王になるために
俺とルルはグランダートの宿屋に泊めてもらった。この宿も魔物退治の報酬の一部として無料で提供してもらった。厳密にはまだ襲われていない宿屋だから次に襲われる宿屋はここだろうということだ。いつ襲ってくるかわからないためあまり睡眠をとることができない。
「ルル、お前は寝てろ」
「いえ、デューク様が寝ないのに私が寝るわけにはいきません」
ルルは気を張って俺と同室にして、しかも俺と同じように睡眠をしないでいる。さすがに女の子をこんな夜遅くまで寝かせないわけにはいかないし、魔物退治くらいなら俺一人で十分だ。ルルにはちゃんと睡眠をとってもらって魔法使いの試練に集中してほしい。本当はこんなことは言いたくはないのだが仕方ない。
「魔物退治は俺一人で十分だし、寝不足のやつがいても邪魔なだけなんだ。早く寝てくれ」
最近のルルの実力はそこらへんの魔法使いよりも少し強いくらいにはなってきている。決して足手まといや邪魔になったりはしない。俺のやろうとしていることも察することができ俺のサポートとしてはこの上ない。かつてのオスバルト様とジェンの関係みたいなところだ。
「ふふ、優しいのですね。デューク様。でも、そういう言い方をするときはデューク様は嘘をついています。ほんとうは私に早く寝てほしいだけでしょう」
こんなことを言われてしまってはなんもいうことができない。仕方なく、俺はルルの夜更かしを許可した。沈黙が続くのも嫌だがとくになにか話したいことがあるわけでもなかったからどうしようか困っていたところルルの方から話題を提供してくれた。
「デューク様、もしも書いた願いを一つなんでも叶える紙があったらどうしますか?」
なにか心理テストのようなものだろうか?
「世界平和かな。魔物に人が襲われたり、人と人とが争わないそんな世界が来たらいいなと思うよ」
ありきたりな答えを言ってしまったのだろうか。ルルは少し考え込んでいたようだ。
「どうしてこんな質問を?」
「お父様からの宿題です。王たる者に必要な力を身に着けるための課題だそうです」
「なるほどね。ルルはその紙には何を書くの?」
「わかりません。王は民のためにあるべきだと思っています。私の思っているそうしたいと思っていることが果たしてみんながそう思っているものなのかわからないのです。何が望まれるんでしょうね」
王族というのは大変なものだ。まだこんなに幼い少女がここまでのことを考える必要があるのか。
「ただ一つわかることがあります。悩んでる間にこの紙を狙ってくる人たちが出てくると思うんです。そしたらこの紙が原因で争いが起きそうじゃないですか。だからもしも私がその紙を手に入れてしまったらすぐに何かを書かなきゃいけないってことです。そういう意味では私は王になるには向いてないのかもしれません」
「いいんだよルル。すこしずつすぐに判断できるようになればいい。そのための課題なんじゃないかな」
俺はそれなりにフォローを入れる。言ってることが正しいかわからないがメンタルのケアというのが大事なのだ。
「そうですね。デューク様となら書くべき願いを見つけることができそうです」
ルルは優しく笑顔を見せる。
そんな会話をしていたところ突然鈍い音が宿全体に響いた。どうやら俺たちのお客さんがやってきたようだ。
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