラサラしたおかっぱ髪のアッシュが、背が高くて格好良いエルードとフェリクスを両隣に従えていた。坊主のエルードは、整った顔に側頭部の交差した線が粗野な魅力を醸しだし、いつも女生徒の熱い視線を集めているのだ。
・・この美形集団の真ん中で、イコリスの横にいる俺は肩身が狭かった・・。
当事者だったはずの一緒に入室したシャンス先輩は、いつの間にか外野の生徒と同化して、ファウスト率いる大名行列を眩しそうに見ていた。




