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王宮へ行くためには、シュワルツ伯爵の命令に従っている使用人の目を掻い潜らなければならない。
王太子妃の選定の当日なのだから、クラーラの外出を許さないだろう。
しかし、今は主たちを見送ったことで安心したのか、少し気が緩んでいる。
クラーラは信頼できる使用人仲間に協力をお願いした。
「あの、ここから出たいので、協力していただけませんか?」
「してあげたいのは山々だけど……ごめんなさい」
「後で知られるのが怖いし……黙っててあげるから、止めた方が良いんじゃない?」
その後、何人もの使用人に断られ続けたが諦めなかった。
すでに風魔法の宝石のお礼をもらったことで引け目を感じていたが、焼き菓子をくれた使用人にも同じように協力を依頼。
「すみません。ここから出たいので、協力していただけませんか?」
この日に外出を申し出たことで、使用人は疑問に思う。
「もしかして、王太子妃様の選定に参加するの?」
「……」
何も言えなかった。
肯定すれば妨害してくるだろう。
しかし、沈黙も正解とは言えない。それもまた肯定を意味するからだ。
別の言い訳をしようにも、不正の証拠を突きつけること、アルベアトに想いを伝えることに頭がいっぱいで思いつかない。
「分かったわ」
意外にも、何も言えずにいるクラーラに理由を聞くことなく、引き受けてくれた。他の使用人にも協力を仰いでくれ、無事にタウンハウスから出ることに成功。
「協力したんだから、絶対に王太子妃に選ばれなさいよ!」
もしかしたら、この使用人はシュワルツ伯爵に対して腹に据えかねたものがあるのかもしれない。
不正の隠蔽に異常な命令。無理もない。
「ありがとうございます!」
クラーラは感謝の言葉を口にした後、大通りへ走り出す。
クラーラは王宮へ向かうため、大通りで乗合馬車に乗った。
そこには、年配の男女が先に乗っており、クラーラを見るなり話しかけてきた。
「王太子妃様の選定に参加するのかい?」
「まあ、まあ、選ばれると良いねぇ」
心に余裕が無いため、少しぎこちない笑顔で「ありがとうございます……」と返すのみ。
ガタン、ゴトンと揺れる中、気が気ではない。
ハンナが言っていたことを曲解していたら……。
不正を証明できなかったら……。
実家に何かされたら……。
王太子妃に選ばれなかったら……。
そのことで頭がいっぱいだった。
しばらくすると、クラーラはあることに気が付く。
あまり進んでいないのだ。
焦っていると、年配の男女の会話が聞こえる。
「王太子妃様の選定が行われるから、街が賑やかだねぇ」
「どこも、かしこもお祭り騒ぎだ」
「そんな……!」
そうこうしている内に、馬車は完全に止まってしまった。
前方には酔っ払いが躍り、道を塞いでしまっている。
クラーラは走った方が早いと判断。料金を支払った後、馬車を降りて走り出す。
しかし、お祭り騒ぎをしている群衆でなかなか思うように進まない。
何人かの人に、ぶつかりながらも走っていたが、体力が徐々に無くなっていくと同時にスピードも落ちていく。
このままでは王太子妃の選定に間に合わない……。
その時だった。
「クラーラ!!」
自分の名前を呼ばれ、両手を振りながら「こっちです!」と叫ぶ。
そこには、水魔法の宝石を贈った御者が馬に跨ってやって来た。
別の用事を言いつけられたのか私服だった。
王宮に向かうにあたり、少しでも見目麗しい御者にと外されたのだ。
「使用人仲間に聞いたんだ。王太子妃の選定にクラーラが参加するって。ほら、乗って!」
「ありがとうございます!」
御者の手を借り、どうにか後ろに乗ることに成功する。
走り出した後、なぜ困っていることが分かったのか疑問に思う。
「どうして、私が困っていることが分かったのですか?」
「街で買い物している時に、ここら辺がお祭り騒ぎになるかもって店の人が言ってたからな。タウンハウスに戻って、クラーラが王宮に向かったって聞いた時、もしかしたら……って。運搬用に借りてる馬を返さなくて良かった」
クラーラは使用人仲間の気遣いに感謝する。
馬に乗せてくれた御者も、タウンハウスから脱出することに協力してくれた使用人も、旦那様に知られたら大変なことになるだろうに……。目頭が熱くなる。
しかし、馬に乗っても前方に群衆がいる。馬が走って来ても意に介さないようだ。
クラーラがどうしようか考えている時、御者が大声を上げる。
「道を開けろ! 王太子妃の選定に参加する女の子を乗せている! 道を開けろ!!」
そうすると群衆は道を開け、御者が大声を出さなくても人々で道を開けるように言い合う。
選定に遅刻すれば大変だと思ったのだろう。
気が付けば馬が通れるほどの幅で、前方への道が開かれていった。
酔っているのか、群衆からクラーラに声援を送る人もいた。
「頑張れよー!」
「未来の王太子妃様ー!」
「王子の心を射止めてねー!」
クラーラは顔を赤くしたが、見ず知らずの自分を応援してくれている人が、たくさんいることに嬉しくなる。




