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 後日、クラーラはアルベアトを含む王室の者に、シュワルツ伯爵家で行われていた不正を訴えた。


 シュワルツ伯爵邸に軟禁状態でジルケディアの名義で宝石を生成するよう、シュワルツ伯爵に命令されたこと。筆跡はジルケディアが自分の字を真似ていたこと。

 そして、最後に不正に加担していたことへの謝罪で締めくくった。


 それを聞いた国王はすぐに調査隊を結成し派遣。


 クラーラの筆跡を調べ、実家にある手紙や書類により、ジルケディアの宝石はクラーラが生成したと証明された。

 シュワルツ伯爵家の使用人に聞き取りをしたところ、不正は事実であるとの証言が取れた。


 不正の告発後、筆跡に既視感を覚えた者がアルベアトに耳飾りに加工した宝石の提出を求めた。

 害がないかを調べるため、加工前に法陣を分析していたのだ。警護を担当した者から「殿下と同じ年頃の女性が生成した宝石を受け取った」との報告があったためだ。

 報告書から“宝石を生成したとされる女性”とクラーラの特徴が一致。筆跡の鑑定をした結果、こちらもクラーラのものと判明。

『制作者名義』設定されていれば特定が容易だったかもしれないが、クラーラは自分が不正に関与していたことについての露呈を恐れていた。そもそも、メモ用紙の空きには限りがある。色の指定と同様、重要度の低い項目を省かざるを得ない。


 クラーラが生成した事実と合わせて、王太子妃の選定でのグリフォンの様子。

 間違いない――そう思った。


 しかし、これだけでは十分な証拠とは言えない。


 使用人が嘘を吐いている。ジルケディアの宝石とクラーラの宝石を間違えてしまった。――そのように釈明される可能性がある。

 実際、クラーラとジルケディアの筆跡は同じ。

 シュワルツ伯爵邸に残っているジルケディアの文字は今の筆跡のみ。

 最後に出された手紙は二年前。その間に筆跡が変化したと言われると追及できない。

 不自然だが、裏付ける証拠がないのだ。


 だが、ある日、重要な証拠が届けられる。


 そして、しばらくしてシュワルツ伯爵邸であるものを押収する。




 国王はシュワルツ伯爵夫妻とジルケディアに登城するよう命じる。

 国王の命令により、すぐに登城したシュワルツ伯爵夫妻とジルケディア。


 謁見の間にて不正の事実を突きつけたのだが、予想通りシュワルツ伯爵とジルケディアは罪を認めなかった。


「使用人が嘘を言っているのです! どうか、惑わされないで下さい! 娘の字が昔と違うのは、数年の間に変わったからです!」


「私の宝石とクラーラの宝石を間違えてしまいましたの! わざとではございませんわ!」


 言い訳を聞いていた国王は、家臣にあるものを持って来させる。


 それは、ジルケディアが数ヶ月前に侯爵子息に送ったとされる手紙だった。

 直接出されたため郵送の記録に残っておらず、調査隊が知ることはできなかったのだ。


 では何故、その手紙があるのか?


 それは、失踪したとされるハンナが探し出したからである。


 ハンナは密かに不正の証拠を探すため、使用人に取り入り探りを入れていた。

 なにせ、保全していた証拠をシュワルツ伯爵の命令に従う使用人に見つかり、処分されてしまったのだ。

 最初のきっかけは、クラーラがシュワルツ伯爵邸の庭で散策していた折に監視していた使用人からだった。ハンナが弱みを見せたところ、少し心を開いてくれるようになったのだ。

