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「キュエエエエエエエ!!!」
「な、なぜ、私なんですの!? 私は主ですのよ!?」
なんと、主であるはずのジルケディアに威嚇したのである。
それにはクラーラ以外のすべての人が驚く。
『使用者権限』の項目。
“召喚の法陣を用いた宝石の場合、『宝石生成者』、『使用者』がその場に同時に存在していれば、召喚に応じた者がどちらを優先させるか判断する”
ハンナが思い返すように言っていたのは、このことだろうか。
なぜ、それを手掛かりとして言ったのだろう。
それは、『宝石生成者』である自分の方が、多くの魔力を持つ『使用者』のジルケディアより優先度が上位だからではないか?
クラーラが気がかりだったのは、ジルケディアが平均より“魔力量が多い”という事実。
しかし、より多くの魔力を有しているかでは無く、宝石を生成する“能力”を重要視しているのだとすれば?
それが正しければ、ジルケディアが『宝石生成者』を騙り『制作者名義』を偽装した只の『使用者』であることを、証明することができる。
ならば、自分が王太子妃の選定に参加すれば不正の証拠となる。
ハンナが授業で深く教えなかったのは、ジルケディアや勉強部屋にいた使用人を通して、シュワルツ伯爵に知られることを危惧したからだろう。
別れ際に手掛かりだけを残した理由は分からない。しかし、元々考えるように促す性分だったし、教師が生徒に宿題を出すようなものではないかとクラーラは考えていた。
今となっては確認のしようがない。推測の域なので賭けだった。
“召喚の法陣を用いた宝石の場合、『宝石生成者』、『使用者』がその場に同時に存在していれば、召喚に応じた者がどちらを優先させるか判断する”
ということは、本物の『宝石生成者』か、『宝石生成者』を騙り『制作者名義』を偽装した只の『使用者』か判別できるということ。
召喚された存在は、宝石を通して召喚される。
逆に言えば、その宝石を通して召喚されなければ判別できないので、外部からの干渉が不可能。筆跡を偽装したとしても、召喚に応じた者を欺くことはできない。
よって最大の偽装防止策になる。
ある程度ふるいにかけた後、『宝石生成者』であることを候補者は証明する必要がある。
方法は、召喚に応じた者が愛情表現をしたか、『宝石生成者』であることを証明する命令に従ったかなどで確認するのが決まりだ。
高位の存在は自身の矜持により、能力のある者に惹かれる傾向にある。
単純に強大な魔力を持つ者にも惹かれるが、それよりも優れた技術力を持つ者に魅力を感じるのだ。
それ故に、高い技術力を持つ『宝石生成者』が優位に立つ。
ちなみに、『宝石生成者』、『使用者』にどちらも属さない『第三者』が高い能力を持つ場合、『第三者』に従うことは無い。宝石に全く関わりが無いからだ。
そのようなことになれば、せっかく『使用者』が宝石を購入したにもかかわらず、召喚に応じた者から力を借りることができなくなってしまう。最低限、召喚の法陣にそのくらいの拘束力はある。
高位の存在は『使用者』の命令で嘘を吐き、『宝石生成者』であると証明することは無い。
自身の矜持を曲げて能力の無い者に従うことになるため、高位の存在は絶対に従わない。
その場に、本物の『宝石生成者』が不在だったとしても同様。
召喚に応じたため、『使用者』の命令に従って力を行使するが、『宝石生成者』であるという証明に協力することは無いのだ。
下位の存在は嘘を吐く可能性があるが、王室側がそのような者しか召喚できない『宝石生成者』を王太子妃と認めない。
先ほど、ジルケディアは自分から「召喚した宝石の生成者である私が命じる」と言った。しかし、自ら生成したはずの宝石を使用し、召喚したグリフォンに威嚇された。
これは、ジルケディアが『宝石生成者』を騙り『制作者名義』を偽装した只の『使用者』であるこということ。
命令に従えば、ジルケディアが『宝石生成者』であるという証明に協力することになる。
