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笑ってはいけない悪役令嬢  作者: 三川コタ
王侯貴族 事前登校 編
21/155

笑20


「・・・緩めただけなのに・・・どうして・・・。」

 悲痛な震える声が後ろから聞えた。サラシは外したのでは無く、胸が大きすぎて運悪く解けてしまったみたいだ。

 イコリスは扇子を持たない方の腕をキャルクレイの前で伸ばして、ジェネラス達を睨み仁王立ちだ。でも、それではあられもないキャルクレイの姿を隠しきれていない。俺はイコリスのすぐ隣へにじり寄り、3人の視線の遮断を計った。


「・・・どうしようもない。イコリス、わざとじゃないんだ。」

 ふっとい眉をハの字にして、風も吹いていないのに耳の前の長い髪の房をサワサワ揺らしつつ、叱られた子犬みたいな表情のジェネラスが弁明する。不自然に揺れる耳の前の髪は桜の花びらと同じ、好意の視覚化である演出効果の現象だ。

 「「くっ・・・。」」

 俺とイコリスは唇を噛んだ。

 花吹雪は止み、花びらは静かに降っている。


「僕にも刺激が強くて・・・止められないよ、これは・・・。」

 チェリンが顔の真ん中に下ろした一本の前髪の束を、蛇のようにくねくね揺らしながら言った。

 可愛いメイドにお風呂で髪を手入れさせているのに、興奮して花びらを散らすとは意外だった。だから許そう・・・とは思えなかった。

 チェリンの咥える飴に刺した棒の先に、葉っぱが生えていたのだ。強制力で少し長くなっていた棒の先端から、四つ葉のクローバーが茎を伸ばし葉を開いている。

 前髪の束と後ろにまとめて括った腰まである翡翠の髪が、規則正しく連動してくねって揺れていた。

 それに呼応して、四つ葉のクローバーもぴょんぴょん揺れる。


 (何その葉っぱ?聞いてないよっ。)

 俺は行き場のない怒りに似た感情が沸き、拳を強く握ると尋常ではない汗で湿っていた。イコリスも予期せぬ現象を持て余し、扇子を持ってない手を上段で手刀にして構えた。俺達は少し混乱していた。


「健康な思春期の男子なら、当然の反応だ。」

 前髪の被さっていない右目に右手をあて、フラリスが堂々と言った。

 右手の指の間はしっかりと開いており、こちらを見据えている。


「あっ。」

 上着で隙間なく胸を覆ってしまおうと苦戦していたキャルクレイが、俺のハンカチを落とした。

 彼女がハンカチを拾う素振りをしたので、俺はすかさず拾い上げた。上着がずれたら大変だ。

「・・・ありがとう。」

 顔を赤くしたキャルクレイが上目遣いで俺に礼を言った刹那、花びらの勢いが増して再び吹雪いた。恥ずかしそうに赤面する彼女が、ハンカチを拾う為に俺が動いたことで晒されてしまったからだろう。


 揺れていたフラリスの眼帯に被さる前髪が、更に大きく靡いた。

(・・・さっきのも、お前か・・・・。)

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