門7
間もなく入学式が始まる。俺達はイコリスが提案したアイを囲んだ状態で、大講堂へ急いだ。
ファウストを先頭にラビネが続き、それからアイが、ラビネに隠れるようにすぐ後ろで歩いている。更にアイの右にイコリス、左には俺がいて、背後にフラリスが不本意そうについて来ていた。
大講堂の入り口の前では、ジェネラス達が待っていた。
「ファウスト、やっと来た。ついさっき、おかしな事があったんだよ。この画用紙が急に、僕の前に降ってきたんだ。」
チェリンが語尾確認用の画用紙を、ファウストに見せながら言った。
「消えたのは、チェリンの元へ移ったからか・・・チェリン、ジェネラス、トゥラン。落ち着いて聞いてくれ。」
ファウストは桃色髪の平民、アイ・レットエクセルに起こった経過を手短に説明した。
「隠すのも駄目なのか・・・。身に付ける物への影響として考えると、平民より私達貴族の強制力と近いのかもしれない。」
「トゥラン、考察は後回しだ。チェリン、ジェネラス。1分で収めろ。」
ファウストの説明を受けて、アイのハートの下部にある胸の谷間を見たチェリンとジェネラスは、髪を揺らし桜の花びらを降らせていた。
アイの破廉恥な姿はキャルクレイよりましだが、しっとりとした桃色の後れ毛と潤む榛色の瞳、晒した胸の谷間に恥じて紅く染めた頬は、彼らには十分、扇情的だったようだ。
俺とイコリスは、彼らを見ない方向へとっさに顔を背けたので、厳しい時間制限をファウストから言い渡された二人の表情を知る事が出来なかった。
きっと、ジェネラスは太い眉をハの字に下げ、チェリンは飴の棒から生えた四つ葉を萎らせているだろう・・・。
俺達はアイを包囲しながら、大講堂へと入った。
先頭は変わらずファウスト、次にチェリン、ラビネ、ジェネラスが横に並び、3人に続くアイを正面からは徹底的に見えなくした。そしてアイの右にトゥラン、左に俺が張り付き、背後にはイコリスと膨れっ面のフラリスがいた。
ファウストは教員達の元へ事情説明に行き、俺達は貴族の学生へ用意された一角に、アイを包囲している陣形のまま着席した。
平民の新入生達とは通路を挟み離れた座席なので、ひとまず安心だろう。
この陣形の配置は当初からファウストの指示なのだが、アイの後ろに座ったフラリスが不満を口にした。
「・・・僕、どうしてずっと後ろなんだ・・・。」
「花びらを降らした前科が有るからかな?」
フラリスの隣に座ったイコリスが、愚痴に答える。
「うっ。前科って言わないでよ、イコリス。それに校門では、あのラビネも一緒に花びら降らしてたよ。」
「キャルクレイの件と合わせて、フラリスは前科二犯だからね。」
「く・・・っ。そう言うなら、チェリンとジェネラスも同罪じゃないか。」
「チェリン達よりフラリスはウブだから・・・樟の葉っぱと紅葉、雪の華も降らしそうね。」
好意は季節に応じた効果で視覚化される。その季節ごとの演出効果をイコリスは言っていた。
この現象は広く知られており、学院の生徒にとっては常識だ。
「そこまで節操無くはないよ・・・・多分・・・。全種、降らせて制覇したら、終身刑に相当なのかな。」
「フラリスってば、凶悪犯じゃないんだから。」
「イコリス、冗談を言い続けていると危ない。油断するな。」
アイの右に座ったトゥランが、振り返ってイコリスに注意する。
「・・・フラリスと話してたら、楽しくなってた。感情を平坦にしないといけないのに・・・フラリス、ごめん。調子に乗ってたわ。」
「えっ。俺も楽しく喋ってたし・・・イコリスにからかわれるのも悪くないって言うか・・謝る必要はないよ。この位でも気を付けなきゃいけないなんて、大変だねイコリス。」
「ううん。全然。フラーグ学院に通えるんだもの。大変じゃないわ。」
俺がフラリスの表情をそっと確かめると、イコリスをただ不憫そうに見ていたので安心した。庇護欲から好意を抱いて、桜の花びらが舞うと面倒だったが、それは無さそうだ。
後ろの座席に目をやった一連の動作の流れで、俺は隣に座るアイの様子を観察することにした。




