小話1_*作者が描いた挿絵にご注意下さい
小話1 *作者が描いた挿絵にご注意下さい
ある晴れた日、王宮内にある庭園。
そこは季節の植物が植えられており、色鮮やかな花が咲いている。赤や黄、白など、葉の色である緑でさえ様々な色があった。どこかで剪定をしているのだろう、パチンパチンと音が鳴り響いており、一定のリズムが心地良い。
クラーラはその音を聞きながら、一角獣と日向ぼっこをしていた。
その一角獣は王太子妃の選定の際に召喚された、あの美しき幻の獣だった。今はクラーラの膝に頭を乗せ、寝息を立てている。立派な角は日に照らされ煌めいていた。鬣は風で揺れる度に様々な色を見せ、見る者を惹きつけて放さない。
いつ見ても立派な角ね。それに、鬣も綺麗。何度も見ているはずなのに全然、飽きないわ。
ずっと見ていたい。けれど、そろそろ勉強部屋に戻らないと……。
呑気にしているが、クラーラの心の中は焦っていた。
王太子妃に決まった後、すぐに妃としての教養を身に着けるために王宮内で勉強することになったのだ。
内容は作法、語学、歴史、妃としての心得など。通常の貴族であれば、大半は実家で身に着けているべき教養である。そのため、貴族の女性が王太子妃に決まれば妃としての心得の習得だけで良い。
しかし、クラーラの実家、クライン男爵家は貧窮により家庭教師が雇えなかったため、最低限の作法と簡単な文字の読み書き、算術しかできなかった。
平民の女性が選ばれることも想定していると伝えられたが、やはり、どこか申し訳なさを感じていた。
実際、習得しなければならないことが山積みなのだ。
それでは何故、一角獣と共に日向ぼっこをしているのか?
それは、クラーラが王太子妃の選定のために生成した宝石を通って、一角獣が勝手に来たからである。
クラーラを含む、歴代の妃が生成した宝石は、一つの部屋で厳重に保管されている。
当然、何者かによって宝石が勝手に発動しないように魔術も仕込まれている。しかし一角獣の力は、部屋に仕込まれた魔術よりも上回っているのか、宝石を通って来てしまった。
目的はただ一つ。クラーラに会うためである。
来てしまったら満足するまで帰らないので厄介だった。
すぐに、新たな宮廷魔術師によって魔術を仕込んだが、今のところ全く効果が無い。来る度に扉を角で破壊するので、今では扉を開け、両脇に警護のための騎士が立っているだけになっている。
この状態が長く続くのは芳しくないので、早急に宝石が発動しないようにする魔術を開発中だ。
魔術を無効化するほど、上位の獣を召喚する者を王室に迎えることができて喜ばしいと伝えられた。しかし、この問題に対しても、どこか申し訳なさを感じていた。
実際、宮廷魔術師や騎士の仕事を増やしてしまったのだ。扉の修理が行われたのだろうということも容易に想像できる。
クラーラは、眠っている一角獣の頭を撫でる。すると、くすぐったいのか、更に膝にぐりぐりと擦り付ける動作をする。その可愛らしい仕草に、思わず笑みがこぼれる。
ふふっ。
可愛らしい。
扉を角で壊した獣だなんて信じられないわ。
毎日、一角獣はクラーラに会いに来た。
宝石が保管されている部屋の扉を破壊したと耳にした時は驚いたが、とても嬉しかったことを憶えている。
また会いたいと願っていたから――
クラーラが思い出に耽っていると、後ろから誰かが走ってくる。
「クラーラ!」
呼ばれて後方に視線をやると、そこには自身の夫となるアルベアトの姿が。
寝ていた一角獣もアルベアトの声を聞いて眠りから覚める。
そして、徐に起き上がり、唇を大きく開けて歯茎まで見せながらアルベアトを威嚇した。
「ヒヒーーーーーーン!!」
草花で隠れていたことにより、寝そべっていた一角獣に気付かなかったアルベアトは露骨に嫌な顔をする。
クラーラは冷や汗を流す。
一角獣にアルベアトを紹介する直前までは、関係は悪くなかった――と思う。
王宮内で勉強を始める前、国王名義で登城するよう要請された。
宝石が本当に、クラーラが生成した物なのかの最終確認をするためだ。確認できれば、晴れて王太子妃として正式に認められることになる。
場所を庭園に移し、アルベアト、国王と王妃、宮廷魔術師の立ち合いの下、召喚することに。なにかあっては大変なので、少し離れたところから近衛兵も待機している。
「大丈夫。クラーラなら必ず成功する」
「ありがとう」
アルベアトはクラーラの手を握りながら励まし、クラーラはそのことについて感謝の言葉を口にする。
深呼吸をする。その後、少し緊張しながらも宝石で召喚の魔術を発動。
現れたのは、王太子妃の選定でも召喚された一角獣だ。
一角獣はクラーラに呼ばれたことが嬉しいのか、あの時と同じように自分の頭部を擦り付ける。クラーラも初めて召喚した時と同じように一角獣を撫でる。
「再びあの一角獣が召喚されたぞ!」
「何度見ても美しい」
「疑いの余地はないな」
宮廷魔術師、近衛兵が一角獣について褒め称えていると、国王がクラーラに話しかける。
「クラーラ・クラインよ」
「は、はい!」
「其方を正式に王太子妃として認める」
そう言うと、緊張をほぐすように笑いかける。
「おめでとう。これから大変かもしれないけれど、国民の皆さんのために一緒に精進しましょう」
そう言ったのは、王妃だ。
「ありがとうございます! 精一杯、努力します!」
感謝を伝え、決意表明をしたクラーラに国王、王妃の両陛下が満面の笑みになる。
確認が取れ、国王はクラーラに王太子妃として王室に迎えることを伝えた後、王妃、宮廷魔術師、近衛兵と共にその場を後にする。
この時、クラーラとアルベアトの護衛や侍従も離れることに。正式に、王太子妃として迎え入れられることが決まった。自分たちがいるのは野暮だろうと気を利かせたのだ。
国王に直々に伝えられて、改めてアルベアトの伴侶になることを実感。
本当に私……アルの伴侶になるのね……!