 様々な使用人に聞き取りをした際、自分がシュワルツ伯爵家に訪れる直前、ジルケディアが手紙を出していたことを知る。

 その手紙は重要な証拠になると確信。

 詳細を聞くと、使用人は“侯爵家の令息”以外のことを覚えていなかった。

 しかし、侯爵家の数は少なく、更にジルケディアと同じ年頃の独身男性は限られるため、探し出すことは容易だった。


 クラーラが不正を告発しないことも考慮した上で、手紙を確保したのだ。


 手紙に書かれた文字はクラーラのものと大きく異なる。それどころか、二年前とほとんど筆跡が変化していない。

 よって、筆跡が数ヶ月で自然に大きく変化するとは考え難い。

 わざと似せたと判断された。


 その手紙を見た瞬間にジルケディアは言葉に詰まり、国王からの説明を受ける。

 罪を逃れるため、苦し紛れに「捏造された」と訴えた。しかし、文字と文章が二年前に出した手紙と同じ間違いをしていることを指摘され、何も言えなくなってしまった。

 懇切丁寧に間違いを指摘されている間、羞恥で項垂れる。

 恥じ入っている間、手紙を出すほど懇意にしていた相手に対して怒りの念が湧き上がってきた。なぜ、協力したのだ、提出したのだ――と。

 しかし、相手は侯爵家。伯爵家の自分たちにはどうすることもできないほど家格が上。

 怒りをぶつければ侯爵家を敵に回し、社交界に自分たちの居場所はなくなるだろう。我慢するしかない。


 同時に説明を聞いていたシュワルツ伯爵は、絞り出すように言う。


「娘が……娘がすべてやりました」


 シュワルツ伯爵は娘を切り捨てるつもりなのだろう、ジルケディアにすべての罪をなすりつけてきた。


「お父様!?」


 項垂れていたジルケディアは父親に顔を向け、突然の裏切りに信じられないと言いたげに驚きの声を上げる。


 シュワルツ伯爵は自分の保身に必死だ。


「私は何も知りません! 娘がやりました!」


「嘘を仰らないで! 私にやりたくもないクラーラの字を練習させたくせに!『クラーラを利用しよう』と仰ったのは、お父様とお母様で――」


「ジルケディア!」


 鳴りを潜めていたシュワルツ伯爵夫人が自分の娘を叱責する。

 自分にも累が及ぶと思ったのだろうが、もう遅い。

 周囲にしっかり聞かれている。


 シュワルツ伯爵夫人については夫に従っただけだろうが、引き続き調査をすることに。


 国王はこれも予想通りだったのだろう、シュワルツ伯爵邸で押収したのもを見せる。

『制作者名義』の設定に使用した金の印章だ。


 しかし、シュワルツ伯爵は理解できていない様子。


 国王はシュワルツ伯爵に分かりやすく説明する。


「この印章に彫られた文字を見よ。この文字の跳ねは貴様の癖だ」


 シュワルツ伯爵の顔に冷や汗が浮かぶ。見苦しく必死に弁解する。


「し、知りません! 商売敵……そう! 商売敵が私を(おとし)めるために……!」


「これは貴様の邸宅から押収したのだぞ?」


「で、でしたら、使用人が捏造したのでしょう!」


「使用人が、印章を作れるほどの大きさのある金を買うことができると? これは塗装ではなく、純金だ」


「な……なら……商売敵と使用人が結託して……。きっと、そうに違いな――」


「往生際の悪い奴だ。この印章が『制作者名義』の設定に使われていたことを、どう説明する」


「!!」


 考えずとも分かることだが、シュワルツ伯爵は分からなかったらしい。それほど混乱しているのだろう。

 シュワルツ伯爵が黙ったところで、国王は説明を続ける。


「経営に関係した重要書類で筆跡鑑定を行った結果、印章に彫られた文字は貴様のものであると判明した。図形化しているため判別が困難だったらしいがな。此度の不正は貴様から持ち掛けたのではないか?」


 口をパクパクさせているが、声は出ていなかった。


「シュワルツ伯爵令嬢から持ち掛けたのなら、このような印章は必要ない。クライン男爵令嬢の筆跡に似せていたのだから、始めから自分で書くだろう」


 弁解したいのに言葉が出ない。


「少しでも早く儲けを生むために印章を作り、娘の名義でクライン男爵令嬢に宝石を生成させる。その間に自分の娘に字を似せるよう言ったのか」


 いたたまれないのか、国王に視線すら合わそうとしない。


「用心深い貴様のことだ。印章を使用し続けた理由は、途中で変更するのは不自然だと判断。名前は最も書き慣れているもの。したがって、些細なことがきっかけで本来の癖が出るかもしれないと、危惧したからだな?」


 己の強欲さが仇になったな――と手にしている金の印章を見た後、シュワルツ伯爵に冷たい視線を向けながら呟く。

 金の印章はまるで、持ち主の強欲さを象徴しているかのようだ。


 すべて看破され、ぐうの音も出ない。

 助けを求めるように妻や娘に視線を移すが、二人は助けるそぶりを見せない。娘のジルケディアにいたっては、先ほどの裏切りもあってか、そっぽを向いている。

 シュワルツ伯爵はジルケディアの筆跡の痕跡だけでなく、自分が考案した印章の図案も処分したが不十分だった。

 自分の文字の癖を理解していなかったのだ。

 どちらにしても、経営に関する重要書類までは処分できない。


 弁解することを諦めたシュワルツ伯爵は茫然自失になる。


 国王は証拠品を家臣に渡し、下がらせる。

 そして、玉座から三人を虫けらでも見るような表情で吐き捨てるように言う。


「このことは追って沙汰を言い渡す」

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