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 クラーラが入場した際、会場ではクスクスと笑い声が聞える。


「汚らしいわぁ、よく来れたわね。髪もあんなに乱れて……」

「おい。使用人が来たぞ」

「王家の方がいらっしゃるというのに、なんて場違いな格好をしているんだ」

「誰か、会場を間違えていることを教えて差し上げたら?」


 お仕着せの上、髪が乱れていることを嘲笑(あざわら)っているのだ。

 クラーラはそのことに気付き、恥ずかしそうに歩きながら身なりを整える。


 会場から聞こえる嘲笑に対して、不愉快極まりないと言わんばかりに国王は咳払いをする。

 すると、その場は水を打ったように静まり返る。

 王妃も国王と同じ気持ちなのか、嘲笑ったとされる者を睨みつける。

 間接的ではあるが、国王と王妃に注意されてバツが悪そうにする。


 アルベアトは、筆跡の鑑定を行った者から新たに名簿を受け取る。

 そこには“クライン男爵家出身 クラーラ・クライン”の文字が書かれていた。

 待ち望んでいた名前に嬉しくなる。


 しかし、アルベアトは王太子としてクラーラに向き合う。

 将来、国を背負う者として、王妃と王太子妃の必須能力――高品質な宝石を生成し、高位の存在を召喚できる能力があるかを見極めなければならない。


「それでは、クラーラ・クラインよ」


「はい」


 自分の名前を呼ばれたクラーラは、真っ直ぐにアルベアトを見る。


其方(そなた)の生成した宝石を()って、王太子妃に相応しいことを私に証明して見せよ」


「承知いたしました」


 クラーラは、アルベアトを見ながら両手で持っていた宝石を見せる。


 掌には、ジルケディアに“何の価値も無いゴミ”と酷評された宝石が乗っていた。


 拳の二回りほど大きいそれは、どの候補者にも勝っていた。

 だが、不純物が大量に含まれており、とても良い出来とは言えない。

 全体的に薄紅色で色むらも多く、ところどころ黄色や無色になっているところがあった。


 その不出来な宝石を目にした瞬間、再び嘲笑(ちょうしょう)があちらこちらで聞えるように。


「なぁに、あの宝石。やだ、ゴミと言った方が良いかしら?」

「不純物も色むらもあんなに……大きいだけじゃなぁ……」

「クスッ。私だったら恥ずかしくて、このような厳かな場に出せないわぁ」

「どうせ召喚するのはカエルかミミズだろう。もしかしたら、ヘドロだったりして」


 ジルケディア以外の候補者たちも笑っている。

 自分たちが召喚した獣より下位の存在だろうと思っているのだ。使用人に負けるはずがない――と。


 ジルケディアは、クラーラが召喚の魔術を発動しようとしても全く動じない。

“何の価値も無いゴミ”から、高位の存在を召喚できるはずがないと高をくくっている。自分が召喚したのは伝説の獣、グリフォン。どうしたって、不純物も色むらもある宝石から高位の存在を召喚することなど不可能だ。

 会場にいる誰かが『もしかしたら、ヘドロだったりして』と言っているのを聞いて吹き出しそうになり、慌てて扇子を広げて口元を隠す。

 ヘドロより劣っていたりして……だとしたら、一体なにになるのかしら?――そう思いながら、ヘドロより劣った存在を思案していた。想像すると笑わずにはいられない。

 それはジルケディアの両親である、シュワルツ伯爵夫妻も同様だった。


 会場中から聞こえる嘲笑に委縮するクラーラ。


 不愉快な嘲笑に対し、国王は二度目の咳払いをする。

 王妃も先ほどより、きつく睨みつける。

 すると、再び静寂が訪れる。


 会場が静かになっても、クラーラの脳内では自分を嘲笑う声が幾重にもなって響いていた。



 静かになったのに、あちらこちらで私を笑っている声が聞える気がする……。

 もし、高位の存在をこの場で召喚できなかったら?

 更に笑われるでしょうし、アルに失望されるかも……。

 そうなる前に辞退して、宝石を仕舞った方が良いかしら……。



 そう思い、俯いた際に宝石を見る。

 その瞬間、アルベアトへの気持ちを込めて宝石を生成したことを思い出す。



 いいえ! アルへの気持ちを精一杯、込めたのだもの。

 恥ずかしいことなんて何も無いわ!



 再びアルベアトに向き合う。

 その瞳には強い意志が宿っていた。


 アルベアトもそれを感じ取っていた。


 クラーラは深呼吸をする。


 ほとんどの者は、失敗することを予想しているのだろう。

 王室の者に悟られないよう、扇子や手で口元を覆い隠し、笑いを堪えている。


 ある程度落ち着いた後、クラーラは自身の魔力を宝石に流し、召喚の魔術を行う。


 すると、ジルケディアが行った召喚よりも美しく優しい光に包まれる。


 会場にいる者は、“何の価値も無いゴミ”から発せられていることに驚きを隠せない。


 クラーラは必死に願った。



 この宝石に込められた想いに呼応する存在が現れることを。

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