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23 (終)

23 (終)




 その後、国王より正式に処遇が言い渡される。


 爵位の剥奪、領地の返還。これにより一時、王室預かりになる。

 貴族ではなくなった元シュワルツ伯爵夫妻とジルケディアは平民に。自分たちが馬鹿にしていた男爵位よりも下の身分になった。

 これから三人は平民として生きていくことになる。

 王太子妃の選定での不正は未遂だったため、比較的軽い処置に。


 しかし、これはあくまで“王室の者に対して謀った罪”への罰。


 宝石の『制作者名義』を偽装して販売したとして、地下牢に投獄されることとなった。

 地下牢なのは身分が“平民”だからだ。

 施政者の中には爵位の剥奪、領地の返還だけでなく、地下牢に投獄するのはやり過ぎだとの意見が一部あったが、あまりにも偽装された宝石の数が多かったため、最終的には賛成に回った。王太子妃の選定のできごとや不正を知った他の貴族から、非難する声もあったのだろう。


 現状に納得のいかない元シュワルツ伯爵夫妻とジルケディアは暴れ、しばらくすると謁見の間でのできごとを引き合いに出し、言い争いに発展。


「お父様が『不正をしよう』なんて言い出さなければ、こんなことにはなりませんでしたのに! 私には才能があるのよ!? 今頃、私の力だけで名声を得ていたのに!!」


「お前だって納得しただろう! このバカ娘が! 大体そういうことは、まともに宝石を作ってから言うものだ!! 才能が無い癖に!!」


 最初に、自分に『才能がある』と褒めた父親から否定されたからか、宝石を生成することへの自信が粉々になったジルケディア。

 しかし、まだ認められないからか、突っ伏した状態で号泣しだした。


 いつもなら娘を気遣っている母親だが、今は自分の現状を嘆くばかり。


「どうして、こんなことに……。ジルケディアが謁見の間であんなことを言わなければ、私だけは助かったのに……」


 聞き捨てならない言葉に、二人は食って掛かる。


「なんですって!? お母様は薄情ですわ!!」


「お前! 家族を捨てて、自分だけ助かろうとしたのか!! 贅沢な暮らしを享受しておいて!!」


「だって、私は不正を知っていても関与しておりませんもの! ちょっと口利きをお願いしただけですわ!! なのに、こんなところに入れられて……あんまりよ!!」


 看守はこうなることを予想していたのか、驚く様子はなく無表情だった。


 地下牢では醜い言い争いが、いつまでも木霊していた。


 元シュワルツ伯爵が経営していた、宝石を取り扱う店の経営権は親戚に移った。

 しかし、上手く経営することができず、すぐに他者に譲渡されることに。

 原因は、元シュワルツ伯爵家の悪評だ。利用客の大半を占める貴族が嫌厭(けんえん)したのだ。

 それでも上手くいかないのか、経営はかなり厳しい状態らしい。


 国王にシュワルツ伯爵領への視察を勧めた役職付きの貴族も、ろくに調査を行わなかったとして更迭。引継ぎが終わり次第、辞職することになる。今後、社交界での居心地は悪くなるだろう。

 視察をするにあたり、国王は常々、先方を事前に調査するように言い含めていた。王室の者が出向くことで、相手を認めることになるからだ。

 視察に出向いたことでお墨付きを与えてしまったのだ、処罰としては、ぬるい方かもしれない。




 元シュワルツ伯爵夫妻とジルケディアが、その様なことになっているとは知る由もないクラーラ。

 今は王宮内の庭園にいた。

 美しい庭園の東屋に着慣れないドレスで佇んでいる。

 招待された折にドレスを用意できないことを伝えたところ、アルベアトからドレスを贈られたのだ。すぐに届いたため既製品だろうが、金の刺繍と緑の布地が美しく、本当に受け取って良いのか戸惑った。開けた瞬間に送り主の髪と瞳の色だと気付き、顔が赤くなったことについて、実家の使用人に揶揄(からか)われたことも鮮明に覚えている。


 当初、不正に加担していたことをアルベアト含む王室の者に伝えた時、罰せられるのではないかと震えていた。


 しかし、自身の予想に反し、罪に問われることは無かった。


 実家を盾に脅されていたこと、異常な環境に身を置いていたせいで神経が衰弱していたこと、不正を告発したことが考慮されたのだ。

 クラーラに対する誹謗や中傷の噂が流れたが、そうなった経緯と事情を噂として流すと、ほぼ払しょくされた。

 同情する声まである。

 王室の者がここまでするのは、クラーラを手放すのは惜しいという思惑があったのだろう。一角獣とグリフォンを召喚できる宝石を生成する、高い能力を持っているのだから。


 時を同じくして、没落寸前だった実家のクライン男爵家は好転した。

 クラーラが王太子妃に選ばれたことで、宝石を生成する高い能力を持っていると証明されたからだ。それを知った貴族たちは、恩恵に(あずか)ろうと援助を申し出たのだ。

 今、下の兄弟は魔術の勉強を本格的に始めているらしい。

 頼りないクライン男爵なので一抹の不安はある。しかし、今回のことで王室との縁ができたため、貴族たちから不当に扱われることは無いだろう。

 事の次第を知った今代のクライン男爵は、娘であるクラーラに涙を流しながらに謝罪した。

 もちろん、元シュワルツ伯爵家に奉公に出したことと、当主である自分が不甲斐ないせいで苦労をさせてしまったことに対してである。


 証拠を確保するために尽力したハンナ、元シュワルツ伯爵の命令に従わざるを得なかった使用人たちも不問に。

 ハンナは国王から直々に礼を言われた際、宮廷魔術師間で密かに行われている派閥争いについても報告したらしい。

 彼女は宮廷付きに戻る気はない。

 しかし、ある程度の派閥ができることは仕方ないが、有能な人材が不当に退職に追いやられることは看過できない。在籍している者や、新たに着任する者が快適に職務を全うできるようにという配慮だ。このことに関しても調査をされるだろう。

