笑11
顔の前に垂らした一束の前髪を指で挟み、口元から退けてから棒付きの飴を含んだチェリンは、そそくさと校門をくぐった。
チェリンの上半身を包む光が消えると、暗く深い緑色だった髪は溌溂とした夏の葉の色に変わった。
垂れた前髪はしっかりした質感を持ち、しなった一本の鞭のように鼻に当たらない曲線を顔の真ん中で描いている。その前髪の長さは顎を超えて鎖骨まであり、後ろで一つに括った腰まである髪は、毛先に迄、磨かれた翡翠に似た独特の光沢を帯びていた。
「次、ラビネー。はやくー。校門入ってー。」
手鏡で自分を見る事もなく、チェリンは大声でラビネを急かした。
俺とフラリスがラビネを質問攻めにしていたからだ。
「そのメイドはいつから勤めているんだ?」
「どうやって髪を洗うのかは聞いた?」
「3年前位からだったかな・・・。聞いたって言うか、メイドに洗髪される間、どうすればいいと思うか尋ねられて・・・。」
「おーい、そこの二人、詮索しないでー。ラビネの番だよー。早くこっちに来てー。」
「・・・チェリンが煩いから、行ってくるよ。」
苦笑したラビネが耳飾りを着けながら、俺達の問いを遮った。
「詮索しないでって何の話で盛り上がっていたんだ?はしゃいでるし。」
ファウストがチェリンに、いじけた口調で問い掛けている。
「はしゃいでないっ。一方的に僕が追及されて・・・。」
「楽しそうだったじゃないか。」
「誰も楽しくない会話だったよっ。僕は責められてたんだよっ。」
旧生徒会役員の告げるチェリンの書き換え率を聞いている者はおらず、飴の棒が少し長くなっていた事には誰も気づいてなかった。
玉の入っていない鈴の耳飾りを着けたラビネが校門を通り抜けると、群青色の長髪は日差しの強い青空色の爽やかな短髪となった。
だがしかし、リヴェール一族はただの短髪にはならない。
前から見ると短髪だが、後ろから見るとなぜか襟足が長いのだ。ラビネの襟足は腰近くまで有り、リヴェール一族歴代最高の長さに見えた。
旧副会長に渡された手鏡みを見るなり、ラビネは崩れ落ち両手をついた。
すると無情にも耳元からシャリンシャリリンと音がする。
耳飾りの鈴が3つに増えていた為だ。
ラビネの耳飾りは単に鈴が3つになるだけでなく、3本に増えた鈴を吊るす白金の鎖の長さがそれぞれ異なり、鈴同士が擦り合う位置に絶妙に配置されていた。
それにより頭部が動くと鈴と鈴が擦れて、シャリンシャリンといった金属音が多重に鳴り響いている。
「ラビネ・リヴェール、書き換え率は10%」
耳飾りが大きく変わったので書き換え率が高くなったのだろう。
うなだれるラビネを、チェリンが手を貸して立ち上がらせてあげた。
励ますようにファウストとジェネラスがかわるがわるラビネの肩をぽんぽん叩くと、耳飾りがその度、シャリンシャリン鳴った。
清らかな鈴の音を聞いた俺は、
(今、振動は与えないであげて欲しいな)
と、校門の外からラビネを憐れんだ。




