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 今日は屋敷中が賑やかだった。


 ジルケディアが千回近くもの失敗の末、初めて宝石の生成を成功させたのだ。


「見て、この宝石! 私が作ったのよ!」


 自身が生成した宝石を掌に乗せ、周りに見せびらかす。


「こんなに美しい宝石を作ったなんて、お前は才能がある!」


「本当ね! すごいわ、ジルケディア!」


「当然よ!」


 主たちの会話を聞いていた使用人たちも、拍手をしながら褒め称える。


「さすがジルケディア様!」

「初めての宝石とは思えません!」

「努力と才能の賜物ですわね」


 元宮廷魔術師のハンナもジルケディアを笑顔で褒め称える。


「何年かけても宝石を生成できない方がいらっしゃる中、二ヶ月という短期間で成功なさるなんて素晴らしいですわ」


 元宮廷魔術師であるハンナからも認められてジルケディアは得意げな表情をしている。


 ジルケディアの生成した宝石は小指の爪ほどの大きさで、不純物が多く含まれていた。

 加えて、法陣の仕様より色が薄く、溶け合っていないからか、ひどく色むらが目立つ。

 しかし、宝石らしくキラキラと輝き、見る者を楽しませた。


 商品としては石ころ同然だろうが、何年かけても宝石を生成できない者が存在するのなら、ハンナの言うようにジルケディアには才能があるのだろう。


 クラーラはジルケディアを羨ましそうに見ていた。



 私はお嬢様のようにできないわ……自作の法陣を描いて、宝石を生成する想像をしていただけだもの……。



 今まで、クラーラが実際に宝石を生成してこなかったのは、自分に自信が持てないからだった。

 失敗して、自分には宝石を作ることはできないという事実を突きつけられるのでは――そう思うと怖かったのだ。


 暗い表情で拍手をしているクラーラに、ジルケディアは下卑た笑みを浮かべる。


「ねえ、クラーラも宝石を作ってみなさいよ。今、ここで」


「え……」


 ジルケディアからの突然の提案にクラーラは驚く。


「私、知っているのよ。貴方が授業を見たり聞いたりしていたことを」


「!!」


 クラーラは羞恥で顔を赤くしながら下を向く。

 そんなクラーラが面白くて、ジルケディアは言葉を続ける。


「ずっと勉強していたのでしょう? ここで披露しなさいな」


 ジルケディアは、クラーラがずっと勉強していたことを知っている。

 そして、宝石を生成できていないことも……。


 シュワルツ伯爵夫妻も娘に乗っかって囃し立てる。


「娘がせっかく水を向けたのだから、成果を見せてみなさい」


「宝石を作っていた家系の出身なんだから、できるわよね?」


 この場にクラーラが宝石の生成に成功すると信じているものはいない。

 ジルケディアやシュワルツ伯爵夫妻は元より、元宮廷魔術師であるハンナも宝石を生成することは、どれほど難しいかを知っている。

 クラーラが勉強していたことを知っていた使用人仲間でさえ、誰一人として信じる者はいなかった。


 今回、ジルケディアが千回近くもの失敗の末、初めて宝石の生成を成功させたのだから。


 クラーラは下を向いたまま、動こうとはしなかった。

 そんなクラーラの態度に業を煮やしたジルケディアは強い口調で命令する。


「早くしなさい! 私の命令が聞けないの!?」


 シュワルツ伯爵家の者は、明らかにクラーラが失敗することを期待している。

 ハンナはクラーラを助けたいが、実家は男爵家。宮廷魔術師だったのは過去の話。苦労の末、やっと見つけた働き口。

 様々なことが脳裏をよぎり、上手く救い出す方法が見つからず、やきもきしていた。


 自身が宝石を生成しないと終わらないことを悟ったクラーラは、諦めて従うことに。


 「承知……いたしました……」



 誰も私に期待なんてしていない……駄目で元々なんだから。

 それに、旦那様の仰るように、勉強の成果を発揮する良い機会なのかもしれない。



 吹っ切れたのか、逆に心が穏やかになったクラーラは、いつも使用しているメモ帳を取り出す。

 床にメモ帳を置き、そこから慣れた手つきで法陣を書いていく。

 書いたのはジルケディアの生成した宝石と同様、そよ風を起し、宝石の色を薄い青に設定する法陣。

 初心者用で、初めて宝石を生成する際はこの法陣を使用する。

 法陣を書き込んだメモを床に置いたまま跪く。

 書き込んだ法陣に隅々まで行きわたるよう、一文字ずつ、はみ出ないように、ゆっくりと魔力を流していく。

 少しでも、はみ出れば不純物が出来る。

 魔力を流し込んだ法陣を浮かび上がらせ、一体化させるように丁寧に溶け合わせる。

 完璧に溶け合わさなければ色むらが出来る。

 クラーラは目を閉じ、溶け合った後に結晶化した法陣を両手で包み込む。


 ジルケディアは、クラーラが失敗した宝石を両手で隠しているのだと思い、苛立ちを覚える。


「隠さないで早く見せなさい!」


 驚いたクラーラは目を開け、ゆっくりと両手を開く。


 そこには、親指の第一関節ほどの大きさで、薄い青色の宝石が掌に乗っていた。

 不純物や色むらなど一切ない。

 よく溶け合っているからか、薄い青色は快晴を思わせる澄んだ空を想起させる。

 クラーラの掌が動く度に、煌めかせながら、ころころと転がる様はとても愛らしい。



 これが……私が初めて作った宝石……!



 あまりの感動に言葉が出ないクラーラ。


 クラーラの作った宝石を見たジルケディアは、不満げな表情を浮かべる。明らかに自分が作った宝石より、出来が良かったからだ。


 ジルケディアとは反対にシュワルツ伯爵夫妻は笑みを浮かべる。



 悪巧みを思い付いたような、卑俗な笑みだった。

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