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その頃、王宮では王太子妃の選定が行われようとしていた。
参加する女性は五人。
その中には当然、ジルケディアもいた。
深紅のドレスに身を包み、鉱物の宝石がふんだんに使用された装飾品を纏っている。
どの候補者よりも目立っていた。
そのことに本人も気付いているのだろう、全身から自信に満ち溢れていることが分かる。
候補者の令嬢や保護者などがいる中、家臣が王室の者の入場を知らせ、国王と王妃、そして主催者の王太子、アルベアトが入場する。
王室の者が入場した直後、場の空気に緊張が走る。
市井に降りていた格好とは違い、正装に身を包み、髪を整えられたアルベアト。
右耳には、クラーラが生成した宝石が耳飾りとして加工されていた。
その宝石は、一切、削られておらず、公の場でも違和感が無いように美しく装飾されており、動く度に煌めいている。
候補者の女性は皆、熱い眼差しを向けていた。
国王と王妃が着席した後、アルベアトが挨拶を行う。
「これより、法陣結晶――宝石を用いた私の妃の選定を行う。この日のための宝石生成、誠に大儀であった」
挨拶中、周りを見渡す。
会場内にいる人、全員に向けて言っている。
それと同時に、どこかにクラーラがいるのではないかと思い、無意識に探していた。
結果、クラーラがいないことに落胆する。
参加していないことは分かっていたが、この目で確かめるまで心のどこかで期待していた。
しかし、自分は王太子。
将来、この国の国王になる。
この場にクラーラがいたとしても、誰よりも優れた宝石を生成できるかは分からない。
国にとって最善の選択をしなければならない。
アルベアトは必死に、自身の感情を抑え込む。
アルベアトは筆跡の鑑定を行った者から、あらかじめ名簿を受け取っており、一人ずつ名前を呼ぶ。
呼ばれた候補者は、自身で生成した宝石から召喚の魔術を行う。
ある者は、東に生息する黄褐色と黒の縞模様の美しい獰猛な獣。
ある者は、西に生息する鼻の長い巨大な体躯の獣。
ある者は、南に生息する赤や緑など極彩色の美しい羽を持つ鳥。
ある者は、北に生息する白い体毛に覆われた牙を持つ獣。
どれも、この国では珍しい存在に違いないが、高位の存在とはいえない。
その気になれば、宝石を用いることなく捕らえることが可能だからだ。
品評する宮廷魔術師は頭を抱え、時折「今回の王太子妃の選定は中止にすべきでは……」などと囁かれていた。
そんな中、最後にジルケディアが宝石で召喚の魔術を行う。
他の四人とは明らかに違う美しい光に包まれる。
今までと違う光に周囲は期待する。
美しい光が弾け、召喚に応じた存在にその場にいた全員が息を呑む。
鷲のような頭部と前足に大きな翼、獅子のような後ろ足。
幼い頃から言い聞かされてきた伝説の獣。
グリフォンを召喚したのだ。
今は召喚したジルケディアの隣に立ち、時折、大きな翼を広げたり、周囲を見渡したりしている。
グリフォンは他の候補者が召喚した獣に視線を移す。
只それだけだが、睨まれたと感じた獣たちは委縮し、後退っている。
そのグリフォンと召喚したジルケディアに対し、方々から称賛の声が上がる。
「あれは伝説の獣、グリフォンではないか!」
「なんて悠然とした立ち姿なの……?」
「さすが、たった数ヶ月で名を揚げた宝石生成の天才、シュワルツ伯爵令嬢だ」
「く、悔しいが、娘の負けを認めざるを得ない……!」
玉座にいる国王や王妃も、ジルケディアが見事な召喚をしたことに感心している。
他の候補者の召喚した獣を見た後だからか、これには宮廷魔術師も驚く。
ジルケディア以外の候補者たちは皆、悔しそうにしている。
当然だ。自分たちの召喚した獣より、明らかに格上なのだから。
ジルケディアは、自身に向けられる称賛する声に酔いしれる。
会場にいる誰もが、ジルケディアこそ王太子妃に相応しいと信じて疑わない。
しかし、ただ一人。
アルベアトだけは違った。
確かにグリフォンは素晴らしいが、その獣を召喚した人物が意中の相手ではないから不満なのだ。
ジルケディアを王太子妃に迎えるべき――そういった空気がひしひしと伝わってくる。
覚悟を決めるアルベアト。
その時、アルベアトに家臣からもう一人の候補者が到着し、筆跡の鑑定を終えたことを耳打ちで伝えられる。
アルベアトは国王に視線を移し、助言を仰ぐ。
国王は、主催者であるアルベアトに判断を委ねる。
「王太子妃の選定はお前のために行われている。どうするかは自分で決めなさい」
「ありがとうございます」
父親である国王に感謝を伝えた後、アルベアトは通すように言う。
その瞬間、重厚な扉が開かれる。
そこにいたのは、緊張で少し息の乱したクラーラだった。




