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笑ってはいけない悪役令嬢  作者: 三川コタ
哀切 悪役令嬢 編
49/155

哀13

 

 俺の佇まいが一変して、ファウストは妙だと感じたようだ。

「イコリスに伝えるのは、舞踊団体の出演が正式に決まってからと思っていた・・・まさか、誕生祝賀会への不参加は、宰相の辞退ではないのか?」


 イコリスと俺は4年前から、ファウストの誕生祝賀会を欠席していた。

 それまでは他のプラントリー一族の未成年と同じく、黒い袋を被って参加していたのだ。


「ご明察だ。王に出席を禁止された。・・イコリスだけ、黒い袋を被っていても参加を認めないってね。同時に、年4回だけ出席していた貴族の交流会も、プラントリー一族の年末の集会に参加するならば、3回にしろと正式に通達されたんだ。」

「交流会の回数だけでなく、私の誕生祝賀会にも王命があったのか・・・。」

「義父は、ファウストの誕生会については、王から禁止された事をイコリスへ言っていない。義父が辞退した事にしてる。」

「・・はあ。私も宰相の辞退だと聞いていたよ。」


「・・・・俺が宰相家へ養子に入った年、イコリスはまだファウストの誕生会に出られる状況ではなかった。だから、俺と鉄仮面を被ったイコリスが王城迄行って、誕生会が開催される前に贈り物を渡したな。」

「ああ、サイナスの出身地の特産品を二人で手作りしてくれたんだよね。今も部屋に飾っているよ。」

 幼かった俺とイコリスは、白金の絹糸を球状に薄く巻いた毬を作成し、その中に光源ではなく狸のぬいぐるみを吊した提灯型の飾りを、ファウストへ贈ったのだ。


「あの時、大変だったんだ。・・ずっと魅了の魔力検査を受け続けていたが、イコリスの魔力は全く無かった。なのに鉄仮面をつけてもファウストの誕生祝賀会に出席できない事を知って、イコリスは初めて泣いたんだ。」

「初めて?それまで親の前で泣かなかったのか?」

「両親はそう言っていた。屋敷に閉じ込められ、庭にも出れない状態だったが・・イコリスはずっとへらへらしていて、俺にも愛想笑いを向けていた・・・。俺がイコリスの流す涙に気付いた時、・・最初は飲んだ炭酸が目から出たって言い張ってたよ。ファウストの誕生会に行けない事で涙を流したのだろうと俺が言い当てたら、わんわん大泣きして・・・三日三晩泣き続けたんだよね。・・・あれこれと慰めの言葉をかけたが、なかなか泣き止まなかったなあ。」

「・・・・。」

「どうにか宥めて、狸の吊り飾りを二人で作って、ファウストへ渡しに行ったんだ。」

 ファウストは何も言わず、白い手袋を嵌めた指で眉間を押さえている。


「それから義父母が、鉄仮面と同等の防護力の黒い袋を開発したんだ。一族で会議を重ね、プラントリーは未成年全員、黒い袋を被る事を決め・・・義父はそれに付随して、ファウストの誕生会へのイコリスの参加を、王に認めさせたんだよ。」

 王太子であるファウストの誕生祝賀会には、未成年の貴族達に参加が要請されていた。

 将来、ファウストを支え、共にシーコック国を治めていく同朋達との懇親の会でも有るので、王としてはプラントリー一族の未成年者の参加も必須だった。義父はその点を利用して、交渉したらしい。


「ところが魅了を獲得する年齢が近づくと、王は正式に誕生祝賀会への出席を禁止した。・・義父はイコリスの心情を汲み取って王からの禁止を知らせず、辞退の提案をイコリスへしたんだよ。・・・結局、イコリスが得た魅了の魔力は、俺よりずっと低いのにな・・・。」

「イコリスはすぐ受け入れたのか?」

「落ち込みはしたけど、三日三晩泣いた時ほど幼くはなかったからね。すぐ納得したよ。誕生会は俺も欠席する事にしたし、毎年、ファウストへの贈り物は事前に渡しているだろ。誕生日を祝えないわけじゃない。」


 実のところ、ファウストの婚約者選定が始まるため邪魔にならないよう参加しない方が良い、というのが義父のイコリスへの主だった説得理由だった。

 だけれども、この理由は俺からファウストへ伝えることは出来ない。恐しくて。



 俯いていたファウストが俺へ何か言いたげに顔をあげた時、生徒会室の扉が開いた。

「ここにいたんだ。ファウスト、俺は護衛なんだから置いて行かないでよ。探したじゃないか。」

 足早に入ってきたのはジェネラスだった。歩く勢いで耳の前の長い髪の房が、肩の後ろへ流れている。


「・・チェリンの馬車の前で、アイと話し込むからだろ。教室で話せばいいのに。」

「校門を出ないと、アイのブラウスには穴が空いているじゃないか。葉っぱが降ったらサイナス達に負担がかかるだろ。」


「もう、ジェネラスはアイの谷間に慣れていると思ってたよ。」

 俺がそう言うと、ジェネラスは太い眉をハの字に下げた。

「いいや、あれは慣れないよ。・・いつまでも慣れる気がしないから困ってる。」

 やはりまだ教室では、ジェネラス達に近づかないに越したことは無いと、俺は再認識した。 


「ジェネラス、私を探して図書室へは行ったのか?」

「図書室へ着く手前でフラリスと会って、ファウストは来てないと聞いたから行ってないよ。ついでにフラリスから教えてもらったんだが、ブリストン一族の慰安旅行が北西部の温泉地だったことがあって、あの舞踊も見たんだって。炎の舞は屋内じゃ無理みたいだ。中庭を使うしかないんじゃないかと言われたよ。」

「・・フラリスは帰宅しようとしてたのか?図書室に戻ったのか?」

「図書室に戻ったけど、イコリスには言わないようにちゃんと口止めしたから・・。凄まないでよ、ファウスト。」


 ジェネラスの答えを聞いて、ファウストだけでなく俺も安堵の溜息をついた。

 俺達の様子を見たジェネラスは、引き締まった顔つきになった。

「どうかしたのか?」

「・・・イコリスは絶対、私の誕生祝賀会に出席できない。」

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