そうだわ。召喚した一角獣さんにも伝えないと!
一角獣にも紹介したいと思ったクラーラ。
一角獣はクラーラのように甘えることはしないが、アルベアトに対して敵意はないようだ。話しかけるアルベアトをじっと見ながら静かに話を聞き、相槌を打つように時折、鳴いている。
アルベアトが話を終えた時、クラーラは彼を自身の伴侶だと一角獣に紹介。
「また私の召喚に応じてくれて、ありがとう」
クラーラが撫でると、一角獣は嬉しそうだ。
「紹介するわね。彼はアルベアト。私の夫になるのよ。仲良くしてくれると嬉しいのだけれど……」
その時だった。
「ヒヒーーーーーーン!!」
一角獣が威嚇したのだ。
混乱するクラーラ。
王太子妃の選定で、アルベアトが自分を伴侶として選んだ時は何もなかったからだ。
必死に冷静になるよう声をかけ続けるが、怒りで我を忘れているのか言葉が届かない。魔術を発動しようにも、混乱していて発動させることは困難だった。
助けを呼ぼうと思ったが、『宝石生成者』である自分が離れると事態が悪化するかもしれない。
なにより、一人になるアルベアトが心配だった。
クラーラに攻撃すると思ったアルベアトは彼女を背にしながら、一角獣から距離を取る。帯刀している剣の柄を握った後、抜刀し、構える。
一角獣は美しいが、獰猛であることも知られている。
アルベアトは、自身の魔力を制御することができないので魔術を使用することは得策ではない。そうなると、剣で応戦しなければならない。
冷や汗が止まらない。
しばらく、にらみ合いが続いた後、一角獣がアルベアトに向かって走り出す。
アルベアトは一角獣が向かってくることを察知し、走り出す。
攻撃するために振り被る。
カキーンッ!!
しかし、一角獣によって角で叩き落とされてしまった。
剣は音を立てながら、持ち主から離れた位置で止まる。かなり離れていることから、強い衝撃だったことが窺える。
クラーラに向かって走り出す一角獣。
落ちた剣を拾いに行く時間は無い。
完全に魔力を制御できていないが、魔術を使うしかない。
一角獣を止めるには、それしか方法が無い。
覚悟を決める。
しかし、杞憂に終わった。
なぜなら、一角獣がクラーラに甘え始めたからだ。
今は、自身の頭部を彼女の首筋に擦り付けている。
一角獣が敵意を露にしたのは、アルベアトに対してだけだったのだ。
そのことに気付き、一角獣に対して殺気を放つアルベアト。
それを敏感に感じ取った一角獣は、クラーラを背にアルベアトと対峙。
自分がクラーラの伴侶だと示すかのように――
その光景を目にしたアルベアトは独り言のように呟く。
「……ふざけるな。そこは俺の場所だろうが」
怒りで一人称がいつもの『僕』ではなく『俺』に変わっている。
呟くように言ったのは、愛しの伴侶に汚い言葉を聞かせたくなかったからだろう。そこまで気遣いができているあたり、完全に理性を失っているわけではないのかもしれない。
このようなことがあってから、アルベアトと一角獣の仲が険悪になってしまったのだ。
思えば、一角獣が勝手に宝石を通じてクラーラの元へ来るようになったのは、この頃からかもしれない。
一角獣がクラーラと共に過ごしていたことを察したアルベアト。
苛立つ心を抑えられない。思わず舌打ちをする。
「馬刺しにしてやろうか」
一角獣に対して、いつもより低い声で呟く。
怒りのせいで呟くにしては大きいが、クラーラには聞こえない絶妙な音量だった。
アルベアトがなんと言ったのか聞き取れなかったクラーラ。
しかし、彼の表情から察するに良い言葉ではないのだろう。
どうすれば良いのか分からず、おろおろしている。
妃としての教養に、アルベアトと一角獣の仲。
二つの大きな問題がクラーラに重くのしかかる。




