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 光が徐々に消え、宝石に呼応した存在がクラーラの目の前に現れる。




 白馬のように見えるが、ただの白馬ではない。


 吸い込まれそうなほど美しく深い青色の瞳を持ち、角度を変えると様々な色に変化する(たてがみ)をなびかせている。額には一本の渦を巻いたような、長く鋭い立派な角がそびえている幻の獣。


 一角獣がいた。


 呼応した宝石とは違い、史実より立派な一角獣だった。

 額の角は黄金に輝いているように見える。



 あまりの美しさに目が離せないクラーラ。

 クラーラだけではない。先ほどまで嘲笑っていた者は言葉を失い、立派な一角獣に見とれながら褒め称える。


「まあ、なんて美しい一角獣なの……」

「歴史書に書かれている大きさよりも立派じゃないか!!」

「初めて一角獣をこの目で見たわ。想像より、ずっと綺麗!」

「見ろ、あの立派な角。黄金のように輝いて美しい」


 国王は前のめりになり、王妃は口を手で覆っている。


 宮廷魔術師も“何の価値も無いゴミ”から現れた幻の獣、一角獣に興味津々の様子だ。


 四人の候補者たちは下を向いて、居心地が悪そうにしていた。

 自分たちより下位の存在を召喚するだろうと思っていたのに、幻の獣である一角獣を召喚されたのだ。馬鹿にしていた使用人に、精神的に完膚なきまでに叩きのめされてしまった。


 アルベアトは、クラーラなら高位の存在を召喚できると信じていた。

 しかし、これほど立派な獣を召喚するとは思わなかったのか、全身の肌が粟立っている。


 クラーラが固まったままでいると、一角獣はゆっくりと近付いていき、クラーラの頬に自分の頬や頭をこすりつける。

 撫でて欲しい――そう言っているように感じたのか、クラーラは優しく一角獣を撫でる。


 アルベアトはその様子を見て決断し、会場にいる者に宣言する。


「私、王太子アルベアトの名を以て宣言する」


 王太子殿下がとうとう王太子妃をお決めになった――会場にいる者は固唾を呑む。


「私はこれほど立派な獣を見たことが無い!」


 選ばれるのはグリフォンを召喚したジルケディアか、はたまた一角獣を召喚したクラーラか。

 皆、アルベアトの動向に注目する。


「私は一角獣を見事に召喚したクラーラ・クラインを、王太子妃として迎える!」


 その瞬間、会場内に拍手が巻き起こる。

 二人を祝福する拍手だ。


 クラーラは顔を赤くさせ、アルベアトを見る。


 アルベアトはそんなクラーラに近付き右手を伸ばす。


「僕の伴侶として、ずっとそばにいて欲しい。クラーラ」


 ようやく、アルベアトの右耳に自身が生成した宝石が耳飾りになっていることに気付くクラーラ。

 煌めきながら揺らめいている様はまるで、喜びを表現しているかのようだった。


 しかし、その手を取ることはできない。

 まだ、終わっていないからだ。



 そして、この結果に納得できない者が――


「お待ち下さい!」


 ジルケディアとシュワルツ伯爵夫妻だ。


 グリフォンと一角獣。二頭とも甲乙つけがたいほど高位の存在。検討の余地なく決められたのだ、納得できない。

 シュワルツ伯爵は自身の娘であるジルケディアの方が、いかに優れているかを説く。


「納得いきません! 高位の獣でございましたら、私の娘が召喚したグリフォンも引けを取りません! 王の象徴ともいえるグリフォンを召喚した娘こそ、王太子妃に相応しい! それに、宝石の品質は娘の方が遥に上です! どうか、ご再考下さい!」


「確かに、シュワルツ伯爵令嬢の生成した宝石は素晴らしい。召喚した獣も見事だ。王太子妃として申し分ない」


「でしたら……!」


「だが、クライン男爵令嬢の召喚した一角獣を見よ。一角獣は主に精一杯、愛情を示している」


 クラーラの召喚した一角獣は今もなお、撫でて欲しそうに頭部をこすりつけている。


「それに対して、シュワルツ伯爵令嬢の召喚したグリフォンはどうだ。主に愛情を示すことなく、佇んでいるだけではないか」


 ジルケディアに召喚されたグリフォンは暇そうにしていた。命令を下されることを待っているのか、伏せの状態で待機している。

 時折、あくびをするなど、愛情を示すどころか、明らかに主であるはずのジルケディアに興味を示していない。


「そ、それは、個体差と申しますか……グリフォンは誇り高い獣でございますので……」


「わ、分かりましたわ! グリフォンが私に愛情があることを今すぐ証明して見せます!」


 シュワルツ伯爵が言葉を詰まらせている様子を見て、危機的状況を察したジルケディアは、父親の後ろから出張ってくる。

 このままでは王太子妃に選ばれないと判断したのだろう。せっかく、手が届きそうなところまで来たのだ。諦められるはずがない。

 そして、クラーラの存在を疎んじたのか、グリフォンに恐ろしい命令を下した。


「グリフォン! 貴方を召喚した宝石の生成者である私が命じますわ! あの貧しい男爵家の娘を攻撃しなさい!」


 その命令を聞いた瞬間、近衛兵、宮廷魔術師が臨戦態勢に入る。

 相手は伝説の獣、小さな過失一つが命取りになる。

 甘えていた一角獣もクラーラから離れ、主を守る態勢に。

 近衛兵の一部は国王や王妃、会場にいる者に避難するよう呼びかける。

 アルベアトもクラーラを連れて避難しようとしたが、クラーラは動こうとしない。


「アルは避難して。私は大丈夫だから」


「君を置いて逃げることはできない。生涯の伴侶として選んだのだから、僕も君のそばにいる」


「でも、もしものことがあったら……」


「大丈夫。身を護る術は心得ている。」


 アルベアトのために、この場を離れるか迷うクラーラ。

 しかし、それでは証明できない。

 それに、狙いは自分。どちらにしても逃げられない。



 大丈夫。ハンナ様の仰っていたことを正しく理解しているのなら!



 クラーラはジルケディアと対峙する。


 グリフォンは威嚇する。



 だが、その相手は意外な人物だった。

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