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アルベアトと王都の城下町を楽しむクラーラ。
香ばしく焼き上げられた加工肉は噛むごとに肉汁が溢れ、咀嚼を繰り返すと、より深い味わいを堪能することができる。付け合わせの一口大に切られた芋も、よく蒸かしてあるからか柔らかい。甘みと塩気が、口の中でほろほろと崩れていくのを味わった。
細長い生地を丸く形作ったパンは顔の大きさほどもあり、二人で分けて食べることに。もっちりとした弾力が魅力で、表面の岩塩による塩気で食べることを止められない。
果汁を炭酸水で割ったものは、とても清涼感があり、口の中がシュワシュワと溶けていく感触が楽しい。その感触を何度も味わいたくて、二杯も飲んでしまった。
食事を楽しむうちに、ある程度親しくなったからか、クラーラは恐る恐るアルベアトの愛称を呼んでいたが、今は友人のように呼んでいる。愛称で呼んでいるうちに、つられたのか、いつの間にか敬語ではなくなっていった。
その変化に気付いたアルベアトは嬉しくなる。
二人の相性が良いのか、傍から見ると、つい先ほど出会ったばかりには見えなかった。
腹を満たした二人は店先に飾られている食器を見る。そこには、様々な模様や植物が描かれていた。一つひとつ、丁寧に手作業で細かく描かれており、料理が盛り付けられても存在感を放つだろう。
その隣の店では、愛らしい熊のぬいぐるみが飾られていた。手を挙げて見つめている様は、二人に挨拶をしているようだった。店の中を見てみると、両親に買ってもらったのだろう、小さな女の子が自分の髪と同じ色の熊のぬいぐるみを、嬉しそうに両手で抱えている。
クラーラは再び家族のことを思い出し、少し表情が曇る。
アルベアトも彼女の表情を見て、徐々に笑顔が消えていった。
大通りを歩く二人。
アルベアトはクラーラを気遣う。
「大丈夫? 少し休憩しようか?」
「いえ、大丈夫。心配させてしまって、ごめんなさい」
そう答えるが、クラーラの表情は晴れない。
二人は少し歩き、再び噴水のある広場へ。
アルベアトがそこのベンチに腰掛けると、クラーラも隣に腰掛ける。
クラーラはアルベアトの気遣いに感謝すると同時に、申し訳なく思う。
内容は分からないが、まだ、アルベアトの用事を達成していない。
また、気を遣わせてしまった……。
「散策しただけなんだけれど、アルの用事は良いの? どのような用事か分からないけれど……」
「あぁ、僕の用事は法陣結晶――“宝石”を探すことだ」
「宝石を?」
「そう」
アルベアトは肯定する。
「僕は通常より遥に魔力を多く持っているらしい。でも、未だに力を制御できなくて、満足に魔力を扱うことが出来ない。だから、魔力を制御する練習のできる宝石を探している。幼い頃から使っていたものは魔力に耐え切れず、割れてしまったからな」
クラーラはアルベアトがシュワルツ伯爵領に訪れた時のことを思い出す。
家庭教師のハンナに何度も質問するほど勉強熱心だった。もしかしたら、自身の魔力を制御するための努力の一環なのかもしれない。
魔力を制御する宝石や封印する宝石ではなく、魔力を制御する訓練のできる宝石を探しているあたり、努力家なのだろう。
道具に頼ることなく、最終的に自分の力で魔力を制御することを望んでいる。
アルベアトに時間を遣わせてしまったことを、改めて申し訳なく思う。
「ご、ごめんなさい……私のせいで……」
アルベアトは苦笑いをする。
「気にするな。迷惑なら、とっくに言っている」
それに――とアルベアトは言葉を続ける。
「身分を忘れて遊んでみたかったからな。遊ぶ口実が欲しくて、市井での宝石探しを理由に許可をもらったんだ。父からは『ついでに社会勉強もしてこい』って」
クラーラは納得する。
国王は“平民”を体験してくるように命じたのだ。
“王太子”と“平民”では見える世界が違うのかもしれない。
未来の国王として軽率な行動かもしれないが、国民の生活を勉強するには丁度良いのだろう。
「見つからなかったら見つからなかったで、従来通り、宝石生成のできる者に依頼すれば良いだけだ。」
アルベアトは立ち上がる。
「ありがとう、クラーラ。君のおかげで、楽しく過ごすことができた。結婚したら、こんな時間を味わうことは叶わないだろう」
そろそろ、帰らなければならない時間なのだろう。
表情は少し悲しげだった。
一週間後、王太子であるアルベアトのために、王太子妃の選定が行われる。
そうなると益々、未来の国王としての自覚を持つことを求められ、より自由を制限されるだろう。
今も、護衛が一般人に紛れてアルベアトを見守っているはず。
早く王宮に帰すべきだと理解しつつも、できれば、もう少しだけ叶えてあげたい。
少しの間だけでも、『アル』でいられる時間を延ばしてあげたい。
立ち去ろうとするアルベアトに、クラーラが呼び止める。
「待って!」
振りむくアルベアト。
クラーラはアルベアトを呼び止めたは良いが、どうすれば良いかまでは考えていなかった。
なので、アルが市井に降りるための“遊ぶ口実”を利用した。
「まだ、希望している宝石は見つかっていないのでしょう? 私で良ければ、宝石探しの手伝いをさせて?」
クラーラの意図を汲み取ったアルベアト。
宝石探しの手伝いを買って出たことに驚いたが、クラーラと散策した時間が楽しかったので、過ごす時間が増えることに嬉しさを感じた。
「クラーラが良いのなら喜んで」
アルベアトは笑顔で了承する。
再び、『アル』としてクラーラと共に宝石探しの、ちょっとした冒険に出る。