単に「攻撃しろ」と命令した後に召喚に応じた者が力を行使しても、王室側が『宝石生成者』であると証明されたと判断しない。『使用者』の可能性があるからだ。
「召喚した宝石の生成者である私が命じる」と付けて命令した後、召喚に応じた者が力を行使して初めて証明されたと判断する。
ジルケディアが単に「攻撃しろ」と命令したとしても、召喚に応じた者はクラーラを攻撃しない。
その場に本物の『宝石生成者』がいれば、そちらが優位になるので攻撃をすることは無い。
高い技術力を持つ『宝石生成者』である、クラーラの意志が尊重されるからだ。
どちらにしても己の不正を証明することになった。
だが、高らかに『宝石生成者』であることを証明する命令を下したことによって、衆人の前で醜態を晒してしまった。
クラーラの推測は正しかった。
いくらハンナが授業で深く教えなかったとはいえ、少し考えれば気付くことができた。
しかし、ジルケディアは勉強嫌いが祟って気付くことができなかった。
シュワルツ伯爵は宝石を商品としてしか見ていないのか、召喚の法陣を使った宝石の特性を見落としていた。経営に影響が無かったのは奇跡かもしれない。
『宝石生成者』、『使用者』がその場に同時に存在していることは稀なので、失念していたとしても無理はないだろうが。
シュワルツ伯爵は特性を思い出したのか、顔を両手で覆い、倒れそうになるところをシュワルツ伯爵夫人に支えられる。
グリフォンが命令に従わないと悟ったジルケディアは、その場に頽れる。
しかし、怒りの感情を抑えることができず、両手で床を叩きながら爆発させた。
「ああああああああああああああああああ!!! あの貧しい男爵家の娘が……クラーラがいるから……私が王太子妃に相応しいのに! 私こそが! 殿下! どうか! どうか、お考え直し下さい!!」
そんなジルケディアに、アルベアトは冷淡に答える。
「いや、グリフォンにあのような恐ろしい命令を下した時点で、シュワルツ伯爵令嬢を王太子妃に迎える可能性は完全に潰えたよ」
更に冷酷に言い渡す。
「其方は、王太子妃に相応しくない」
アルベアトの冷ややかな言葉に、ジルケディアは言葉をなくす。
近衛兵はジルケディアを捕らえる。
その時、会場に残っていた者からヒソヒソとした話し声が。
軽蔑や侮蔑を含んだ話し声だった。
「あら。あの素晴らしい宝石を作ったのって、ジルケディア嬢ではなかったのね」
「宝石の生成者であるはずなのに威嚇されて……クスクス」
「まさか王家の者に対して不正をするとは!」
「シュワルツ伯爵令嬢が今まで生成してきた宝石も、もしかしたら……」
グリフォンの威嚇する様子を見て、今までジルケディアの名義で生成された宝石について訝しむ者も出てきた。
四人の候補者たちも一時的とはいえ、敗北と言う屈辱を味わわされたからか辛辣だった。「能はないのに度胸だけはあるのね」などと嫌味を言う者もいる。
馬鹿にしていたクラーラに負けた鬱憤の発散も兼ねているのだろう。
見事な宝石がジルケディア自身によって生成されたと思ったから、会場にいる者は称賛したのだ。
しかし、いざ蓋を開けると不正した物であると露呈。
ジルケディアは自身に向けられる、悪意のある言葉に震えが止まらない。
どうして……?
私は……本当に、才能がありますのに……。
本気を出せば、あのくらいの宝石なんて、すぐに作れるほどの能力がありますのに……。
今は本気が出せないから、代わりに作らせていただけですのに……。
どうして……どうして、馬鹿にされなければなりませんの……?
避難していた国王と王妃は会場に戻る。
国王と王妃の登場に気付き、話し声が止む。
家臣から事のあらましを聴き、国王は一瞬だけ眉を顰めた後、ジルケディアに言い渡す。
「シュワルツ伯爵令嬢よ、しばらく領地で謹慎するように」
再び、会場ではジルケディアに対する軽蔑や侮蔑を含んだ話し声が響く。
しかし、国王は会場に響く話し声に対して、止めるように咎めることは無かった。




