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 宝石を取り扱う店が建ち並ぶ通りに二人はいた。


 鉱石の宝石と、法陣結晶の宝石の店が一目で判別できるよう、明確にされていた。


 鉱石の宝石店は図形化された宝石の看板が、法陣結晶の宝石店は図形化された宝石の外側に法陣が描かれた看板が掲げられている。


 店の前を通ったことはあるが、中に入ったことは初めてであるクラーラ。

 目に映るものすべてが新鮮だった。

 今までに他人の生成した宝石を目にしたのは、ハンナとジルケディアの二つだけだったからだ。


 それだけではない。

 宝石の隣に効果と使用された法陣の説明も簡単に書かれており、宝石を生成する上でとても勉強になる。

 初めて目にする魔術言語にも心を躍らせ、自分なりに予想しながら法陣を見ていた。

 店頭に並んでいる宝石に気を取られていることに気が付くクラーラ。



 い、いけない! アルが希望する宝石を探さないと!

 それに、旦那様に見つかる可能性だってあるのだから、気を付けなければ。



 宝石を探している間にシュワルツ伯爵に出会うかもしれない。

 最近は、ジルケディアが王太子妃に選ばれることを予測して、養子を得るために親戚の元へ訪れていると、使用人仲間から聞いている。

 それでも、不安なクラーラは細心の注意を払いながら、アルベアトの所望する宝石を探す。


 しかし、目を皿のようにして探しても、魔力の扱いを訓練する宝石は無かった。


 宝石を真剣に探しているクラーラの元に、アルベアトが小走りでやって来る。


「真剣に探しているところ、すまない。店員に確認してもらったところ、この店では取り扱っていないらしい」


「そうなの……残念ね」


 でも、宝石を扱う店はここだけではない。


「気を取り直して、次のお店に行きましょう!」




 その後、二店舗目、三店舗目と回ったが、アルベアトの希望する宝石を見つけることはできなかった。


 どの店も、主に取り扱っている宝石は三種類。

 水、火、風などの自然を操る、生活を少し便利にする法陣を使ったもの。

 怪我をしている体を癒す、自然治癒力を高める法陣を使ったもの。

 野生動物や魔物を忌避する、護符のような効果を持つ法陣を使ったもの。


 魔力を制御、封印するものなら取り扱っている店もあるが、魔力の扱いを訓練するものは無かった。

 そもそも、強大な魔力を持つ者自体が珍しいので、需要の見込めないものは取り扱っていないのだ。


「――そうですか。ありがとうございました」


 十二店舗目を出た二人。


「はは、やはり無いか。じゃあ、次が最後だろうか」


 立て続けに自身の希望する宝石が無かったため、アルベアトはなんとなく予想していたのだろう。少し苦笑いしながら次の店を目指す。


 足取りの重いクラーラ。


「……」


 次に向かう店は、シュワルツ伯爵の経営する店だからだ。


 シュワルツ伯爵の経営する店は別格だった。

 一番目立つ場所にある好立地、他の店の約二倍ほどある敷地面積、外観も内装も豪華で、平民を一切寄せ付けない店だった。

 周りを見渡すと、いつの間にか、ほぼ貴族だけになっていた。


 クラーラは店を前にして震える。

 最初からこうなる可能性を予想していたが、別の店で見つかると思っていた。ざっと見ただけで、近くに十店舗以上も建ち並んでいる。一店舗くらいは置いているだろう――と。

 見通しが甘かったことを痛感する。



 店員の方は、私のことを知らない。


 でも、もし、あのお店に旦那様がいらしたら?



 そう思うと、クラーラは店に入ることができない。


 アルベアトは、顔が青ざめていくクラーラを心配する。


「どうした? もしかして疲れたか? 近くに休める場所があるから、そこで休もう」


「だ、大丈夫! 私のことは良いから、アルはお店で宝石を探しに行って?」


「しかし……」


 その時、シュワルツ伯爵の経営する店の扉が開く。


 クラーラはシュワルツ伯爵かもしれないと思い、咄嗟にアルベアトの後ろに隠れる。



 出てきたのは、店員だった。

 今まで入った宝石を取り扱う店のどの店員よりも、明らかに服装が立派だった。

 店員は不機嫌そうな顔をしながら二人を睨む。


 アルベアトは店先で騒いだからだと思い、謝罪する。


「騒いでしまい、申し訳ありません……あの、お店の中を――」


 中を拝見しても、よろしいでしょうか?――そう言おうとした時、店員は二人を罵倒する。


「平民が何を言っている。この店は王太子妃候補と名高いジルケディア様の御父上、シュワルツ伯爵閣下が経営する店だ。 貴族の皆様だけではなく、国王陛下や王太子殿下など王室の皆様だって贔屓にして下さっている。そんな格式高い店に入りたいだと? 笑わせるな! お前らがいるとお客様のご迷惑になる! 帰れ!!」


 二人に罵声を浴びせた後、店員は中に入っていった。


 呆然とする二人。

 経営者と同じように気位が高いようだ。

 再び、店員に罵声を浴びせられては、たまらないとばかりに、足早に店を離れる。


「驚いた。まさか、あんなに怒鳴るなんて……。でも、良い勉強になった」


 そう言っているが、アルベアトは冷や汗をかいていた。

“平民”として市井に降りたことのない彼にとって、かなり衝撃的な体験だったのだろう。

“平民”という理由だけで怒鳴られるなんて思いもしなかったからだ。

 王宮の中で勉強しているだけでは、決してこの気持ちは理解できない。

 なんにせよ、アルベアトは父親――国王のいう“社会勉強”ができた。


 アルベアトを警護している者も近くに待機しているのだろうが、助けに来る素振りを見せない。

 本当に身の危険が及ぶ場合以外、見守ることに徹しているらしい。

 将来、国王になる者。そんな些細なことで救助するわけにはいかないと考えているのだろうか。

 それとも、平民に偽装しているのだから、勘違いされても仕方がないと考えているのだろうか。

 息子に“社会勉強”をして来るよう言ったあたり、国王の命令である可能性の方が高いのかもしれない。


 クラーラも罵声を浴びせられたからか、鼓動がいつもより早い。

 しかし、追い返されたことに安堵していた。



 アルには悪いけど、追い返されて良かった。

 旦那様にお店の中で会っていたかもしれないから。

 でも、そうなるとアルの希望する宝石が見つからないままになってしまう。



 不正を隠していることではない、別の罪悪感に(さいな)まれていた。


 クラーラはアルベアトに、ある提案をする。


「ねえアル」


「なに?」



 差し出がましいかもしれない……でも、少しでも役に立つのなら――



「私に、貴方の宝石を生成させてもらっても良い?」

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