 使用人たちは管理する名目で引き続き、元シュワルツ伯爵邸で働いているらしい。



 使用人仲間は元気にしているだろうか――そう思いを馳せていると、アルベアトがこちらに駆け寄って来る。

 それに気付いたクラーラもアルベアトの方へ向かう。久々の再会に胸がときめく。


「ごめん。遅くなって」


「お疲れ様。全然、待っていないわ。庭園がとっても美しいから」


 それから、素敵なドレスを贈ってくれて、ありがとう――と感謝の言葉を述べる。


 今、王宮がごたついていて、王太子であるアルベアトも駆り出されていることを知っている。

 国王が宝石の新たな不正防止策に動いたり、宮廷魔術師間の問題に着手しているからだ。そんな彼を責めることはできない。

 きっと、忙しい中でドレスを贈ってくれたのだろうし、今だって政務の合間を縫って会いに来てくれたのだ。

 気にしていないとでも言いたげに、クラーラは笑顔で答える。


 屈託の無い笑顔で言われ、言葉通りに受け取ったアルベアトは少し複雑そうだ。

 庭園ではなく、自分のことを考えて待っていて欲しかったらしい。

 自分勝手だと自覚しているが、相手のことを恋い慕っているのだから仕方がない。


 少しの沈黙の後、視線を落とす。


「すまない……」


 アルベアトは唐突に謝罪する。


「これを筆跡の鑑定に出していれば、不正を暴くことができたかもしれない。もっと早く、クラーラや被害に遭った人々を救い出すことができたかもしれない……」


 そう言いながら、右耳にある耳飾りに加工した宝石に触れる。

 触れることによって、透明の宝石の大部分は影に隠れる。持ち主の今の心情を表現しているかのようだった。


 クラーラは気にしていないとでも言いたげに笑う。


「気にしないで。私が早く行動しなかったのが悪いのだから。私たちのために心を砕いてくれて、ありがとう」



 悪いのは、自分が不正に関わっている事実が露呈することを恐れていた、臆病な心。

 実際、アルのために生成した宝石が元で露呈するのではと、気が気ではなかったもの。

 恐れずに告発していれば、最小ではないでしょうけれど被害が少なく済んでいたかもしれない。


 それに、今が幸せだから思えるのかもしれないけれど、元シュワルツ伯爵に感謝している。

 魔術の勉強ができたこと、厳しい条件の宝石を生成することを強要されたことで、宝石に関する高度な技術が身に着いた。

 それらのお陰で、王太子妃に選ばれたのだから。



 クラーラもアルベアトに頭を下げる。


「私の方こそ、ごめんなさい」


 お互い謝罪する形になったことに、アルベアトは苦笑いをする。

 その後、真剣な眼差しで彼女を見る。


「クラーラ。改めて言わせて欲しい」


 あの時、手を取ってくれなかったから――そう言いながら、少し屈んで耳飾りに触れていた手を伸ばす。

 目線が同じ高さになる。


「僕の伴侶として、ずっとそばにいて欲しい。クラーラ」


 クラーラは少し俯く。


「良いの? 私、不正をしていたのよ?」


 それでも、アルベアトは退かない。


「君がしたくて、した訳ではないのだろう? もし、不正をしようとしたら今度は僕が止める。君の伴侶として」


 アルベアトの右耳に煌めく、耳飾りになった宝石が小さく踊る。

 王太子妃の選定にも付けていた。クラーラがアルベアトのために生成した宝石だ。

 クラーラはすべてを知っても、自分を受け入れてくれたことが嬉しかった。


「クラーラ」


 促すアルベアトに、クラーラは涙が出そうになるのを堪えながら差し出された手を取る。


「ありがとう……!」



 私も、アルベアトが不正をしようとしたら止めよう。

 困っていたら助けよう。

 伴侶として。




「それにしても。どうして不純物や色むらがあったのに、高位の獣である一角獣を召喚できたのだろう?」


 アルベアトは不思議そうにしていたが、クラーラはなんとなく見当がついていた。



 アルベアトへの想いが溢れてしまったことが原因だろう。


 法陣結晶――“宝石”を生成することは非常に高度で繊細な作業。

 故に“強い想い”は生成の妨げになるのだ。

 宝石を生成する上では不純物になる。

 加えて、集中力が散漫になるので色むらが出来やすい。


 鉱物の宝石では不純物や色むらがあることによって、新たな価値を生む事例が存在する。

 この場合も“強い想い”によって、そういった奇跡が起きたのではないか。



 しかし、クラーラはこのことをアルベアトに伝えることは無いだろう。


 自分の“強い想い”を打ち明けることになるからだ。


 そのような無粋なことはしたくない。

 だから、笑顔でこう答える。


「さあ、私も見当もつかないわ」




 大切に保管されているクラーラの生成した不純物や色むらの酷い宝石は、一瞬だけ、不純物の部分が虹色に光った気がした。

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